第三十一話 ~鏡花(前編)~
前編になります。
今回は短めの話になります。
では、どうぞ。
「相変わらず、見事なもんだな」
「そうだね」
悠々と聳え立つ春櫻の霊樹。花弁が舞い踊り、幻想的な空間を作り出している。
一年ぶりのこの光景は、きっと何度見ても飽きることはないだろう。
俺と桜花は霊樹の根元で、ただ霊樹を見上げていた。
何故俺たちがここにいるかというと、お願いが叶えられたからだ。
数日前、凍結の魔女から事の真相を聞いたあの日、俺はあるお願いをしていた。
『霊樹の力の使用』
それが、俺が望んだこと。
春櫻には『生命の創造』の力があるという。それがどの程度のものかは分からないが、試してみる価値はあると思った。
本来なら、そんな願いが聞き届けられる筈がない。個人的な理由で、しかも俺のような咎人の願いなどで、おいそれと使うわけにはいかないだろう。
だが、意外にもすんなりと許可が下りた。
理由としては、霊樹の力の検証というのが第一の目的だ。
霊樹の儀式自体ここ何百年と行われていなかっただけで、別段禁止しているわけではない。そして、その力がどれほどのものか分からない以上試してみるしかなく、俺たちの理由であれば問題ないと判断された。
それに加えて、俺たちを利用したことに対しての侘びと褒美が含まれているそうだ。
「準備はいいかしら、二人とも?」
背後に立つ凍結の魔女が言った。その隣には、人間の姿の哭月も控えていた。
彼女は監督として儀式に立ち会う。それだでなく、彼女には儀式のやり方等を教えてもらっていた。
本式の儀式には、余計な呪具など必要なく、力の中継点である媒介がいればいいとのことだった。儀式というよりは願掛けに近いという。後は、願いを伝えるための古の魔法陣だけ。
故に、必要なのは強い想い。強固なイメージ。
ただ注意しなければならないのは、願う者と媒介が共に同じ想いを抱いていなければならないということ。それも、邪念などない純粋な強い願いでなければならない。
それが出来なくば、願いは届かない。
アレが用意していた呪具は、媒介を洗脳し願わせるためのものだったのだ。魔法陣のことも知っていたそうだし、一応その辺の情報は握っていたらしい。
それはさておき。
「ご主人、桜花・・・」
心配そうに声を震わす哭月を安心させるように、ゆっくりと頷いた。
そして、桜花と顔を見合わせる。
桜花の表情からは、未来への希望が見て取れる。互いに迷いはない。俺たちの想いは一つ。必ずうまくいくと信じる。
俺たちは、草が刈られ均された地面に描かれた直径二メートルほどの魔法陣の上に立った。
俺は右手の、桜花は左手の親指の腹を噛み切り、血を魔法陣に垂らした。すると、魔法陣に血と同じ紅い輝きが奔った。
これで、準備は整った。
俺と桜花は、無言で霊樹を見つめる。心を合わせ、希う。
「「もう一人の桜花(私)に、新たな生命を」」
と、いうわけで三十一話前編でした。やー、あっさりした感じでしたね。
実はこれ、後編かなり長いんです。前編の五倍くらいですかね。丁度良く分けろよってな話なんですが、話的に丁度いいのが前編あたりまでなんですよね。
後編は説明が多くて。
つーことで、今回もこれ書いてる時点では後編を書き終わっております。ですが、投稿するのは8月になってからですかね。
残すところ、いよいよ二話となりましたが、どうか最後までお付き合いください。
では、また次回。