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エピローグ ~狭間の世界で~

エピローグ、最終話です。

今までつきあってくださってありがとうございました。

最後におまけが二つあります。


では、どうぞ。

「いらっしゃいませー」


店内に桜花の涼やかなが声が響く。

時刻は4時過ぎ、学校帰りのお客が店内に増え始める。


「鏡、ケーキセットと紅茶二つ」


「了解」


あれから数年。俺たちは葦原市という街で喫茶店『狭間の世界』を開店した。

それが俺たちに対する罰。

いつだったか俺が凍結の魔女に喫茶店をやってみたいと言ったのだが、それが見事採用されたのだ。

言ってみるもんだな、本当。

ちなみに、真雪と零はあの後も里に残り、退魔協会の任務に励んでいる。二人ともたまに店にも顔を出してくれるのだが、その度に私もここに置いてと泣き付かれて困っている。


「ただいまー」


「お帰り、鏡花」


「お帰りなさい、鏡花ちゃん!」


玄関から現れたのは、制服に身を包んだ黒髪紅瞳の美少女、鏡花。霊樹、いやミナモに願いが届き、新しい身体を得たもう一人の桜花。

鏡花は今、神奈備学園という学校に通っている。せっかく身体を得たのだし、楽しまないと駄目だ、みたいな訳のわからん理由で学校に行くことになり、最初は渋々通っていた鏡花だが意外と楽しんでいるようで最近は学校の話をよく聞く。


「む、桜花。ちゃんはやめいと何度も言っているだろうが」


「え?何で?」


「何でって、恥ずかしいんじゃよ。お客ならまだしも、身内に妾にちゃん呼ばわりする奴などおらんかったぞ。なんだったら。お前のことも、桜花ちゃんと言ってやろうか?」


「いいよ!」


「・・・ぐ」


「諦めろ、鏡花。何度言ったって同じだ。つーか何度目だ?そのやりとり」


「うむぅ、妾は、妾は諦めんぞ」


今日も今日とて、狭間の世界は平和だ。






「ご主人、カレーライスとナポリタン追加」


「了解、そろそろ休んでいいぞ哭月。鏡花も帰ってきたし」


そう言うと、ちょうど鏡花がウエイトレス姿で出てきた。

桜花と哭月も同じ制服を着ている。


「大丈夫よ、ご主人。今日は普通のお客さんだけだし、疲れてないから。それにそろそろ忙しい時間帯でしょ?」


その前に少しは休んで欲しかったのだが、本人はやる気らしい。まあ、疲れたら俺の生気が吸われることになるだけだったりするのだが。


「まったく、疲れたらちゃんと言ってくれよ?」


「了解、ご主人」


今更だが、狭間の世界の従業員の紹介をする。

マスターは俺、ウエイトレスとして桜花、鏡花、哭月。基本的にこの4人だ。

自慢ではないが、この店はそこそこ繁盛している。特に夕方から夜にかけてお客が多く、少し人手が欲しいときがある。バイトでも雇えばいいのだろうが、そう出来ない理由がある。

それは、先ほど哭月が言った「普通のお客さんだけ」という言葉に関係している。

狭間の世界には、喫茶店としての表の顔の他に裏の顔がある。

裏世界の情報屋。

それが、もう一つの狭間の世界の顔だ。

ここには、古今東西ありとあらゆる裏世界の情報が集まってくる。それを分析、整理し、情報を求めてくる裏の客に提供する。

一応、俺たちは退魔協会に属してるが、ある程度独立した立場にいる。つまりどういうことかというと、入手した情報は退魔協会に公開する必要はなく、こちらの独断でどんな情報を流していいということだ。

