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運命の相手は私ではありません!~だから断る~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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有象無象の解呪師の一人に

 皇太子の呪いを解くきっかけ。

 それはイコール私の覚醒でもある。

 覚醒、つまり前世の記憶を思い出した。


 前世、つまりは日本人であり、MFTであった私の記憶だ。ついでになぜMFTになることになったのか、詐欺で全財産を奪われた時の記憶まで、思い出していた。


 詐欺。


 それは「銀行に貯金してもお金は一向に増えませんよ」という一言から始まった投資詐欺だ。元本を保証します、必ず儲かります、特別にあなただけにご紹介する案件です……こんな常套句にコロリと騙された時のことまで、思い出すことになった。


 銀行で紹介された外貨建て保険で大損をした。今度こそは騙されないと、銀行や高い手数料をとる証券会社を避けたのに。結局は勉強不足。投資なんてろくに知識のない人間が手を出すものではない。


 よってMFTを始めるに当たり、必死に心理学を学習した。正直、心理学は数字の世界だ。一見、文系の学問に思えるがそれは違う。理論の実証に数字は不可欠。投資に手を出したぐらいだから、数字は苦手ではなかったことが幸いしたと思う。数字が苦手で心理学を専攻すると、苦労がつきまとうと実感した。


 それはさておき。そんな前世の記憶を思い出し、自分が『君だけの物語』という小説の世界に転生していることに、気づいた。前世の古本屋で見つけ、息抜きのためのワンコインで買った恋愛小説の世界に。


 恋愛小説の世界に覚醒していると気づかせてくれたきっかけ、それは――。


「わたしは、この国、バーリントン帝国の皇太子である、エリス・R・バーリントンと申します」


 私、シャーリーが営む皇都のはずれにある解呪屋に、ある日突然、この国の皇太子がやってきた。そして純白の軍服姿の彼が名乗るのを聞いた瞬間。まるで雷に打たれたような衝撃が走る。ラベンダーグレーのローブを着ていた私は、その場で気絶してしまう。


 皇太子は……当然だが、驚いた。

 挨拶をしたら、いきなり相手が気絶したなんて経験、したことがないだろう。ゆえにビックリして当然だった。


 相当衝撃的だったと思うが、店内にあったプチポワンの美しい刺繍があしらわれたワイン色のカウチに、皇太子は私のことを寝かせてくれた。頭にグレーのクッションをあてがい、カウチに置かれていたグリーンと黒のタータンチェック柄のひざ掛けを、かけてくれたのだ。


 彼の近衛騎士には医療の心得を持つ者もいた。不測の事態に備え、そういった知識を持つ人間もつれているところは、さすが皇太子だ。その近衛騎士の見立ては「病気とは思えません。これは眠っているだけのようです。ただ、ご覧の通り。瞼を開けても、体をゆすっても、起きません。……目覚めるまで、待つしかないようです」だった。


 こんな見立てがあるか!と思ってしまうが、実際、その通り。私はただ、寝ていた。寝ていたが、脳内では前世の記憶が急展開されていたのだ。夢を見るという形で、私は前世の記憶を脳内に展開していた。


 なぜ皇太子と対面した瞬間に覚醒したのか。転生ものの小説ではたいがい、外的ショックで記憶が呼び覚まされることが多い。よくある覚醒のタイミングは、階段から落ちる。


 貴族の邸宅にあるような、二階に続く階段から落ちたのなら。命を落とす可能性が極めて高い。運動神経抜群なご令嬢ならまだしも、少なくとも私はそんな取り柄はない。よって目の前に人がいる状態での気絶で助かった……としみじみ思った。それに庶民が暮らす平屋には、貴族の邸宅にあるような階段はない。屋根裏部屋に続く梯子から落ちて覚醒……だったならば、即、天に召されただろう。


 ただ、その時に目の前にいてくれる人物は、小説のヒロインの相手である必要は、なかったのではないか。


 なぜって、そんな相手に出会ったからこそ、私の覚醒も始まったと思うのだ。それまでの二十一年間の人生は、小説の世界で生きていたものの、主人公や脇役と一切絡むことがなかった。それが突然、ヒロインのお相手となる皇太子に出会ったのだ。脳もビックリし、前世記憶も甦るというもの。


 こうして前世記憶を取り戻したものの。そして気絶する直前に出会ったのが、ヒロインのお相手であることは理解していたものの。では自分は何者なのか――と考えた時、分からなかった。


 解呪屋とそれを営む解呪師の存在は、小説でも触れられている。なにせ皇太子は呪いにかけられ、苦しんでいるのだ。その呪いを解くため、国中の解呪師を皇宮に呼び出し、場合によっては、皇太子が店にまで足を運んでいた。でもそれだけなのだ。小説ではこう書かれていた。


『呪いをかけられた皇太子は、その呪いを解くため、帝国内の解呪師を皇宮に呼び出した。時には解呪屋にまで足を運んだ。だが、誰一人として、彼の呪いを解くことができなかった』


 そう、解呪師の具体的な名前は、書かれていなかったのだ。


 それなのに有象無象の解呪師の一人に過ぎないシャーリーに転生するなんて。前世でMFT(結婚・家族療法士)だったから「」「」という読み方のつながりだけで、シャーリーに転生させられてしまったのでは?とさえ、思えてしまう。


