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運命の相手は私ではありません!~だから断る~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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ちょ、ちょっと待ってください!

 そしてシャーリーのような特殊なタイプの解呪師は、それこそ王侯貴族のお抱えになることが多く、街中で解呪屋をやっていることは、少ない。ではなぜ皇都のはずれでシャーリーは、解呪屋を営んでいるのか。


 それはシャーリーが、自身が特殊なタイプの解呪師であることを、伏せているからだ。


 シャーリーの両親は、ここではない国で解呪師をしていた。母親はシャーリーと同じ、特殊なタイプの解呪師だった。その結果。呪いの中継者にされてしまったのだ。でもそれは、母親が喜んで引き受けたわけではない。その国の王族に脅され、泣く泣く協力した結果だった。


 シャーリーの母親は死に、その国は一時的に隣国に有利に立ち、栄えることになる。だがその繁栄は長く続かず、結局、その隣国に滅ぼされた。父親とシャーリーは戦禍を逃れ、このバーリントン皇国に逃れてきたのだ。


 皇都のはずれは、そこが本当に皇都かと思うぐらい田舎ではあった。でもここならのんびり生きていけると父親は判断し、「呪詛返し」しかできない解呪師として、解呪屋を開いたのだ。


 そんな場所で解呪屋の需要はあるのか?と思ったが、皇都の中心部で屋敷を構えることができない貴族も多くいた。よって皇都のはずれでも、貴族はいる。そしてそう言った貴族達も呪いとは無縁ではなく、ちょっとした呪いをかけられることが、多々あった。


 呪詛師は表向き職業として禁じられているが、裏社会では相応に存在している。彼らの暗躍、粗悪な呪いを跳ね返すアイテム「リジェクター」が流通することで、呪いにかけられる貴族は、ゼロではない。


 よって父親とシャーリーが生活できるぐらいの収入は、確保できていた。勿論、場所が場所なので、小さな菜園、家畜を育てることで、自給自足できる点も大きい。


 ということで、皇都のはずれの牧歌的な解呪屋にやってきた皇太子は、いきなり目の前で解呪師である私、シャーリーが気絶したので、親切にもカウチに寝かせた。そして医療の知識を持つ近衛騎士に私の様子を確認させ――普通ならそれで帰ると思う。


 だが皇太子は、さすが小説のヒロインから選ばれる相手だけある。優しい人物だった。皇都のはずれとはいえ、突然気絶して寝込んでいる女性を一人、放置するようなことはしない。つまり私が目覚めるまで、そのまま待ってくれたのだ。


 ちなみにこの時、私の父親は呼ばれた貴族の屋敷に足を運んでおり、帰宅は夕方の予定。

 こうして私は三時間程眠り続け、そしてまるで昼食の時間にあわせたかのように、目覚めたのだ。


 前世記憶を取り戻した私が、カウチで目覚めると、そこに『君だけの物語』のヒロインのお相手がいる。つまりはエリス皇太子。椅子に座り、脚を組み、肘掛けに肘をのせ、頬杖をついている。粗末な椅子に座っているのに、彼がいる空間だけ、なんだか洗練されているように見えた。そして彼の膝には本が広げられ、碧眼の瞳は、開いたページへと向けられている。


 『君だけの物語』に挿絵はなく、表紙絵しかなかった。

 皇太子が読書する姿なんて初めて見たが、まあ、美しい。


 秋風に揺れる、麦の穂のように輝くブロンドの髪。

 サラリとしたその前髪の下には、スッキリとシャープに整えられた眉。

 くっきりした二重から伸びる長い睫毛は、何もしていないだろうに、綺麗にカーブを描いていた。西洋人らしい高い鼻、その下の形のいい唇は、実に血色がいい。肌は透明感があり、女性もうらやむ美しさ。


