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そして犬耳族の男は皇帝となった ――東征は失敗に終わった――  作者: 波留 六


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21.ダルバンドの城塞跡

後書きに城塞跡の地図と、登場人物紹介を載せています。

ログフトと書くべきところをクリシナと名前を間違えて書いていました。後半はピソとログフトの会話です。ただでさえ分かりにくいのに、申し訳ありません。(2024/7/3 19:53に修正済み)。

 翌朝より、小丘ではセアトの案に基づく砦の建造が始まった。防御壁と櫓の構築である。

 小丘は約四〇メートルの高台で、約一〇メートル毎に平坦部があり、南側に向けて広がっている。この地形は自然にできたものではなく、かつての支配者により人工的に築かれたものである。

 セアトたちは地表に近い部分を第四平坦部と呼び、そこから上に登るごとに第三平坦部、第二平坦部、そして最も高く司令部がある台地を第一平坦部と名付けた。

 現在、第三平坦部には隊商宿が建てられている。プリーア軍は第一平坦部と第二平坦部に分かれて幕営している。他の場所には廃墟となった建造物が多く、城壁と砦はこれらの廃材を使って構築する。第二から第四平坦部は遮蔽物がなくなるように遺構を取り除いて更地にしていく。

 平坦部同士は大理石で作られた幅一〇メートルの階段で繋がれている。これもかつての支配者が作ったものである。石材が欠けていたり、長年の使用による劣化はあるが、十分に利用できるものである。

 階段は全て南側に設けられている。地表から第四平坦部には二つ、第四から第三には二つ、第三から第二にも二つ、そして第二から第一には一つである。

「籠もるなら階段は壊しておいたほうが有利じゃないのか?」

 アウルスが工事の様子を眺めながら言った。

「いや、これを目印に攻め込んで来てもらうんだ」

 二人が話をしていると、冒険者の一団が作業している兵たちをかき分けて歩いてきた。

 昨日、隊商宿の前で話しをした西風ポネンテのマーマたちだ。

「責任者はセアトか?」

 マーマが言った。セアトは頷くが彼女は疑わしそうに彼を見つめた。

隊商宿キャラバンサライを出て行けとのことだが……」

「プリーア軍はこの場所でトラシルを迎え撃ちます。戦場になるので西にある隊商宿へ移動してもらいます。明日、プリーア軍が西に向けて出発しますので送り届けます」

「それで、この地の隊商宿を更地にすると」

「はい。頂上以外の平坦地にある遮蔽物は全て取り除きます。隊商宿は頂上に移設します」

「ここで迎え撃つと言ったな? そして軍を西に向けるとも言ったな? 私は何日も以前からダンジョン攻略のためにここの隊商宿を使っているから知っている。ここにはかなりの怪我人が運び込まれていることも知っている。そのためなんじゃないのか? その修道女をここに連れてきたのは?」

