ボクと、冴子さんと、過保護な黒髪メイド(12)
リコさんに話を聞いた。
この指導員さんの名は、太郎吉先生。
年齢は還暦くらい。
元は小学校の先生だったらしい。
太郎吉先生の仕事机の横には、
本箱が置かれている。
教育書や小学生向けの問題集がぎっしり。
「境界知能のの問題は、放置できない。
なぜだかわかるか?」
リコさんが続ける。
「『短期記憶』が弱いということだ。
例えば、34×3を筆算で解くとどうなる。」
「まず、一の位を計算、3×4=12、
十の位3×3=9と、くり上がった10を足して100。
全部で102でしょ。」
「見事だ。解法過程まで言語化できている。
ところでその解法過程、
それ自体が子供にとって一時的に記憶できないと、どうなると思う?」
『一時的に記憶』?どういうこと?
「ヒトは計算するとき、
今の解法過程を心に浮かべながら計算していくから、
計算ミスを減らすことができる。
ところが心に浮かべられず、
あるいは浮かんでもすぐ忘れていくとしたら、
計算はできない。」
「計算だけではない。
文章の音読の際にも、
音読した直前の情報をすぐ忘れるようだったら、
物語のあらすじが把握しにくなったり、
説明文の説明が理解しにくくなる。
もちろん、読めなければ、
まとまった文章を書く力もつきにくい。
そうした『学力の根底』を支えているのが
『短期記憶』なんだ。」
難しい話だが、なんとなく理解した(と思う)。
「問題は、勉強に関することだけじゃないんだ。」
太郎吉先生も加わった。