 青年らしいしっかりした首は、白の軍服の立襟に包まれ、その襟には金糸で刺繍があしらわれている。上半身には黄金の飾りボタンに加え、いくつもの略章、そして飾緒。マントは裏地が銀色で、表生地は白色と、純白の皇太子殿下だ。


 私が目覚めたことに気づいた皇太子は、今度は極上の笑みを浮かべた。

 パタンと膝の上の本を閉じて。


「気づかれましたか。丁度、お昼時ですね。食事をしながら、お話を聞いていただいてもいいですか?」


 聞くまでもなかった。前世記憶を取り戻した私は、彼がここへ来た理由は分かっている。それに皇太子が呪いに悩んでいることは、もはや隠し切れなかった。何せ国中の解呪師に、呪いを解けないかとあたっているのだから。


 とはいえ。


 皇太子から、食事をしながら話を聞いて欲しいと言われ「え、それは無理です」と言える平民などいない。そもそもこんな場所に皇太子がいること自体、異常事態であり……。


 私が覚醒していないシャーリーだったら、本日二度目の気絶をしていたことだろう。


 ここは「勿論です」と返事をしたいところであるが。

 食事。

 平民に食事を求めるって……。

 そう思い、よく見ると。


 皇太子は、部屋の隅にあった椅子と、ソファの前にあったローテーブルを、カウチの前に移動させていた。そしてその椅子に座り、ローテーブルには、見たことがないポキリと折れそうな持ち手がついたティーカップ、美しい花が描かれたソーサーが置かれている。


 こんな明らかに高級そうな食器は、我が家のものではない。


「皇宮からここまで、五時間程かかりました。夜明け前に出発したので、朝食は途中で休憩しながらとったのです。ある程度の食料など持参していました。大したものは用意できませんでしたが、近衛騎士達が昼食を用意しているので、それをお出ししますね」


 なるほど。

 皇太子が口に入れることができるような食事を、私が提供できるのか――この不安は、払拭された。

 ある程度の食料などを持参していた。


 それは……そうよね。

 皇都は広い。そして前世と違い、車なんてないわけで。皇宮がある皇都の中心部から、遥か東のはずれのこの場所は……食料や水を持参して移動し、途中休憩も必要な場所だった。


 三時間近く、よく私が起きるのを待ったと思ったが、来るのに五時間かかっている。まさか手ぶらで帰るわけにはいかないのだろう。そう思ったが皇太子は、こんなことを告げた。


「時間があったので、部下に調べてもらったところ、この辺りには解呪屋がいくつかあるようですね。以前はなかったのに、いつの間にか増えていました。よってしばらく滞在し、解呪屋巡りをするつもりです。既に宿の手配もできましたから」


 まずここは皇都のはずれ。


 すぐ隣は別の街につながる。皇都に入る前後で、長旅を終えた旅人は、身支度を整えることが多い。よってここから三十分程馬車を走らせると、そこは宿場町になっていた。つまり宿もいくつかある。


 宿の手配もできているなら、私をカウチへ寝かせた後、帰っても良かったはずだ。そうしなかったのは……やはり皇太子は、親切だからだ。


「この辺りに増えた解呪屋は、東方からやってきた修行僧モンクが多いですね。この国の慣習にあわせ、解呪屋を名乗り、庵のような小さな寺を開いているようで。解呪より、ゴーストに憑りつかれたという人を祓ったり、ゴーストを成仏させたりしていると、聞いています」


「そうでしたか。……でもそういった異文化の中に、呪いを解く鍵があるかもしれませんから。教えてくださり、ありがとうございます。ではご案内します」


 皇太子は本をローテーブルに置き、椅子から立ち上がる。

 改めて見ると、脚が長い!

 しかも突然手を差し出され「?」となると、「エスコートをさせていただいても?」と言われ、これは心の中で「ひゃあああああ」と叫ぶことになる。


 この恋愛小説の世界が、中世西洋風であったことを実感。貴族の屋敷に足を運ぶことはあるが、さすがに来客とはいえ、解呪師をエスコートなんてしないから……。


 これにはドキドキしながら、皇太子の手に、自分の手をのせることになる。


 小説の登場人物に触れた。


 これは実に奇妙な気持ちを想起させる。実在するとは思っていない人間に、触れることができたのだ。VR技術が進化し続けたら、こんな体験も当たり前にできるのかしら?


