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どこにでもいそうな令嬢が幸せになるまで  作者: 猫宮蒼


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25/26

幸せまでの距離



 帰宅したクロエを出迎えたのは言うまでもなくポーラだった。

 その表情には焦りが浮かんでいた。


「お姉さま……一体どこまで行っていたのですか……っ!?

 またどこかで事故に遭っているのではないかとわたし、心配しました……っ!」


 あぁ、とクロエは内心でさてどう切り出したものかなと考える。

 買い物に行こうとしていたのに、結局予定していた買い物はできなかった。


 馬車で直接家まで送ろうとしてくれたけれど、それは断って家の少し近くで馬車からは降りたのだ。


「ごめんなさいねポーラ。

 疲れているとは思うのだけれど、少し、話をしましょうか」

「お姉さま……?」


 あれこれ考えたところで言うべき事が変わるわけでもないし、言葉を選んだところで意味が変わる事もない。

 取り乱しかけていたポーラを座らせて、クロエは単刀直入とばかりに切り出した。


「公爵家で事情を聞きました。私たちの現状も、何もかも」

「え――?」


 何を言われているのかわからない。

 そう言いだしそうなくらいにぽかんとした表情で、ポーラはクロエを見上げた。


「ポーラ、話をしましょう」


 そんなポーラにクロエはもう一度、念を押すように同じ言葉をかけた。



 ――思えばお互いに腹を割って話す、というような事をしたことはなかったかもしれない。


 クロエにとってポーラはある日突然できた母親違いの妹。異母妹。

 ポーラにとってもある日突然できた姉だ。


 違うのは、ポーラは愛されていたけどクロエは愛されていなかったこと。


 クロエは母親には愛されていたと思うけれど、母の死によってクロエを愛してくれた人はいなくなったと言ってもいい。


 結果としてクロエを愛していない父と、クロエとは血の繋がりもないため愛する必要性を感じていない義母がクロエの新たな家族となってしまった。

 ポーラにとってはどうだっただろう。

 自分を愛してくれる両親。そこに突然できた姉。

 姉の事を異物として排除しようという気持ちになっても何もおかしな事はなかったはずなのに。


 けれど二人は、半分しか血の繋がりがなくとも仲の良い姉妹になれたと思っている。


 それが少しずつ形を変えたのは、髪飾りの件だろうか。


 あれがなければ、きっとポーラはもっと無邪気に自分を姉と慕ったままだっただろうし、クロエも思うところがないわけではなくともポーラに対して悪い感情を持つことなく、それなりに姉妹として――上手くやっていけたと思っている。


 けれどあの髪飾りの一件で。

 ポーラは自分の不用意な発言のせいで、クロエが傷つく事になってしまったのだと。

 実際クロエを傷つけたのが父であっても、切っ掛けを作ったのは自分なのだと。

 そう、思い込んだ。

 それは幼い心には深い傷となって残り、その償いのようにポーラはクロエを守ろうという決意を固める結果となった。


 結果としてクロエはそれに助けられてきた。

 それは事実だ。変えようのない確かな事。


 けれどもそれは、妹であるはずのポーラがまるでクロエの母親のように彼女を守る形となっていたと言えなくもない。


 ポーラが何も言わなければ、クロエにはまともな貴族令嬢としての教育など受ける事すらされなかっただろうから。クロエの母が生きていた頃に習っただけの、中途半端な知識だけでそれ以上の事を学ばせてさえもらえなかったのであれば、いずれ平民として生きていくしかなかっただろう。