極論を言えば、退魔協会の情報を敵対組織に流しても構わないよん、ってこと。そんなことはしないけどな。

何で俺たちがそんなことが出来るとかというと、凍結の魔女とその上司、退魔協会の会長のお陰だったりする。

何か、会長が俺たちのことをいたく気に入った(特に桜花)らしく、許可を出したのだ。

まあ、中立的な機関としてこっちにも情報を提供してほしいみたいなことも言われたので、そういう思惑もあるのだろう。会長の所まで詳しい情報が回ってくることは稀らしく、個人で情報の提供元が欲しいそうだ。

情報屋として開業するには色々と苦労したものだ。各組織とのパイプをつくり、各地方の情報屋との提携等など、数年の時を要したのだ。それでも、凍結の魔女や『五亡星』の一人、凍結の魔女が唯一勝てないという『天魔界吏』という人物の協力で、事の外早く済んだのだ。

情報屋としての評判も上々で、うまくやらせてもらっている。

そちらを担当しているのは主に哭月だ。





「カレーライス、あがったぞ」


「はいはーい」


桜花がカレーライスを持ってテーブルへと運んでいく。それを目で追っていくと、いたのは見慣れぬ二人の男たちだった。この店の客はほとんどが常連客で、だいたいの顔は覚えている。そりゃもちろん、初めての客などいくらでもいるのだが、ここ最近はあまり増えていない。実はそれが少々悩みの種だったりする。

それはさておき。

その男たちはいかにも柄が悪く、カレーライスを運んでいった桜花の事をよからぬ視線で見ていた。それはもう舐る様な汚らわしい癇に障る視線だ。


殺ス。


もとい、桜花は天然でそういった客にも優しく対応するのだが、流石に今回の男たちはあからさま過ぎた。


「あ、あの、何か?」


「へへ、お姉ちゃん可愛いね。バイト?」


「こんな店のバイトなんてさぼってさ、俺たちと遊ぼうぜ。いいとこ知ってるんだ」


「あの、困ります。それに私はバイトじゃ・・・」


「いいからいいから。気持ちいいとこ連れてってあげるからさ~」


「バカ何言ってんだよお前。するの間違いだろ?」


「違いねえ。んじゃ、行こうぜ!」


「や、やめて下さい!」


あイつラ、マジデコロス・・・


じゃない、我慢我慢。一般人を殺すのはまずい。あー、でも殺したい。

本来なら俺が制裁を加えたいところだが、ちゃんと役者はいる。俺が出る幕じゃない。


「星慈、あいつ等は?何か知ってるか?」


「え?ああ、多分最近ここらをうろついてる不良。どっかの街を追い出されてきたそうですよ」


俺は目の前のカウンター席に座っている学生、星慈に聞く。星慈は鏡花と同じ学校に通っていてこの近辺に住んでおり、最近よく来てくれる常連客だ。ちょっと不良っぽく、よく喧嘩をしていると聞くが、根は優しくていい奴だ。そういった不良仲間が情報源なのかは知らないが、あの男たちのことも知っていたようだ。


「でも、あいつ等もある意味気の毒ですね。この店じゃなけりゃ」


「まあ、な。でもやっぱ俺が殺りたい。つか殺していい?」


「マ、マスター・・・」


そう、星慈の言うとおり、男たちは運がない。桜花を狙うということがどういうことか、その身をもって知るがいい。そしてシネ。

さて、そろそろか。


「ほら、来いよ!!」


「や、やめて・・・いい加減に」


「そこまでじゃ、下郎」


「あん?何だガキじゃねえか」


「おい、でも結構可愛くね?」


男たちの前に立ちはだかったのは、紅い瞳を輝かせた鏡花だ。男の手を振り払い、桜花を背に庇っている。その様は、正に威風堂々。その瞳は冷淡に細められ、男たちを睨みつけているが、男たちは気にした様子がない。