 マーマがエンネニーナに視線を送る。険しい眼差しだった。

「はい、そのとおりです」

 セアトが頷くと、彼の胸ぐらを彼女が掴んだ。

「怪我人を囮に使ってここ守らせて、健康な奴らを逃す気か?」

「そうです。でもここを守るのは怪我人ではありません。俺たちです」

「怪我人は何人いる?」

「……二千人」

 セアトを掴む手が離れた。マーマもあまりの数の多さに驚いているようだ。

「討ち死にするつもりか?」

 セアトは首を振った。

「トラシル軍のダルバンドに向かう第三軍は一万、ナズベートの街から来る軍は五千。第三軍だけなら三千、合流するなら五千の兵を戦闘不能にすればトラシル軍は撤退します」

「……その為の準備をしているというのか?」

 セアトは答えなかった。マーマはセアトをにらみ続けた。彼もまた静かにマーマを見つめ返した。

「そういうわけなので、戦いが終わるまで退避してもらいます」

 セアトが告げると、マーマたちは仲間内で顔を見合わせた。

「隊商宿を頂上に移築すると言ったな? 今日、俺たちがそこに泊まっても?」

 クルムトが言った。昨日、エンネニーナが治療をした犬耳族の男だ。

「……宿主も西の隊商宿に避難させる。自炊の必要がある。籠城している間はこの城塞から出られないし、なにより戦争に巻き込まれる」

「俺にはお前たちから受けた恩がある。このまま立ち去れば一生、返すことはできなくなりそうだ……」

 クルムトが答える。

「それならば、ここにいるエンネニーナを連れて行ってほしい。彼女はリシャルの街を目指しているが、ミナレイヤ平原の修道院でもいい」

 セアトはそう言ってエンネニーナに視線を送った。彼女は驚いた表情で首を振った。

「私はここにいます」

 彼女の言葉に今度はセアトが驚いた。

「えっ?」セアトが聞き返す。

「えっ?」エンネニーナも自分がおかしなことを言った自覚がないようで、セアトを見返した。

「ここにいれば戦闘に巻き込まれる。関係のない君はこの場所から立ち去るべきだ」

「私がリシャルの街へ行くのも、修道院へ戻るのも、それはセアトさんの役割ですよ。あなたが、あの日、修道院に尋ねてきたからこんな事になったのですから。あなたは私という命を預かっていることを忘れないで下さい」

「……」

 セアトは言葉を返すことができなかった。



 トラシルの西方の地には、北側にある山岳地帯から二本の川が東へと流れている。北側の川をトラグス川、南側の川をイエユム川と呼ぶ。その間に挟まれた地帯は穀倉地帯となっている。

 シャヘンの街とデーナグの街は、その穀倉地帯にある大きな街である。その中間地点にはミナレイヤ平原が広がっている。

 トラシル軍はミナレイヤ平原で勝利を収めた後、軍を三方に分けた。

 第一軍と第二軍はそれぞれ三万ずつで、穀倉地帯を西へ進みシャヘンの街を目指す。第一軍はイエユム川沿いに、第二軍はトラグス川沿いに進む。途中、各街から集結した兵と合流し、また、プリーアに奪われた領地の回復を目指す。

 そして、第三軍の一万はイエユム川を渡り、ダルバンドの街跡でナズベートの街で徴兵された五千と合流、川の南側を西進してシャヘンの街の東側へ進み、リシェルの街への兵站を整える。

 第一軍はトラシル王バハラーム・クリシナが自ら率いる。

 第二軍を率いるのは第一王子のズィード・クリシナ。

 そして第三軍を率いるのは人狼族じんろうぞくの男、フィールーズ・ログフトである。野戦での戦闘が上手いと言う評価を受けている。ミナレイヤ平原での奇襲も、左翼が彼で右翼がズィード王子であったが、彼は若い王子の進軍の速度に会わせて進軍の速度を調整し、両翼の同時攻撃を実現させた。

 第三軍はダルバンドまで、三日という距離まで進軍していた。

 ログフトはかなり苛立っていた。第一、第二軍と足並みを揃えながら西進を行っているため、行軍の速度が上がらないのである。王が軍に参加しているため、後宮が随行しているのだ。

 それが、プーリア軍にここまで奥深く侵攻された原因でもあった。本来の迎撃の予定地はミナレイヤ平原よりずっと西の地であった。

 バハラーム王は確か今年で四九歳になるはずだった。ロドフランに残り、戦争はズィード王子に任せればよいのにと思う。

 しかし、それは彼の立場では意見できることではなく、どうすることもできない事であった。彼を苛立たせているのは、彼の前に立つ生気の感じられない痩せた男、マルクス・カルプルニウス・ピソである。ピソはプリーア帝国の東方軍の副総督をしていた男だ。トラシルでの彼の地位はまだ決まっていない。人事は王がロドフランに帰還してから決められる。

 帝国を裏切った彼の情報でトラシル軍はミナレイヤ平原で大勝することができたとはいえ、ログフトは彼を味方として受け入れることはできなかった。裏切り者は、いつの日かまた裏切る。