 結果としてクロエは貴族令嬢としての教育を受ける事が許されたし、それによってカインという婚約者ができた。

 それを自分の不注意というか、後先考えない咄嗟の行動で台無しにしたのはポーラのせいではないのだ。


 セオドアの事もモーリスの事も当時は知らない相手で、ただ仲の良い子たちだなとしかクロエは思っていなかった。

 少しだけ、幼かった頃の自分たちを思い出したというのもあったと思う。

 だからなのだろう。見捨てることができなかったのは。

 もし見捨てていたのなら、クロエは何事もなく卒業した後カインの家に嫁いでいったのだろう。


 けれどそれは、カインの友人であるアルベルトが悲しむ結果となっていたし、ポーラがヒューゴと結婚した時、彼もまた弟を失うという事で心に傷を負っていたはずだ。


 それはクロエにもポーラにも関係のない事、と言ってしまえばそれまでだけど。

 けれど、クロエはさておきポーラはそれで果たして幸せになれただろうか……? とも思ってしまうのだ。


 最初から彼らの事を知っていたわけではなかったとしても。

 それでも、助けた事は間違いじゃなかった。


 もし、神の奇跡でも起きてあの日あの場所に戻ったところで、きっとクロエは同じように二人を助けただろう。結果としてまた自分が四年も眠り続ける事になったとしても。

 ポーラをそれで悲しませ、思いつめるような事になったとしても。


「ポーラ。もういいの。

 もう、私を守ろうと頑張らなくてもいいの」

「え……?」

「貴方には充分守ってもらったわ。これ以上、自分を犠牲にして私を守らなくてもいいの。

 妹の貴方に守ってもらう頼りない姉だったけれど、そんな私の事をそれでもカイン様は待っていてくれた。

 だから」

「だから、わたし、もう必要ない……?」

「いいえ。そんな事ないわ。ポーラは私にとって大切な家族だもの。いらないなんて事はないの。

 けど、お姫様と騎士みたいな関係じゃなくて、私はポーラとは普通の姉妹になりたいの。私を守る役目はカイン様に任せて、ポーラはポーラとして幸せになってほしいと思っているし、そんなポーラと私は姉妹としてこれからも仲良くしていきたい。

 ……都合の良すぎる言い分かもしれないけれど」

「わたしの事、いる……?」

「もちろんよ。フィーリス家の中で私が家族と呼べるのは、亡きお母様とポーラ、貴方だけよ。

 お父様とは昔から関わりが薄かったし、ポーラのお母様とは私、仲良くできなかったでしょう?

 エイミさんからすれば私と仲良くする必要なんてなかったから、っていうのもあったのでしょう。あの人からすれば、私は愛する男性を奪った女が生んだ子、という存在ですもの」

「それは……っ」


「でもねポーラ。よく考えて。

 親のしがらみに私たちがいつまでも付き合う必要なんてどこにもないの。

 私のお母様とお父様は政略結婚だった。そこに愛なんてなかったかもしれない。そしてお父様には他に愛する人ができたとしても。

 でもそれ、私やポーラに関係ある? 私たちが生まれる以前の話よ?

 愛のない結婚も、好きな人と結ばれなかった事も、私やポーラが何かしたせいでそうなったわけじゃない。


 あの人たちのせいで私は家族から愛されるという事を諦めた。

 ポーラだってそのせいで私に余計な気遣いを発揮しなきゃいけなくなったのよ。本来なら妹の立場の貴方は、もっと自由に振舞ったって許されるはずだったのに。姉より姉しなきゃいけなくなったの。

 私の立場が低いばかりに、そんな私を守るために貴方は姉のように、母のように私を守る事になった。

 あの人たちの顔色を窺って、我侭がギリギリ許される範囲を見定めて。


 そのおかげで私、たくさん助けられてきたわ。

 でもね、でも。


 私はそのせいでポーラの人生を消費したくないの。

 母にしろ姉にしろ、子供が、妹が嫁ぐとなれば今までみたいにずっと守ろうとしなくたっていいの。

 ポーラ、貴方だってもっと自分の幸せを考えて、そうなるように動くべきだわ。

 今まで枷になってた私が言えた義理じゃないとは思うけど、それでも」


 そこまで言って、クロエはそっと手を伸ばした。

 小刻みに震えるポーラの手を取る。


「私の事をね、カイン様は待っててくれた。目覚めるかどうかなんてわからなかったのに。目が覚めても私、お荷物になりそうな気しかしないのに、それでもカイン様は構わないと。

