え……
バチバチバチバチ。
西洋の花火は、勢いがある。前世日本の花火と違い、余韻を楽しむ感じではない。一気にド派手に打ち上げられ、あっという間に終わってしまう。でもその分、本当に迫力はあった。
ほのかに火薬の匂いが漂う。
花火が終わり、演奏も止んだ。
急に静かになり、虫の鳴き声だけが、やけに大きく聞こえる。
既にデザートも出て、食後の紅茶もテーブルに用意されていた。
サプライズ満載のディナータイムは……終焉の時が近づいている。
「シャーリー」
皇太子が私の名を呼び、碧眼の瞳をこちらへ向ける。
ロウソクの揺らぎに応じて、彼の目が潤んでいるように見えた。
「わたしには偶然出会う運命の女性がいる――そう、シャーリーは言いましたよね?」
「そうですね」
「……名前は分からないのですか?」
「え、名前、ですか」
皇太子は「そうです」と頷く。ヒロインの名前を知りたいと。別に話しても問題ないわよね……? むしろ、名前が分かった方が、知り合いやすいだろう。
「名前は確か……タマラです」
「名前はタマラ。そしてブロンドで、瞳の色は青い。私より二歳上で、鎖骨の辺りに、小さな薔薇のような痣がある女性……でしたよね?」
「はい、その通りです」
ティーカップを手に取り、皇太子は紅茶を一口飲むと、おもむろに私を見る。
「皇都に次ぐ、第二の都と言われるロリアンに、聖女が現れたと報告がありました。彼女の名前はタマラ、聖女の証として、鎖骨の辺りにある痣を示したそうです。聖痕であると。年齢は二十歳だそうです」
これには驚く。
タマラと皇太子が出会うのは二年後。
既にタマラはこの世界に存在しているとは思っていたが、もう彼女の情報を把握しているなんて。でもこれで皇太子は信じてくれるはずだ。彼女が偶然出会う、運命の女性であると。
ある意味、これが最後通告になった。
これで皇太子と私は終了だ。完結した。
ここからは、皇太子とヒロインであるタマラの物語が始まる――。
そう、私が悟りを開いたまさにその時。
「そのタマラですが、結婚しているそうです」
「え?」
「ちょうどわたしの呪いをシャーリーが解呪してくれた日が、そのタマラという聖女の結婚式だったそうです」
これにはもう何度目だろう。口をぽかーんと開いたまま、固まってしまう。
え、ヒロインなのに皇太子と結ばれないの?
ここは小説の世界なのだから、ヒロインは皇太子とゴールインなのでは……?
そこでハッと気づく。
もしや私はずっと、アンコンシャス・バイアスに囚われていたのでは……?
ここは小説の世界。小説ではヒロインであるタマラが、皇太子のエリスと結ばれる。それこそがこの世界の正解。モブである私が二人の恋路を邪魔するようなことがあれば、この世界から消される。
悪役令嬢は断罪されるための存在。モブは物語のにぎわいのためにいればいい。さらに言えば、私、シャーリー・ジョーンズは、その名さえ小説に登場していないのだ。メインキャラには不要に絡んではならない。
そういうものだと思っていた。だってこれまで読んだ物語では、そうだったから……。
この考え方がまさにアンコンシャス・バイアス。
無意識で「こうなのだ」「そういもの」と思い込んでしまう心理だ。
でも……違ったのね。私が皇太子の呪いを解いた時から、ここは本来の小説の世界とは、違った状態で動き始めた。つまり世界線が、変わったのだろう。
小説は、書き手が作り出したオリジナルが原典。その一方で、読者がそこから二次創作することもある。つまりは「もしも」の小説世界の存在だ。ここは、そんなもしもの自由な小説の世界なのかもしれない。
そうなると私は……必死にこの皇太子を回避し続けてきたけど、その必要はないということ?
チラリと見ると、皇太子はニコッと笑う。
「どうやらシャーリーが予知した未来は、間違っていたようですね」
「本当に、申し訳ありません……」
「誰もが間違えることがありますよね。ですからこれも、仕方ないと思います。ですが私は皇太子です」
それはおっしゃる通り。皇太子にドヤ顔であなたの運命の相手はこの女性です!と私は告げたのだ。
「責任をとっていただかないと」
せ、責任!? モブ……一般人の私が、皇太子に対して責任をとるって……。それってもしや命で贖うとかではないですか!? せっかくこの世界から抹殺されることもなく、毒を飲んでも助かったのに……。
「そんな青ざめないでください。恩人に責任をとれなんて、冗談ですよ」
「こ、皇太子なのですよー! その立場で一般ピープル相手に冗談は、冗談ですみませんから!」と言いたくなるのを我慢する。代わりに上目遣いで彼を見ると……。
「シャーリーは、勘違いしたのでしょう。わたしが偶然出会う運命の女性。それは他でもない、シャーリー自身なのに。なぜかタマラなる女性と勘違いした。……改めて言わせていただきたいです。感謝の気持ちが高まったなどとは関係なく。純粋なわたしの気持ちとして」
席を立った皇太子は私のそばまで来ると、片膝を地面につき、跪いた。その上で私の手をとると、整ったその顔をこちらへ向ける。
「シャーリー・ジョーンズ。この国の皇太子であるエリス・R・バーリントンは、君にプロポーズします」



























































