国宝級のギフト
皇太子達はまず二人の騎士を制圧し、彼らの着ていた甲冑やマントを手に入れ、オニール公爵家の騎士のフリをした。そしてオニール公爵令嬢が部屋に入ると、廊下で待機しているメイドと従者を捕らえる。そして今度は皇太子達が、ドアから中の会話を盗み聞きすることになった。
すぐ踏み込むことも考えたが、会話の内容からとんでもない事実が明かされそうになっている。もしオニール公爵令嬢が呪いについての決定打となる言葉を口走れば――。
つい、突入を遅らせた結果、私が毒入りパンを食べさせられることになった。
「あの時、もっと早く踏み込み、オニール公爵令嬢を制圧していれば……。シャーリーは毒入りパンを口にしないで済んだと思うのです。わたしのせいで、タイミングが遅れ……本当にどうお詫びすればいいのか。やはり責任をとり、シャーリーのことはわたしが」「ま、待ってください」
なんだか懐かしい会話の流れになっている。何度目かのプロポーズされる気配を察知し、皇太子の言葉を止めていた。
「失礼しました。話を制してしまいましたが、どうしてもお伝えしておきたいことがあります」
「どうされましたか?」
「あの時、すぐに踏み込んだとしても、ハモンドは動いたと思います。ハモンドはまさに、オニール公爵令嬢の犬。彼女が私を害したいと思っている――そのことをハモンドは、知っていたのです。急に皇太子殿下に踏み込まれれば、彼女の指示を待たず、毒入りパンをやはり私に食べさせたでしょう。ですから皇太子殿下が、責任を感じる必要はありません」
「でも」
「大丈夫です。お気になさらないでください」
皇太子は「むむむ」と唸り、黙り込んでしまう。
そこでまたもや何とも可愛らしい表情となり、上目遣いで私を見る。
彼が何か言いかけたところで、ドアをノックする音がした。
すぐに皇太子が応じ、やってきた従者は、私の父親の到着を教えてくれる。
やってきた父親と再会し、何が起きたのかを話し、その後は疲れが出たからか。
夜までぐっすり眠ってしまった。
◇
体のだるさと、頭がぼーっとする感じがとれたのは、それから二日後。
その二日間で、いろいろなことがあった。
まずは皇帝陛下夫妻が、部屋を尋ねてくれた。非公式なお見舞いだとは言うが、これには本当に驚いてしまう。何より寝間着姿、しかもベッドにいる状態で、お二人にお会いするなんてと、慌てて起きようとしたが……。
「気にする必要は、ありませんよ。そなたは息子の恩人なのだから」
金髪碧眼で、皇太子をダンディにしたかのような皇帝陛下は、笑顔で私を制す。そしてベッドで暇を持て余した時にと、歴代の宮廷画家が描いた絵を収めた画集をプレゼントしてくれた。これは習作であり、完成品は、皇宮内の美術館に飾られているという。「元気になったら、そちらも見てみるといい」と言われたのだけど……。
これは国宝級の物なのではないか、こんな物をいただいていいのかと、腰が抜けそうになってしまった。ただ贈られたギフトを受け取らないのも失礼になるので、受け取ってしまったが……。もう頭の中は、返報性の原理でいっぱいになる。
一方の皇后陛下は、ダンディな皇帝陛下と並ぶと、実にお似合いな美しい方だった。プラチナブロンドの髪は、波打つようであり、顔は女優さんみたい。皇帝陛下とお揃いの青い色のドレスも、とても素敵。その皇后陛下は、皇宮の庭園で咲く花を、自ら摘んで花束にした。それをプレゼントしてくれたのだ!
庭園のお花なら……と思うのは甘かった。宮殿の庭園ではなく、皇宮の庭園で咲く花は、貴重種が多い。国内で自生しない花も含まれ、これまた恐れ多くて心臓がバクバクしてしまう。ドライフラワーにして、墓場まで持っていく覚悟をした。
さらに皇帝陛下は「息子はそなたのことを、大変気に入っているようだ。執務も定刻で切り上げるため、とんでもない集中力でこなしてくれている。そなたに早く会いたいからのようだが……。わたしとしては、非常に助かっている」なんてことを言うので、これにはどう反応したらいいのかと、汗が出る。
「子供達は三人とも男子だから、女の子がずっと欲しいと思っていたのですよ。シャーリーさんのような娘ができたら、私も幸せだと思いますわ。元気になったら庭園でお茶でもしましょうね」と皇后陛下も言ってくれるけれど……。
これはなんだか外堀を埋められているようでもあり、「光栄です、皇帝陛下、皇后陛下」と言うことしかできない。ここが庶民にも寛容な小説の世界であるゆえに、身分を理由に言い逃れできないのが辛い。
そんな感じで私があわあわしている間に、オニール公爵令嬢には、大きな動きがあった。オニール公爵夫妻は、特例で離婚が認められた。双子の子供のうち妹は父親が、姉は母親が引き取ることが決まったのだ。これにより、ティナ・イヴリン・オニールは、公爵令嬢という肩書を失い、観念した。ついにティナは、すべてを洗いざらい話したのだ。
一方で母親は、頑なに黙秘を続け、ティナに忠誠を誓うハモンドも、なかなか口を割らない。だが二人の証言次第でティナの刑が重くなる可能性を匂わせ、引き続き聴取が続いているという。






















