 それにね、私……気付いたのよ。私、カイン様の事自分で思っていたよりもかなり好きだったみたい。

 あれから四年が経っていて、てっきりもうカイン様は他の誰かと結婚したのだと思っていたの。そう思って、諦めようとしていたの。

 でもね、実際にカイン様に会って、私を待っていてくれたって聞いて。

 諦めようと思ってた気持ちが抑えられなかった。諦めるのは嫌だって、思ったの」


「……おねえさまは」


 小さな声だった。

 よく耳を澄ませていなければ聞こえないくらいに小さな声だった。


 迷子が途方に暮れた時のような、不安気な呟き。


「おねえさまは、それで、幸せに、なれますか……?」


 泣きそうな声だった。

 クロエを見る目は不安に揺れていた。


 先程ポーラが必要じゃなくなったわけではない、と言ったけれど、それでもポーラは信じきれなかったのだろう。


 そんなポーラを見て、クロエはふっと息を吐いた。


 いつもいつも本当なら必要じゃない気遣いばかりしてきた。姉なのに妹みたいに守られて。妹なのに姉のように守るしかなくて。母親が違うのも、余計な気を回す結果になったのかもしれない。


 でもこれからは。


 この先もずっとお互いに余計な気遣いを続けても、いずれどこかで破綻する。

 そもそも、既に破綻しかけている。

 クロエが強くなるにはフィーリス子爵家という場所で過ごす以上どうしたって難しかったし、ポーラが無邪気なままでいられるのもあの家では無理だった。

 あの場所は確かに自分たちの家だったはずだけど。

 それでも、あまりにも息苦しすぎた。


 今いるここは、あの家じゃないのに。


 だからこそクロエは――



「知らないわそんな事」


 この息苦しさをぶち壊すべく。


 きっぱりとそう言い切ったのである。



「……え?」


 てっきりカインと結婚すれば幸せになれる、とクロエが言うとでも思ったのだろう。


 まぁ、普通に考えてそうだろうなとクロエだって思う。

 カインの事は家を出る切っ掛けになるだろうと思っていたし、そういう意味では彼を利用しようと思っていたのもある。そうでなくとも、クロエは平民になってでもいっそあの家を出ていこうと考えていた事だってあったのだ。


 そこに都合よくカインが話を持ち掛けてきたからこそ、乗ったに過ぎない。


 学生時代、カインと婚約した後それなりに交流してきた。

 仲は悪くなかったと思う。あの頃のクロエは、カインの事を嫌ってはいなかったし、むしろ好ましいと思っていた。


 けれど、それでも心のどこかでそっと一線を引いていたのだと思う。

 そのせいで、自分の気持ちに自分自身が気付けなかった。


 きっともう他の誰かと結婚したに違いないだとか、そんな風に思うような暇は今まであまりなかったけれど、デュッセン公爵家に招かれてそこでカインと再会して。

 今まで自分自身目をそらしていた部分に嫌でも気付かされた。


 自分で思う以上に、自分はあの人を好いていたのだ……と理解したのだ。


 だがしかし、それとこれとは話が別だった。


「勿論幸せになるつもりよ。不幸になるってわかってる道を選んだつもりなんてないもの。

 カイン様が私の事を待っていてくれて、私もカイン様の想いに応えたい。それは確か。

 四年も無駄に寝てたせいで私色々と朧げな部分もあるからすぐに伯爵夫人になってちゃんとできる気はしないから、きっとそれなりに苦労することにもなるだろうけれど、でも、いつかは幸せだった、って胸を張って言えるような人生になればいいとは思っているわ。


 でもね」


 宥めるようにポーラの手に重ねていた自分の手で、ポーラの手をぎゅっと握りしめる。


「う、うん……?」


「その部分に関しては私とカイン様の努力次第だけど。

 私の幸せにはそれ以外の要因も含まれるの。


 それはねポーラ、貴方よ」

「わたし……?」


「そう。ポーラだって本当は結婚相手がいたのに私のせいで爵位売って結婚はなかったことに、なんてやらかしたみたいだけど、でも実際爵位は売られたわけじゃない。私も貴方も平民じゃなくて子爵家の人間のまま。

 私がカイン様のところに嫁いだら、貴方はどうするの?

