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04

 賓客のために与えられる一角にたどりつくと、乳母のマリーに睨まれた。

 ひとりで歩き回っていたのだから、当然だろう。

 それでも一番広い部屋に通された。

 そこには麗しい家族が待っていた。

 姉のブリジットだけではなく、宰相補佐官として忙しいはずの兄のジュールまでいたのだ。

 どれだけ心配されていたかわかるというものだった。

 年老いた両親もレティシアの姿を見ると微笑んでくれた。

 そこからは、レティシアはちょっとばかり後悔することになった。

 家族たちは豪勢なドレスや装飾品を用意していたのだ。

 リヴィエール侯爵令嬢にふさわしい。

 そう言わんばかりの品々だった。

 手紙の返事を出す前から用意したとしか思えないほどの一級品だとレティシアにもわかった。

「せっかくのパーティーなのだから着飾らないと」

 ブリジットはドレスを片手に言った。

 そのドレス一着で、領民の一年分の生活費なんて飛んでいきそうだった。

「そんな贅沢はできません」

 レティシアは首を横に振って、一生懸命に断った。

「可愛い妹を夫に自慢したいのよ」

 磨き上げられた碧玉の瞳がレティシアを見つめて微笑む。

 薔薇の花以上に華やかな美貌の姉に言われても、効果は薄い。

 確かに、可愛いは主観だ。

 客観ではない。

 自分の容姿の熟知しているだけに、なかなか首を縦に振れない。

 が、両親や兄まで勧めるのだから、さすがにレティシアも断り切れなかった。

 きっとこれも心配ばかりをかけている家族のための孝行だ。

 レティシアはそう思うことにした。

 華やかで、絹を何枚も重ね、手のこんだ精緻な刺繍が施され、レースがふんだんに使われたという贅の極みというドレスに袖を通すことになった。

 用意されたイヤリングやネックレスというものは真珠やオパールといったものだった。

 緩やかに癖のある紅茶色の髪はまとめられ、飾りピンやリボンで彩られた。

 普段はしない化粧を施されて、鏡の前に立たされた。

 やはり、婚約者がいない。

 嫁ぎ遅れの娘がするような恰好ではなかった。

 家族の前では、いまだに『可愛いレティ』のままなのだろうか。

 代々、宰相を輩出しているリヴィエール侯爵家でなければできないような贅沢な姿ではあったけれども。

 国家予算の一部なんて吹き飛んでしまうのではないのか。

 そう考えさせられる姿であった。

 ネズミ姫と呼ばれるような令嬢には見えなかった。

「レティには、こういう色合いが似合うわね。

 まるで春の花の精霊みたいよ」

 姉のブリジットが満足げに微笑む。

「悪い害虫がつかないか心配になるな」

 兄のジュールは思案顔で言う。

 悪い害虫がつかないから、いまだに婚約者がいないのです。

 とは、レティシアは言えなかった。

「少し疲れたので、夜会まで休憩してもよろしいでしょうか?」

 レティシアは言った。

 家族と会えたのは嬉しかったけれども、一刻も早く鏡の前から立ち去りたかった。

「長旅だったのに気がつかなくてすまなかったな」

 宰相の父が言えば、不安げに母も

「そうね。寝室でゆっくりするといいわ。

 レティの好きな本も取り寄せてあるから」

 と言ってくれた。

「では、お言葉に甘えまして」

 レティシアは優雅にお辞儀をして、寝室に逃げこんだ。

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