「ダルバンドの城塞跡に、プリーアの兵が集まっています。その数は五五〇〇……」

 ログフトが別口で旅人や交易商人から手に入れた情報より五百ほど多い。

「おそらくは六千を超える兵が集まると思われます」

 ピソが続けた。

「私もその情報は得ている。約二千人の傷病人が含まれていることもな」

「城塞跡にいるのは第三連隊。率いるのはグナエウス・カッシウスという連隊長」

「知っているのか?」

 ログフトの言葉にピソが頷いた。

「特に可もなく不可もなく、創造性はないが、堅実な指揮官です」

「東方軍総督が合流したという話だが?」

 ピソが少し驚いたように彼を見た。

「知っておられたのか?」

 ログフトはピソに試されていたことに気がついた。

「司令部の襲撃は貴公の任務だったはずだ。なぜ生きている?」

「それについては謝罪するほかない。偵察部隊本部に襲撃をさせましたが、早急に戦場を離脱をする必要がありました。さもないと彼らも討ち取られてしまいますので。特にトラシル軍にはあなたのような勇将がいますので」

 ピソがニヤリと笑った。

「で、貴公は何を告げるために私のもとに来た? 世間話なら時間の無駄だ」

 ログフトは不快感を隠さずに吐き捨てるように言った。

「トラシル軍の勝利のために随行させていただきます」

「は? 六千は看過できない兵士数だ。第三軍であたるにしても、バハラーム王のご裁可が必要だと考えている」

「それには及びません」

 ピソが差し出してきたのは、バハラーム王の署名の入った指令書だった。

 先に差し出すべき物を彼はわざと隠し持っていたのだ。

 ログフトは不快感を隠さずにピソを睨みつけた。ピソは表情を変えることもなくログフトを見つめ返した。

 ゆっくりとした動作で指令書を手に取った。そして紙面に視線を落とした。

《プリーア東方の地図》

挿絵(By みてみん)

《ダルバンドの城塞跡》

挿絵(By みてみん)


《登場人物紹介》多すぎ!

■プリーア帝国(元老院とプリーアの人びと)

セアト・ケルナス 犬耳族 16 男 剣士 犬耳族いぬみみぞく 情報偵察部隊所属


ラクタリス・テュリク 27 男 魔法使い 人族 魔法部隊所属 蒼球の魔術師の異名

アウルス・ルフス 23 男 騎士 騎士 人族 百人隊長 無双の剣士


キリキウス・リウィウス・デキムス 45 男 東方総督 人族

マルクス・カルプルニウス・ピソ 39 男 東方副総督 兼 情報偵察部 人族 痩身


グナエウス・カッシウス 45 男 人族 プリーア軍連隊長

オッピウス・レナティウス 58 男 人族 第三軍連副隊長 通称親父さん

ストラボ・オウィディウス 30 男 人族 第三軍中隊長 カッシウスの子飼い

パトルス・ウェレギウス 29 男 人族 第三軍中隊長 カッシウスの子飼い


フラウィア・サビナ 女 29 リシャルの街留守居役 デキムスと共同統治者

マルクス・フラウィウス・セウェルス サビナの父 前東方総督

アエミリア・クラウディア サビナの母 セウェルスの妻


コルネウス・セルウィリウス 40 中隊長 死亡

プブリウス・アエリウス 35 百人隊長 死亡


■トラシル王国(クリシナ朝トラシル)

バハラーム・クリシナ 王 49 人族

ズィード・クリシナ 第一王子 21 人族


フィールーズ・ログフト 第三軍団長 35 人狼族じんろうぞく

ホルミズド 第三軍団 千人隊長 人族 28


■その他

エンネニーナ  16 女 修道女 猫耳族ねこみみぞく のほほん

修道長 82 女 修道女 人族 ミナレイヤ平原の近くの修道院

シャーバーティー 21 女 修道女 蛇族へびぞく 修道院でエンネニーナに一番年齢が近い


ルスティカ 19 女 盗賊 羊蹄族むふろんぞく 双子姉 

セルウィリア 19 女 盗賊 羊蹄族むふろんぞく 双子妹 他人任せ


ウルシャ・ハトン 28歳 女 ラクタリスの姉弟子 魔族まぞく

花族はなぞくの少女 7歳 女 ウルシャに仕える娘


■冒険者パーティ、西風ポネンテ

マーマ・マーミ・マーム・スターユニオン エルフ 200↑ 女 耳の一部が欠けている

バーホラーム 人族 31 男 戦士

マニ ドワーフ 100↑ 男 戦士

クルムト 犬耳族 18 弓使い 孤児、マーマに拾われる

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