 あの人だってずっとポーラを待ってるの。

 貴方の気持ちが……いえ、心が癒えて前に進める日が来るのを。


 私が結婚してカイン様のところに行った後、貴方はどうするつもりなの?

 まだ平民だと思ってそうやって生活していくの?

 それを貴方が望むならそれでもいいかもしれないけれど。でも私たちの生活って、貴方の仕事に関してもレザード家やデュッセン公爵家、更にはロシュフータ家も何気に裏で手を回して関わってたわけでしょう?


 言ってはなんだけど、かなり本格的な平民暮らしを体験してるだけ、と言えばそうなっちゃってるわけで」


「それは……」


 ポーラはそこでクロエからそっと目を逸らした。


「私が幸せになるにはね、私がカイン様のところに行くだけじゃダメなの。

 ポーラ、貴方も幸せになってくれなきゃ私幸せになれない。

 貴方だってヒューゴ様の事、好きだったんでしょう?」


 ポーラが自分で選んだ相手。

 あの時のポーラは親に対する嫌がらせも兼ねて……といった感じではあったけれど、それでもポーラはそれだけで選んだわけじゃない。

 クロエはそれを理解していた。


「お誂え向きに明後日はお仕事が休みの日よね。

 私ね、公爵家で言われたのよ、ヒューゴ様に。

 貴方を幸せにする機会をくださいって。

 少し時間をくださいって言っておいたから明日一日じっくり考えて明後日、会ってらっしゃい。

 ちなみに私はポーラの事をよろしくお願いしますって言っておいたから」


「えっ……!?」


 先程、もう自分はいらないのではないか、と思って不安から目にうっすらと涙が浮かびかけていたポーラであったが、あまりにも展開が早すぎて、何を言われたのかわからなかった。

 思わず目を瞬けば、睫毛に涙がついたのを感じる。

 睫毛についた涙が視界に時折ちらついて、まるで星のような錯覚を覚えた。


「……とりあえず、ご飯にしましょう。あまり凝った物は用意できないけれど」


 クロエがそう言っても、ポーラは動かなかった。

 間違いなくまだ頭の中で情報を処理しきれていない。

 いや、それどころか――


「え、明日じゃなくて明後日……?

 わたし、明日まともにお仕事できるかしら……」

「私が言えた義理ではないけれど、頑張って」

「お、お姉さま!!」


 自分の気持ちと改めて向き合うにはきっと時間が足りないかもしれないけれど。

 ポーラなら大丈夫だとクロエは信じている。


 ……翌日仕事から帰ってきたポーラは平静を保つ事ができずいくつかの失敗をしてしまったようだけど。

 それでも、覚悟を決めたようなので。



 遅くなったし遠回りもしたけれど、ヒューゴとポーラは無事に結婚するようだった。




 ――結婚式を挙げるにしても、クロエもポーラも果たして学生時代の友人を呼んで来てくれるだろうか、という疑念はあった。

 クロエは途中で事故に遭い、そのまま入院をして休学状態での卒業。

 ポーラは勢い余らせて卒業後に爵位を売った――と思い込み平民生活。


 学生時代の友人たちは一足先に嫁いだり家の跡を継いだりして社交に出たりしているはずだ。

 クロエがポーラにそこら辺に関して聞けば、ポーラは平民になった以上友人とも疎遠に……とか言い出したので。


 これ今更招待して大丈夫かしら……とクロエは悩む事になったのである。

 もっともその悩みだってカインがそこら辺の事情は社交界で既に噂として広まってるからむしろ招待したらいそいそやって来るんじゃないか、と言われてしまった。


 ポーラが本当の意味で平民となったのであれば貴族のままの友人たちとは疎遠になってもおかしくはない。

 けれど実際のところ、クロエとポーラの事はデュッセン家やロシュフータ家、それからレザード家がそれとなく事情を話していたし、友人たちもまたそれぞれがクロエの事は心配だしお見舞いにも行きたかったけれど、ポーラを刺激してこれ以上暴走させないようにしよう……との事で見守り体勢に入っていたと聞かされてしまえば。


