出会い
……いやな、夢を見た
キーンコーンカーンコーン
「では以上で授業を終了します。課題は必ず明日までに提出するように」
「きりーっつ、れー」
俺は家では滅多に寝ない。
故に学園は睡眠をとることができる唯一の場所である。
「おいソン。起ーきーろー」
「……おはよう」
俺を起こしたのは佐藤 勝美。
生徒会で会計をやっている。
「授業中寝てばっかで会長は務まらんぞ」
緑ヶ丘学園生徒会長を務めているのはこの俺、榊 尊。
この学園では強制的に部に所属しなければいけない。
そんなことを知らなかった俺は入部届け提出日を過ぎてから、空席であった生徒会部の会長となった。
「ミコトー、生徒会始まるわよー」
書記の二階堂 真子につれられて向かうのはもちろん生徒会室。
県の税金をとてつもなくつぎ込んでいる学園のため、無駄に生徒会専用校舎がある。
たった6人しかいない生徒会部のためにご苦労なことだ。
「はい、今年の部費予算案。ハンコよろしくー」
「おいおい……多くないか?」
副会長の成瀬 琴美の差し出した書類は厚さ10センチほど。
部は俺の知る限りこんなにないはずだ。
「だって学園長用のプリントと、職員全員分のプリントと、PTAのほうのプリントで結構あるでしょ~。それの部数だからこんなもんよ」
「副会長~。とりあえずこんだけ終わらせたぜー」
勝美は仕事に取り掛かるのも終わらせるのも早い。
「さすがね~会長変わっちゃえ」
「変われるもんなら変わってくれ」
俺は帰ろうと席を立った。
「はーい、ちょっと待ちなさい」
「なんですか?副会長」
肩を押され座り直される。
「今日このあとみんなでカラオケ行くから仕事ちゃんとやりましょうねっ」
笑顔で語りかけてくる副会長は確かに美人だが、怖い。
「川崎と谷口は何でいない?」
「あの二人は昨日のうちに仕事終わらせてるからいいわー。今頃一緒にゲーセンだと思うわよ」
「女ふたりでゲーセンねぇ……」
仕事を終わらせた勝美と二階堂は有意義に紅茶を飲んでいた。
たかがハンコを打つだけとはいえ、同じ作業をしていると面倒になってくる。
そんな作業もやっと終わり、時計を見ると5時前だった。
「さぁパーッとストレス解消に行きますか!」
「「おー!」」
二人は待ちくたびれたと言わんばかりに部屋を出て行った。
終わったばかりの俺はとりあえず休みたかったのだが、行動の主導権は副会長。
逆らうわけにもいかずについていくことになった。
毎度のことだが俺なんかより副会長が会長やったほうがいいと思うんだが……
「副会長と一緒だとやっぱり歌いやすいわ~」
「ないない、真子の足引っ張ってるのあたしよ」
毎度のことながら男は歌わない。
何のためにカラオケに来ているのか。
次から次へと予約を入れる女の間に割り込めないわけで……
「あーそろそろ時間だな。出るか」
そんな感じでいつの間にか終了時刻と、いつものパターンだ。
「んじゃあたしら車だからまたね~」
「うぃー。んじゃ勝美よろしく」
「はいはいっと」
俺は勝美のスクーターにまたがる。
外はもう薄暗くなっていた。
肌寒い季節、日が落ちるのも早くなってくる。
「なんだなんだ」
勝美はスクーターを止めた。
声のするほうを見ると、大勢の人だかりができていた。
どうやら謝って建物に車が突っ込んだらしい。
「おいおいやめとっけって……って、もうソンいねぇし!」
俺は車のほうへと駆け寄った。
「大丈夫か?」
「……あぁ…」
車内の人は無事のようだ。
あとは建物の中の人だが……ここは何だ?
この時間に電気もつけずに真っ暗だ。
何かの研究所だろうか?
あたりにはビーカーや試験管が転がっている。
好奇心からか奥へと行きたくなった。
進んで行くと、あかりの漏れている部屋があった。
もちろん救助に近い行為なので身構える必要はないのだが、とっさに身を隠した。
なぜかはわからないが入ってはいけない気がする。
そっと扉に触れた。
「ここで何をしている」
後ろから声がかかった。同時に頭に冷たくて硬いものが当った。
――拳銃
「く、車が衝突していたから救助に着ただけだ」
「……中を見たか?」
中?この部屋の中だろうか。
「いいや、まだ入っていない」
「じゃあとっとと帰れ。失せろ」
「あ、あぁ……しかし状態では帰れない…出口まで連れて行ってくれないか」
俺はこのまま帰る気などなかった。
どうしてもこの扉を開けたかった……いや、開けなければいけない気がした。
「いいだろう、ついて来い。ただし妙なマネをしたらすぐにこいつで……」
今だ――!
バタンッ
部屋に入り、すぐさま鍵を閉めた。
「てめぇ!出て来い!」
男が凄い勢いで扉を叩いている。
しかし俺にはそんなことどうでもよくなった。
部屋に圧巻されていた。
まるで漫画やアニメに出てくるような巨大なホルマリン漬けがあったからだ。
ただのホルマリン漬けではない。
その中にいたのが人間の女であることに目を疑わずにはいられなかった。