 ただ……。


 シャーリーの気質は、私に似ている感じがした。私はMFTなんてやっていたが、決して社交的な性格ではない。知らない人と会って談笑したり、人前で堂々と話したり、そんなことは得意ではなかった。ただ生きていくため。お金のためと、割り切っていた。そこはシャーリーも同じ。


 それでいて全く異なる点もある。実は私が転生したこのシャーリー。解呪師としてはかなり特殊だったのだ。


 多くの解呪師が「呪詛じゅそ返し」という方法で呪いを解く。つまり呪った相手に呪いを返してしまう――という方法は、誰が呪ったか分かっている場合。そこが分からないと、「呪詛返し」は使えない。


 しかも「呪詛返し」をすれば、呪った相手は、呪いを返されたと当然気づく。なぜなら呪詛返しされた時、返された呪いがその身にふりかかるからだ。とはいえ呪いをかけるような相手は用心深く、ちゃんと対策をしている。よって返された呪いに、対策アイテムが反応することで「あ、呪詛返しされた」と気づくわけだ。


 ちなみに呪いをかけることができる人間は、呪詛師と言われていた。彼らが呪いをかける際は「誰が誰を呪いたいのか」を呪文に含ませ、呪いをかける。よって呪いそのものは、呪詛師がかけているが、「呪詛返し」をした時、呪い自体は「呪ってやる!」とその呪いを願い、考えた相手に返されるのだ。


 さらに呪った相手が分からないが、呪いの内容が分かる場合。解呪師が呪いを引き受ける場合がある。だがこれは一長一短。引き受けた呪いを結局、解呪師が経験することになるからだ。些末な呪いならまだしも「死」につながるものだと、この方法では無理。


 というのも死ぬと分かっている呪いを、解呪師が引き受けることができないからだ。拒絶反応が出てしまい、呪いを引き受けることができない。


 残る方法は、シャーリーのように呪いを吸収するもの。吸収した解呪師は、呪いの邪悪さのレベルにより、自身の身が不調に襲われる。軽いものなら数日。中程度から重いものであれば、数か月から数十年。吸収した呪いの不調に悩まされるが、その期間が終われば、呪いは発動することなく消失する。勿論、「死」を伴う呪いの吸収はできない。やはり拒絶反応がでてしまう。


 だがシャーリーは「死」を伴う呪いでも吸収ができた。なぜなら死なずに解呪できると分かっているからだ。つまり夢で呪いを疑似体験し、それをもってして呪いを解くという、かなり特殊な解呪をシャーリーができるからだ。ゆえに拒絶反応がでない。


 吸収した呪いを、不調として体感することなく、解くことができるのだ。シャーリーは本当に特殊だと思う。


 とにもかくにも。一度呪われると、解くのが難しいと思ってしまうが……シンプルな方法もある。それは呪った相手に、呪いを解いてもらうこと。次に呪った相手が死亡すること。これで呪いは解けた。


 だが。


 そもそも呪いをかけられる人間は、そこまで多くない。まず平民が呪われることは、稀だった。それには理由がある。


 呪いをかけることができる人間は、呪詛師であるが、基本的にこれを商売とすることは禁じられている。よって町中を普通に探したところで、呪詛師なんて見つからない。


 それでいて呪詛師は、とんでもないところにいたりする。国が抱える解呪師。それは表向きの職業。彼らの真の姿は、呪詛師だ。表立った戦争はない世界であるが、国同士、水面下では呪い合戦。よって身分制度の頂点にいる人程、呪いとは無縁でいることができない。


 でもそう簡単に呪いをかけられないよう、呪いを跳ね返すアイテムは、「リジェクター」と呼ばれ、主に宝飾品として身に着けられていた。天然石から作られた宝石には、呪いを跳ね返す力がある。そういった宝石を埋め込んだ宝飾品を、王侯貴族は子供の頃から身に着けるのが、この世界での習わしだった。


 だが皇太子は運が悪かった。そのアイテムを身に着ける前、なんと誕生と同時に呪いをかけられてしまったのだ。その呪いをかけたのは、皇妃の出産に立ち会った助産婦ではないかと言われたが、その女性は呪いをかけた直後に死亡している。でも皇太子の呪いは、解けていない。つまりは呪いをかけた黒幕は別にいて、助産婦は呪いの中継者に過ぎなかった。


 呪いの中継者。


 それは直接的に呪うことができない相手を呪う際に用いられる。つまり一旦、中継者に呪いをかけ、呪いをかけられた中継者が、別の相手に自身の死と引き換えに呪いを移すのだ。よって呪いの中継者を使うのは、よっぽどの時である。


 ただ呪いの中継者まで使い、呪われたのは、皇太子。そこまでして呪う価値はあると言える身分の人間だ。呪いの内容が、愛する人と結ばれると死ぬ――という恋愛にまつわるものである点は……ここが恋愛小説の世界なので、仕方ない。もしこれが前世のような世界であれば、即位したら死ぬといった、もっとシビアな呪いになっていただろう。


 勿論、「死」を伴う呪いは、移すことも吸収するのも拒絶されるのが、基本。例外は、シャーリーのような特殊なタイプが、中継者になる場合だ。ただ、そのような特殊なタイプの解呪師は、通常珍重される。何せ「死」を伴う呪いをかけられた時、それを解呪できるからだ。よって呪いの中継者として、捨て駒同然で利用されたのは……やはり呪いのターゲットが、皇太子だったからだろう。

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