表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/188

低音ボイスと、黒髪ロングのメイドさん

「いやいやいやいや、ようこそわが家へ。

 むさくるしい所ですが、よろしくお願いいたします。」

 さっきまでの態度とは一変、やっぱり美人には目がないわ。

 

 オヤジの好みは「美人」。ここは絶対はずせない。

 そこに「長身」とくればなお良し。オヤジも185cmはあるから

バランスとしては申し分ない。母さんも168cmある。

 

 なんでボクが150cmのちんちくりんなのかは不明。

 ほんとに、ボクはウチの子なのか?

 まあいいや。


 オヤジはちゃっかり、メイドさんの横に座り、

ボクと母さんは向かい側へ。

 職場の写真と一緒。いつも特等席に座りたがる。


 4人が席に落ち着いたところで、

メイドさん、やおらそれまで着けていたサングラスを外した。


 かっけぇー。

 まるで、クワトロ=バジーナ大尉みてぇ。


 オヤジも母さんもこれにはポカンとしていた。







 それから4人ともだんまり。誰も何もしゃべらない。

 どうなってんの。


 たまりかねたのか、母さんが口火を切る。

 「実咲に家庭教師をお願いした方よ。

  名前はえーっと………。」


 またこれだ。忘れっぽいのもここまでくるとわが親ながら情けない。


 すると、メイドさんは、静かにジュラルミンケースから紙を取り出す。


 履歴書のようだ。


 たかが、できの悪い高校生にちょっと勉強を教えるだけなのに、

 履歴書まで用意するなんてそつがない。


 まず、母さんに差し出す。


 受け取った母さん、みるみる顔色が

赤くなったり青くなったり白くなったり。


 何があった?大丈夫か?


 母さん無言のまま、履歴書をオヤジに渡す。


 オヤジ、目を見開いて、動かなくなった。

 死んだ?


 何が起こった?


 「オヤジ、何やってるんだ?しっかりせい!」


 履歴書をひったくる。


 「何だよこれ?」



 名前 梅原 理子 (うめはら りし)  


 性別 男


 ちょっと待て、なにこれ?

 この超絶美人が、男だと?



 オヤジ、気絶してる。


 母さん、気絶してる。


 ボク、絶句。言葉を失う。


 あのさあ、何のジョーク?


 状況を見かねたのか、この人なりに気を遣ったつもりなのか、

メイドさんは例によって、スケッチブックを取り出して何やら書いて出した。


 『リコ 

  で構わない。』


 そこじゃないだろ?と突っ込みたかったが、

まだあぜんとして声が出ない。

 まったく、スケッチブックで会話なんて、

ちょっと昔のお笑い芸人のネタみたいで、

そして美人で無表情。

 何だかわからない。


 魂の抜けている2人は置いといて、

ボクは履歴書の続きに目を通した。


 筑波大学  理工学群  数学類 2年


 趣味・特技 勉強 (何、趣味『勉強』って! )


 「あのー、体育学群って聞いていたのですが。」


 『リコ』さんは、またスケッチブックにサササっと書いた。


 『誰がそんなことを言った?』


 オヤジとボクは、黙って母を指さす。


 「特技は柔道6段、空手5段とか

  趣味は週末のクマ退治とか聞いていたんですけど?」


 『誰がそんなことを言った?』

 さっき書いたのをまた出せばいいのに、

律儀にまた同じことを書いてきた。


 母さんの聞き間違えや忘れっぽさからきているのかも。

 おそらく、デレスケのタケ君を組み伏せた話に尾ひれがついて、

こんな変な噂話になっちゃったのかもね。


 でも、こんな荒唐無稽な話を聞いてもクスリともしない『リコ』さん、

とても男だとは思えないほどメイドっぽい態度だわ。

 むしろ『執事』の方がなかなか似合っていると思ったくらい。


 『ところで、誰の家庭教師をすればいいのだ?』


 あれ?この人、ボクのことだと聞かされずにウチに来たの?


 『せっかくS高という地元の名門校に合格したというのに、

ちーとも勉強しないデレスケ野郎の尻を蹴っ飛ばしてほしい

との依頼だったが。』


 この人、すごいスピードで書いているのに達筆だわ。


 「そのデレスケ野郎は、ボクなんですけど」


 『キミはその、女なのか』


 「女です。」ちょっと腹が立って、棒読みで答えた。

 アンタ人のこと、言えたものじゃないと思うけど。


 これには、さすがのリコさんも、少しは動揺したようだ。


 ちょっと考え込んだあと、こう書いた。


 『女の尻を蹴る趣味はない。』



 「そこじゃないんですけどー。ぜひとも家庭教師、おねがいしますぅ。」


 母さん覚醒。ようやく現世に戻ってきてくれた。まあ、良かった。


 『そんなことより、

  茨城県立高校入試の時の点数データや

  最近の学校のテストの成績はあるか?』


 「はいはい、今取ってきますね。」覚醒した母の動きは速い。

 相変わらず、リコさんの隣に座っているオヤジは口を開けて気絶中。


 母さんはああ見えて結構きっちりしている。

 点数データや成績は、きちんと保管されていて、

なくすなんてことは絶対にない。すぐに持ってきてくれた。

 

 点数データや成績に目を通して、

 『大丈夫。

  学年で中くらい、あるいはそれ以上になる可能性は十分ある。』


 「そうですかー、そうですかー」母さん、本当に泣いて喜んでる。

 大げさだなぁ。


 「ところで、失礼ながら、

  リコさんは風邪か、それとも病気で声がだせないのかしら?

  もし御病気などでしたら、もうちょっとお休みされてから

  家庭教師をお願いしてもよろしいのですが。」母さんが言う。


 もっともな話だ。夏休みだし、急ぐことでもない。

 むしろ2学期が始まってからビシビシやる方が気分が出る。


 しかし、間髪入れず、リコさんが『しゃべった』。



 「そうか。」



 誰、今の渋い、小声でもはっきりと通る低音は。


 オヤジも母さんも、どちらかといえば高音、

カラオケではハイトーンボイスの曲ばかり歌って、

「超音波系」などといわれる始末だ。

 もちろん、ボクもどちらかといえば高い方。

 誰がしゃべったかは明らかだ。


 ちょっと、ルックスと声が全然合わないじゃないの。

 だから声を出したがらないってわけか。


 やっと、それまで固まっていたオヤジが息を吹き返したと思ったら、

フラフラと椅子から立ち上がり、

部屋の隅に向かって歩き出した。

 しゃがみこみ、念仏を唱えるかのように愚痴を言い出した。


 「あんなに美人なのに男、あんなに美人なのにおとこ…………。」


 ずっとこの調子でぶつぶつ何やら言っている。

 まあ放っておくか。

 オヤジは打たれ弱いから、こうなったら誰がどうなだめようがダメだ。


 また一言、リコさんがしゃべった。

 

 「問題ない。」

 「今日から始めてもいいだろう。」


 母さんは打たれ強いのか肚がすわっているのか、

 普通はこんな、女装をしている大男に

大事な娘を預けるのは変だと思わないのか、


 「どうぞどうぞ、実咲の部屋は上の階ですので。

  後は若い同士、ごゆっくりー。」


 ちょっと、最後のセリフ、妙な誤解を招くじゃないか。


 母さんはさっさとお茶と菓子を片付けて、台所へ。

 オヤジはまだ部屋の隅で泣いている。


 そして超絶美人でちっとも笑いもしないメイド男と、

 中学の体操着を着た黒縁メガネのちんちくりん女子高生。


 なんてシュールな図だろう。


 



 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