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05

 与えられた寝室も気後れするぐらい豪華だった。

 王城なのだから当たり前なのだろう。

 一応、レティシアにはリヴィエール侯爵令嬢の称号があるのだ。

 王族を除けば、貴族の中では、賓客中の賓客だろう。

 しかも独身なのだ。

 領地での暮らしが、あまりにも自由だったために忘れ去りそうな事柄だった。

 レティシアは、ふと花瓶に違和感を覚えた。

 紅茶色の睫毛を瞬かせる。

 豪奢な室内に違和感があるほど、シンプルな花瓶に慎ましやかな花が活けられていたのだ。

 庭園で見た花によく似ている。

 レティシアは恐る恐る近づいてみた。

 白磁の花瓶には、花や植物や鳥といったものが何ひとつ描かれていなかった。

 鮮やかな顔料で活き活きと描かれているはずのものがないない。

 無地の白い花瓶は美しい曲線を持ち、しっとりとした光沢がしていた。

 誤魔化しひとつない。

 それは余計なもので飾るよりも高級品だということがわかった。

 花瓶には慎ましやかな花たちがあふれんばかりに活けられていた。

「マリー、これは?」

 レティシアは驚いて尋ねた。

「レティシアさまが帰ってくる前に、王宮の女官がきて花瓶ごと変えていったものですよ。

 その前は、大輪のピンクの薔薇が活けられていたのですがね」

 乳母のマリーが告げる。

 花瓶のそばには、領地の湖水を思い起こさせるような青緑のインクで書かれていたメッセージカードが置かれていた。

 流麗な筆跡のそれは、思わず額縁に入れておきたくなるような、美しいものだった。


『この花は夜のなると静かに香って良い眠りをもたらすので、よろしかったらどうぞ。

 花よりも美しい姫君へ』


 誰かに見られていたのだろう。

 男性の筆跡だった。

 まるで恋文のようなメッセージカードだった。

 何をしても平気点以下、という令嬢にとっては初めての贈り物だった。

 まるで恋愛物語のような展開に、レティシアの心臓はときめく。

 また領地に戻ったとしても、きっと良い思い出になるだろう。

 レティシアはそっとメッセージカードを手にした。

 香でも炊かれているのだろうか。

 合成されたくどいような香水とは違う。

 落ち着くような香りがした。

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