「邪魔すんじゃねえよ。俺たちはこれから楽しいことをするんだからよ」


「阿呆が。桜花はそんなことを望んでおらん。店にも他の客にも迷惑であるということが分からんのか、この塵虫どもが」


「な、ななな、何だとこのガキ」


「おいこら、俺たちをあんま怒らせんじゃねーぞ。お前、どうなんのか分かってんのか?」


「虫けら、その狭い視野を広げて周りを見ろ。自分がどういう状況にいるのか、その単細胞な脳味噌でも分かるじゃろう」


「何だと、もう一辺」


「お、おい」


「ッチ、何だ、よ・・・」


鏡花に罵倒されて頭に血に上った男たちにも、周りの客たちの視線を見れば自分たちがどういう状況にいるのかようやく分かったようだ。

店にいる他のお客たちは、皆一様に男たちを侮蔑と嫌悪を混ぜ込んだ瞳を向けている。男たちの味方は、誰一人として存在しない。


「く、そ。何だってんだよ」


「さて、屑共。自分たちの愚かしさを理解したのなら早々に去ね」


鏡花、一回ごとに男たちに対する呼び名が変わってるな。


「チクショウ、お、お前らもう容赦しねえぞ!」


「お、おいやめろって何もそこまでするこたねえ!逃げようぜ!?」


「うるせえ!!ここまで馬鹿にされて黙ってられるか!!」


男の一人が懐からナイフを取り出した。もう一人は既に逃げ腰になっている。しかし、一人で逃げる度胸もないのか未だに留まっている。まったく、さっさと逃げればよいものを。けど、鏡花は逃がす気は毛頭ないだろうけどな。

まあ、たとえ逃げたとしても食い逃げ確定だ。結局は同じ未来が待っている。


「お前ら、こいつが見えねえのか!」


男はナイフを振りかざし、己を鼓舞するように叫ぶ。その姿に畏怖を覚えるものなどいる訳もない。

お客たちもまるで恐怖を感じていないかのように、先ほどと全く変わらない視線を投げかける。むしろ、哀れむような視線が増えた。

逆に男のほうが、そんな反応を示す人間たちに恐怖しているようだ。


「な、何なんだよ。何なんだよお前らは!?クソ、やるぞ本当におれはやるぞ!?」


「やれやれ、大人しく引き下がればよいものを・・・・・・・・・・・・鏡、抹殺許可を」


「了承。っていうか店ではマスターと呼べ。マスターと」


「ふむ、以前言った条件を呑むなら考えよう」


「マスター、条件ってなんすか?」


「聞くな・・・・・・」


「な、こっち来るなよ。来るなぁあああー!?」


男はナイフを振り回し後ずさっていく。対する鏡花に怯む様子はない。

周りからは、やれー鏡花ちゃん、やったれ姫、抹殺抹殺、きゃー鏡花さまー、どっちにかける?って賭けにならんか、今回は鏡花ちゃんか、お気の毒に、浅墓な・・・だな、という声援がかけられる。

姫って言うのは鏡花の学校での愛称らしい。


「さて、下衆共。冥府に堕ちる覚悟はあるか?」





「やっぱり強いですね、姫。つか、えげつねえ」


先ほどの公開処刑を思い出しているのか、星慈が少し顔を青くしながら言う。

鏡花は気絶しないようなギリギリの絶妙な力加減で弄び、延々と痛みを与え続けていた。結果、物言わぬ肉塊が二つ出来た。

後は街の駐在さんが引き取る手筈になっている。駐在さんもこちら側の人なので、特に問題ない。今回のようなことは今までに何回もあり、駐在さんも桜花や鏡花の味方でどんどん殺っちゃっていいとの承認も得ている。

以前は俺が殺っていたのだが、一度瀕死にまで追い込んでしまったことがあり、鏡花が自分も殺りたいというのでそれ以来鏡花に任せている。

星慈が言ったとおり、鏡花のほうがある意味容赦ない。自分がターゲットになったこともあるから余計にその傾向が強い。


「あれくらいでいいんだよ。というか、俺なら魂の欠片すら残さずにバラバラに切り刻んで奴らの痕跡をこの世界から完全に消し去ってやるものを」


「・・・一応、言うだけにしてくださいね。マスターなら出来そうで怖い」


「だがまあ、懲りてもうこの店で同じようなことは出来なくなるさ」


「そりゃそうでしょうとも。学校でも恐れられてますし」


「え、そうなのか?」


「はい。漆黒の戦姫っていったら有名ですよ。懲罰執行人とか、必殺姫殿下も聞いたことあるかな」


・・・・・・あんまり学校のことには口出ししなかったけど、気をつけたほうがいいのだろうか。いくらこの街が色々と曰くつきの土地だとしても、あまり力を誇示するのもうまくない。