 ただ、残念なのは、白いシルクの手袋つけていること。


 本を読んでいた時は、外していたのに。店を出るに当たり、手袋をつけてしまった。


 すっかり浮かれてしまったが、食事はどこで……?


 皇太子が店のドアを開けると、そこは景色が一変している。


 皇都とはいえ、ここはもう田舎。

 店の前は、ちょっとした芝生が広がるスペースになっていたが、そこに天幕が張られている。そのそばで、当たり前のように火を起こし、煮炊きをしている騎士達の姿が見えた。人の庭で何を……なんて思ってはいけない。ここは皇都で、皇族の本拠地なのだから。


 ともかくそんな状態は、言葉にするなら、ドアを開けたらそこは野営地になっていた――そんな感じだ。ちなみに騎士達は皇太子と違い、紺色の軍服姿だった。


 皇太子は、私をその天幕の方へとエスコートしながら、私が寝ている間の出来事を教えてくれる。来客は二件あり、一人は貴族のお使いで、仕事の依頼。手紙を置いて帰った。もう一人は近所のおじさんで、先日お裾分けした蜂蜜の御礼で、キャベツを持参したという。そう言われると、ドアの横のチェストに、キャベツが入った籠があったような気がした。


 ところで来客の対応は、皇太子がしたのかしら? それとも近衛騎士が? どっちだったとしても、貴族のお使いも近所のおじさんも、ビックリしたことだろう。


「どうぞこちらへ」と皇太子に促され、天幕の中に入ると、ちゃんと木のテーブルと椅子がある。それは折り畳みタイプのものなのだろうが、白いテーブルクロスも敷かれ、花まで飾られている。しかもそこに用意されているのは、貴重なキューカンバーを使ったサンドイッチとローストビーフ。さらにそこへ、いい香りを漂わせたスープも運ばれてきた。


 私が着席すると、さりげなく従者が、並べられたカトラリーを使う順番を教えてくれる。


 こうしてスタートした昼食で、皇太子は案の定の依頼を、私にしてきた。

 つまり、自分にかけられた呪いを解けないかと。

 これはもう想定通りなので、お断りする気でいた。


 だが皇太子は、小説で触れられていない、こんなことまで話し出したのだ。


「通常皇族は、十五歳で、社交界に正式な大人として迎えられます。同時に婚約者を決め、二十歳前後で結婚することが慣例です。ですがわたしは先ほど話した呪いのせいで、そこは無理をしなくてもいいと、言われています。……でも役目を果たせない皇太子など、この国のためになりません。幸いなことに、自分には弟が二人います。その一人が半年後、十五歳になります。よって決めたのです」


 皇太子はそこで、ローストビーフにホースラディッシュをつけ、優雅に口へ運ぶ。


 彼の話し方は……プレゼンテーターとして実にうまい。

 こうやって肝心なところで間をとるところも。

 どうしたってこうされたら、続きが気になる。


 声の抑揚、話すスピード、アイコンタクトの頻度。

 心理学的に分析すると、限りなく完璧に近い。


「弟に、皇太子の地位を譲るつもりです」


「えっ」


「今回、この地で呪いをとけなかったら、もう解呪はあきらめます。皇帝に頼み、爵位を賜り、できれば自分の武術の腕を生かし、騎士団に所属するか、外交官として生きて行こうと考えているのです。半年前にそう心に決め、最後の解呪師探し行脚で、皇都の最北、最南、最西まで足を運びました。皇宮に解呪師に来てもらうのと違い、発見も多いです。そして最後がこの場所。最東にやってきました」


「ちょ、ちょっと待ってください!」

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