 呼ばなかったら後日どこぞで開かれたパーティーで出会った時に色々言われるだろう。

 それがわからないほどクロエは貴族としての生活を忘れたわけではない。

 それに。

 友人たちは皆優しかった。


 心配をかけていたのなら、ちゃんと無事である事を知らせるべきだ。


 家の事情とかで呼んでも来れない相手はいるかもしれないが、一先ず学生時代の友人たちには結婚式の招待状を届けたいのだ、とクロエがカインへ言えば、カインは少し考えた後――


「ポーラの方も同じように呼ぶ相手がかぶりそうだし、それならいっそ向こうと一緒に式を挙げた方がいいかもしれないな」


 なんて言い出したのである。


 平民の結婚は式を挙げる事ができるわけでもない、あまり裕福ではないところだと教会で纏めて結婚しました、という略式的なものをやる、と聞いたことはあるけれど、貴族でそういった複数で一斉に……というのは聞いたことがない。

 まるで平民みたいな事を、と馬鹿にされるのが自分だけならいいけれど、カインまでそう言われたりはしないだろうか……とクロエが言えばカインは問題ないときっぱり言い切った。


 どのみち招待客が被る。

 下手に日数をずらして式を行うとなると、領地から遠路はるばる……なんてところもあるし、式が終わって戻った矢先にまた呼び出されるような事になればむしろそちらの方が面倒でしかない。

 それなら最初に事情を説明した上で、姉妹の合同結婚式と銘打ってしまえばいい、その方が効率的だし。とあまりにもあっさりと言うものだから。


 そんなんで本当にいいのかしら……? と首を傾げながらもクロエはそこまで言うのなら……と頷いてしまったのである。

 招待状はクロエとポーラから、というよりは纏めてカインの名前で出す事にした。

 この中では一番事情に詳しくて、ついでに何だかんだ学生時代の友人たちとそれなりに関わっていたからである。

 クロエは正直何をどう書けばいいのか悩んでしまったし、ポーラだって実のところ爵位を売ったつもりで売ってなかった、というオチがついてしまった事で、ちょっとどういう顔をして招待状を送ればいいのかわからなくなっていたのである。


「安心しろ、フィーリス家の事情はそもそも学生時代にポーラが散々話していたから今更だ」

「今更、ですか……?」

「あぁ、フィーリス家の家庭事情なんて今更すぎるし、ポーラの奇行は今に始まった事じゃないだろう、と周囲は思っている。なんだったら、姉が回復するまで自分も平民として苦労して願掛けをしていると思っているのもいたぞ」

「えぇ……っと……ポーラってそんなに奇行してましたか?」

「それなりに」


 あまりにもさらっと言われて、それって余計にどういう感情で顔を見せればいいのだろうか……? なんて思ってしまったが。


「まぁ、概ね皆待っていたよ。

 いつ社交界に復帰するのか、とね」

「復帰も何もまだろくに参加すらしていないのに?」

「彼女たちの中では復帰らしいぞ」


 クロエは学生時代の友人たちの顔を思い浮かべた。

 お茶会には何度か参加させてもらったけれど、あれを社交と呼んでいいかは微妙なところだ。


 けれども、それでも友人たちはクロエとポーラとの出会いを待ってくれているのだと言われてしまえば。


 なんだかそれだけで胸がいっぱいになるのだから、案外現金なものだ。


「……私、式までにもっと体力つけていかにも返り咲きました、みたいな感じで頑張りますね」

「……程々にな」


 何を言ったところでクロエが頑張るのは止められない――とでも思ったのか。

 カインは苦笑混じりにそれだけを言った。

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― 新着の感想 ―
クロエとポーラは学生時代のお友だちたちには『なんかおもしれー姉妹』と扱われていた可能性がゼロではない事態に…?? 姉妹なのに同じ学年にいて病弱設定の割には元気な姉と時間があれば姉にひっつこうとする妹は…
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