というか、本当に学校でどうしてるのだろうか。不安だ。あとそのツッコミどころ満載の厨二病的な呼び名は何だ。





とまあそんな感じで、俺たちはこの街で暮らしている。


俺が妖怪に転化して、本当に色んなことがあったけど、悪くなかった。こんな風に笑顔に囲まれて幸福を感じている。この今があるなら、何もかもよかったと思えてしまう。

俺は、色々と厄介ごとを呼び込む体質らしいからな。多分、この先も退屈することはないだろう。




ここは、街外れの喫茶店。


この店は人間だけでなく、妖怪や魔術師も訪れる。来るものは拒まない。たまに、叩き出す事はあるかもしれないけれど。


ここは、狭間の店。


誰にでも平等に、誰にでも等しくこちらの独断で対応する唯一の店。たとえそれが最強の魔術師だろうが組の頭だろうが関係ない。一度敵と定めたなら叩き出すし、お客と判断したならそれなりのもてなしをする。


ここは、本来なら関係のない、関わるはずのないモノたちが、共に時を過ごすことの出来る大切な場所。


いずれは表も裏も関係なく寛げる場所になったらいいと思う。俺が彼女たちとの生活で感じた温もりを、皆に感じてもらえる店になるように。

きっと、そんな店が一軒くらいあってもいいだろう。


「鏡、ハンバーグセット一つお願い」


「了解」


だから、俺たちはこれからずっと一緒に、この店を、異なる種族が訪れるこの店を営んでいく。

理想の店を目指して。

終わりが訪れるその時まで、永遠に。



この、狭間の世界で。







































































































































※おまけはあくまでおまけであり、本編とはあまり関係ありません。おまけは二つあります。


おまけ1



「やれやれ、一人で出てくるのも結構苦労するな」


森の中に蝉の声が木霊する。夏の強烈な日差しも木々に遮られ、ほどよい木漏れ日が地面を照らす。木々の間を吹き抜けて、涼しげな風が頬を撫でていく。

今俺がいるのは、葦原市のとある山中。目的地はこの山の頂。

砂利が転がっている急な斜面を、しっかりと足を踏みしめひたすら登っていく。結構な距離なのだが、これからのことを思うと、自然に足取りも軽くなる。


「しっかし、いい加減ごまかすのも無理かなぁ」


実は、桜花たちには俺がここにくる本当の目的を教えていない。というか、教えられない。特に桜花には。

そんな訳で毎回適当な言い訳をつけて来ているのだが、最近ネタがなくなってきた。最初の頃は疑うことなく送り出してくれたのだが、回数を重ねるとだんだん渋るようになってきた。

え?また行くの?

って悲しそうな顔で言われると弱い。それでもなんとか出てくるのだが、若干罪悪感がある。

で、このところ毎回妨害を受けているのだが、中でも鏡花の妨害が一番嫌だ。

鏡花は唯一俺の目的を知っており、何回か一緒に登ったこともある。

一応今までは黙っていてくれているが、いつバラされるかと不安で仕方ない。それを鏡花は面白がって色々と桜花を煽るのだ。時折真実に近いことを言うものだから気が気でないのだ。

しかも、哭月も元魔女だけあって、何か感づいているっぽい。四面楚歌ってこういうことを言うのだろうか。まあ、正確には自業自得なのだが。後ろめたいことをしているわけだし。


