7. 美香 side ②
この時の私を振り返ると、美神さんに一目惚れしてしまったんだと思う。 リビングで座る私に対峙してママが座り、私の隣りに座る美神さんが、私の右手を優しく握ってくれた。 美神さんから離れられなくなった私は、美神さんの傍に居たかった。 「美香を苦しめている性格は、ママの所為だと思うの。ママも美香と同じ性格だから」と、自らを責めるママからの告白で、私達の話しは始まった。 「ママが小学生の頃、この性格が災いして、周囲には馴染めなかったママは、いつも泣いてばかりだった。嫌がらせが次第に虐めへとエスカレートしていった時に、ママは美香の隣りにいる彩香から助けられたの」と、ママから語られた衝撃的な過去を聞いた私は、思わず美神さんの顔を見てしまった。 私からの視線に気が付いた美神さんは、ショックで青褪めたであろう私の顔を見て、優しく静かに頷いた。 「身を挺してママを庇ってくれた時から、ママと彩香は大親友になれたの。小学生・中学生・高校生になっても、ママの傍にはずっと彩香がいてくれた」と、美神さんと出会ったきっかけを語るママに、美神さんは少し照れるような微笑みを浮かべた。 そんな美神さんに私は、「怖くなかったんですか?もしも自分がママの代わりに、虐められるかもしれないとか、傷付けられるかもしれないとか…」と、「かわいい美輝と友達になりたかった私は、傷付けられて泣く美輝を、黙って見過ごせなかった…。私も美輝の傍に、ずっといたかったの…。ずっと美輝の傍で、友達でいられるならって…」と、身を挺してママを庇い続ける美神さんがかっこよかった。 庇い続ける美神さんの気持ちを、今初めて知ったママは、「私…、彩香のように強くなりたかった…」と。 ママの両眼から頬を伝って流れる涙を、伸ばした右手の人差し指で拭う美神さんは、「泣かないで、美輝…」とポツリと呟いた。 美神さんの優しさに触れられたママは、「ありがとう…、ありがとう、彩香」と、自らの両手の指先で両眼から溢れた涙を拭った。 「そんな彩香が高校3年生の頃、女子プロレスラーデビューした時、彩香がママの手の届かない存在になってしまって、凄く寂しかった…。でもあの当時から、ママは彩香の大ファンになったの」と、過去を語るママの言葉で、美神さんが女子プロレスラーだと初めて知った。 「敗け続けても一生懸命に闘い続ける彩香が、美しくてかっこいい…」と、ママから語られる闘う美神さんを想像する私に、「美香。美しくてかっこいい彩香を観に行こう」と、ママから誘われた私は迷う事無く、「うん、観たい!」と答えた。