「っていってもどうしたもんか。今更本当のことを言ってもなぁ」


本当は最初から隠さずに言えばよかったのだろうが、最早後の祭り。どうしようもない。

目的はおいといて、あのことをバラされるのはどっちにしろ危険だしな。


さて、そんなことをつらつらと考えていると、目的地に着いた。

林を抜けると、一気に視界が開けた。そして目に飛び込んできたのは、桃色。

夏櫻。その原木だ。

周りの深緑に対し、鮮やかな桜色はなんとも神秘的な雰囲気を醸し出している。春園の里の春櫻と比べても見劣りしない。


「さて、頼むぞ」


『分かったよ。けど、ホント熱心だね。羨ましい限りだよ。ボクにも君みたいなヒトがいればいいんだけどねえ』


姿は見えず、頭の中に女性の声が響く。彼女はこの夏櫻の精だ。

彼女の協力なくして、目的は達せられない。


『まあ、そんなことをいっても仕方ないか。じゃ、いくよ?』


瞬間、俺の身体は光に包まれ、意識が何処かへと飛んでいった。


そして・・・


『会いたかったです。鏡様!』


終わり











おまけ2


その日はやけに暑い夏の午後だった。肌が焼けるような日差しが降り注ぎ、道行く人々の体力と気力を奪う。

そんな猛暑日に客足が伸びる筈もなく、決して閑古鳥という訳ではないが通常よりもお客の数は少なかった。いるのは、涼みに来たお客がほとんどだ。


カランッ


そんな時、新たに来店客があった。


「いらっしゃいま・・・せ」


それは、どこかで見たことがあるような中年くらいの夫婦と、小学生くらいの女の子だった。


「ここで、いいかね?」


「え、ええ。どうぞ」


彼らは俺の目の前のカウンター席に座った。


「あら?あなた、どこかで会ったことないかしら?」


奥さんが俺を見つめる。

俺はどう答えたものかと思案する。って、考えるまでもない、か。


「・・・いえ、初対面のはずですよ?」


「・・・そう」


奥さんは不思議そうに首を傾げると、ご主人と一緒にメニューを見やった。


「ふむ、これを三つもらえるかね」


「はい、少々お待ちください」







「皆さんは、どうしてこちらに?その様子だと観光ですか?」


「はい。娘にせがまれまして」


奥さんが困ったような顔をしながら言う。女の子の方はそんな会話に気付かず、夢中で料理を食べている。嬉しい限りだ。


「失礼ですけど、随分歳の離れたお子さんですね」


「え、ええ。ちょっと、事情がありまして」


「すいません。変なことを聞いてしまって」


「いえ、いいのですよ。みんな、同じ事を聞きますから」


その時、ご主人の携帯電話が鳴った。


「む、すいません。外に出てきます」


「はい、構いませんよ」


「あ、私もちょっと。じゃ、ちゃんとここにいるんですよ?」


「むぐ、んっ。うん。わかった」


ご主人と奥さんが揃って席を立った。奥さんのほうはお手洗いにいったらしい。


「おいしい?」


「うん!これって、お兄ちゃんが作ったの?」


「っ!・・・あ、ああ。そうだよ」


「すごいなぁ。私もお兄ちゃんみたいにお料理上手になりたいな。お父さんもお母さんもお料理下手なんだもん。私がやらなくっちゃ!」


「そっか・・・君ならきっと上手になるよ」


「うーん、そうかな~」


「ああ。俺が保障する」


「えへへ、ありがとうお兄ちゃん」


何か、この子にお兄ちゃんって言われると変な気分だな。

・・・ていうか、結構可愛い。や、小学生の子供としてですよ!?


「ん、しょ」


「ん?それは何かな?」


女の子はカバンから一枚の紙を取り出して、それを見ながらうーん、と唸っていた。


「え?んーと、お兄ちゃん。今から言うこと、お父さんとお母さんには内緒にしてね?」


「ああ、分かった。約束するよ」


「えっとね、お父さんたちは何も教えてくれないんだけど、実は私にはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるみたいなの」


「・・・へえ」


「お母さんの日記を偶然見つけて、そしたら歳の離れたお兄ちゃんとお姉ちゃんのことが書いてあったの。お兄ちゃんは死んだってことになってるみたいだけど、本当は生きていてどこか知らない場所で生きているって書いてた。後は妖怪とかよく分からないことが書いてあったかな。そのことを聞いてみたかったけど、内緒にしてたんなら聞かないほうがいいのかなって思って」


「うん。賢明な判断だったと思うよ」


「でもね、それでも私は知りたかった。会いたかったの。でも、探す方法もなくて困ってたら、あやし~い占い師のおば・・・お姉さんがこの紙をくれたの。これに、私の知りたいことのヒントが書いてあるからって」


何でお姉さんのところを言い直したんだ?


「なるほど。じゃ、もしかしたらこの辺に?」


「うん。そうなんだけど、お父さんたちに話すわけにはいかないから探すに探せないし、困っちゃった。なかなか手がかりが見つからなくて・・・」


女の子は悲しそうな顔を伏せた。まったく、そんな顔をされたらどうにかしてあげたくなるだろうが。これは血なのかね。この子といい、零といい、俺はどうにも彼女たちには弱い。


「でも、諦めるつもりはないんだろ?」


「うん!何が何でも見つけて、絶対に会いに行く!!」


「だったら、今回見つけられなくても、会えるまで何度もここに来ればいいじゃないか。何度でも、ね」


「そうだよね。ありがとうお兄ちゃん、なんか私弱気になってた。また、何度でも探しに来ればいいんだよね!」


「ああ。なんだったら、ここの常連になってくれると嬉しいかな?それは嫌?」


「ううん。お兄ちゃんの料理好き!この街に来たら必ずお兄ちゃんの料理食べに来るね」


これで一人常連客ゲット!や、冗談ですよ?

まあでも、俺の料理を好きって言ってくれるのは嬉しいな。

っとそういや、大事なことを聞いてなかった。


「はは、ありがとう。そういえば、君の名前は?」


「私の名前は、瞳。長谷川瞳っていうの!」


「瞳ちゃんか。いい名前だね」


「えへへ」


「そうだ、ちょっと待ってて」


俺はある物を取りに店の奥に行く。

受け取ってくれるといいんだが。


「ん?」


「これ、瞳ちゃんにあげるよ。お近づきに印ってところかな」


「うわぁ、綺麗。でも、こんなの貰えない」


取ってきたものは首飾り。水晶と銀の細工を施した秀逸の一品だ。ちなみに俺が作った。

俺は、瞳ちゃんに首飾りを付けてあげた。


「いやいや、瞳ちゃんに貰って欲しいんだ。それは俺が作ったものでね、あげる相手もいないし気に入ってもらえたなら受け取って欲しいんだ」


「で、でも・・・」


「こうして会ったのも何かの縁だよ。俺が持っていても仕方ないし、貰って欲しいんだけど。それとも、それはいらないかな?」


「うみゅ、卑怯だよお兄ちゃん・・・じゃあ、貰っちゃうよ?」


「ああ。お父さんたちには内緒にしてくれるかな?」


「うん、分かった。ありがとうお兄ちゃん」


そう言うと、瞳ちゃんは首飾りをカバンにしまった。


「・・・いい子だね、瞳ちゃんは」


「ふにゅ!?・・・・・・・・ふみゅうぅぅ」


瞳ちゃんの頭を優しく撫でてやると、最初は驚いたけれど次第に身体の緊張がほぐれ気持ちよさそうに目を細めていた。


「と、ごめん。馴れ馴れしかったね」


ああ、まずい。つい自然に手がのびてしまった。嫌われてないといいだけど。


「・・・ううん。そんなことない・・・・・・・なんか、きもちよかった。まるで、お兄ちゃんに撫でられてるみたいだった。ってお兄ちゃん知らないんだけど」


「・・・そっか」


「あ、そろそろお父さん戻ってくるかな。携帯閉じたみたい」


見ると、確かに玄関の外でご主人が携帯を閉じ、溜息を吐いているようだった。何かよくないことでもあったんだろうか。


「瞳ちゃん」


「ふみゅ?」


「お兄さんとお姉さん、見つかるといいね」


「うん!」


よく言うな、俺も。少し、心が痛む。


「お兄ちゃん、今度来たときにも頭撫でてくれると嬉しいな」


「え、いや、はい?」


この子は今ナントイッタ?

一瞬、零の姿が脳裏に浮かぶ。


「駄目?」


「いや、駄目って事はないけど・・・いいの?」


「うん。なんか、くせになったみたい。今も撫でて欲しいもん」


「・・・そっか、じゃ次にね」


「うん!!」









「ばいばーい、お兄ちゃん。また来るね」


「うん。また来てね」


行ってしまった。零にも会わせてあげたいな。ま、そう都合よく鉢合わせするなんてないだろうから難しいだろうけど。


「このロリコンが」


「ぶっー!?」


「いや、シスコンというべきかの?」


「き、鏡花・・・」


いきなり背後から鏡花が言った。まったく気配を感じなかった。感傷に浸りすぎたかな。


「そういうわけじゃないって・・・・・・・・・多分」


「そうか?あんなものをあげておいて」


「あ、あれは」


「どうせ、元々あの子にあげるつもりだったのだろう?」


「・・・あの子にって訳じゃないさ。ただ、もしいるなら俺たちがいなくて寂しい思いをさせたかなって、お詫びみたいなものだよ。それで許されるとは思わないけどな」


「よいのか?本当のことを伝えなくて」


「まだ、時じゃないさ。諦めるならそれでもいいし、たどり着いたなら、その時にな」


「もどかしいの」


「仕方ないさ。つーか、何であの子のこと分かったんだ?」


「妾に分からぬことなどない。伊達に長く生きてないということじゃ」


「肉体年齢は低いけどな」


「そんなことより気付いておるか?ここがどこで、自分が何をしてたのか」


「え?・・・・・・・・・・あ」


見渡す限り、白い目。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神よ、俺が何かしましたか?」


「小学生を誘惑しとったな」


「違うわ!?」


終わり

ということで最終話、エピローグでした。

やー長かったですね。最初は練習のつもりで始めたこの作品でしたが、どうにか終わらせることが出来ました。以前書いたような気もしますが、このラストは中盤くらいに考えたものだったりします。なのでかなり無理が生じています。最後説明文がやたら多いとか色々と。

これで作風が固まったかな?とか思いきやそうでもなく、まだまだ精進の日々が続きそうです。

この狭間の世界での世界観ですが、分かる人は分かるかもしれませんけど、思いっきり某型月さんに世界観に影響されまくってます。聖霊教会とかその辺。ま、違いは勿論ありますけどね。その他も結構似ている部分があったりします。

で、作者が書いている作品もこれと同じ世界観でのお話ということになってます。いつか違う世界観の物語と書くかもしれませんがそのときは、あとがきに書くと思います。多分。

このエピローグでは、他の作品から星慈と言うキャラがゲスト出演していたりします。詳しくは『七つの嘘と一つの真実』のほうをご覧下さい。


え~、なんか最後色々と迷走したこの作品(ミナモとか訳のわからんキャラが出てきたり浮気?したりなど)でしたが、このたび完結となりました。

今まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

狭間の世界ではこれで終わりですけど、外伝を掲載中です。まだ序章しか書いてませんけどね。第一章はもうちょっとしたら投稿しますのでしばしお待ちを。題名、あらすじの改訂もその時に同時に行います。

ここまで長々とあとがきを書きましたが、そろそろ終わりにします。

もう一度、今まで読んでくださりありがとうございました。精進してもっと満足のいく作品を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


では、また何処かで。

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