第三十話 ~奪還(後編)~
今回は後編です。
説明が多いです。
では、どうぞ。
「と、まあそういう訳よ」
俺たちは何故か、とある喫茶店でお茶をしている。
向かいに座っている凍結の魔女は優雅に紅茶を啜っている。
「あら、飲まないの?」
飲まないというか、今語られた真相があまりにも衝撃的で、手をつける気にならない。
それは隣にいる桜花と猫の姿の哭月も同じだ。難しい顔で凍結の魔女を睨んでいる。
まず最初に結論からいうと、俺たちは初めから嵌められていた。
俺があの里に招かれたことも、桜花が霊樹の森で目覚めたことも、儀式のことも、全て仕組まれたこと。
事の原因は、儀式を行おうとしたあの老いた幹部だ。
老人はとある名家の出身で、退魔協会でも高い影響力を持っていた。
老人はそれをいいことに、色々とあくどいことをしていたそうだ。無論、それは退魔協会の規定を破るものであったが、誰も彼を咎めることが出来ない。その行いにいい加減キレた、もとい、頭を痛めた退魔協会のトップは老人を更迭しようとしたが、影響力と地位が邪魔して簡単に切ることは出来なかった。探りを入れようとしても突っぱねられたのだ。
そんな時、老人がある儀式に失敗したという情報が入った。それは今回の件にも関係している。
その儀式とは、簡単にいえば霊樹の力を依代、媒介を介することで自分のものにするというもの。老人が欲したのは願いを叶えるという霊樹の力。
老人が失敗した理由は、二つあった。
一つは、儀式を行う季節。霊樹には最も力が高まる時期というものがあるのだが、違う時期に儀式を行おうとした。これは単に調べが足りなかっただけ。資料の文献自体が相当古いもので、きちんと解読できていなかったそうだ。
もう一つは、媒介として使おうとした妖怪が抗ったから。この妖怪こそ自らを封印し永い眠りについていた転生前の桜花だ。もう一人の桜花の大本。
媒介として使えるモノは限られていて、霊樹の力を一時的に受け止められるほど大きな器をもったモノでなければならない。人間では耐え切れず、妖怪でもそれほど大きな力に耐えられるものは、そういない。
老人には条件に当てはまる妖怪に何人か心当たりがあったものの、それほどの存在となるとおいそれと手を出すことは出来ない。下手をすれば逆に殺されかねない。そこで目をつけたのが、封印されていた九尾の狐だった。
ちなみに、儀式に利用される霊樹にもとある条件がある。
霊樹の中でも現在主流の枝分けされて増えたものではなく、原木と呼ばれる大元の大樹のみが使用される。代表的なものは、春櫻、夏櫻、秋櫻、冬櫻の四種の桜の霊樹だ。儀式に最適な時期は其々の名前に対応している。春櫻なら春といった具合だ。この原木だが、特定するのはかなりの至難の業だ。何せ霊樹自体は全国に何十本とあり、どれが原木であるのかわかる詳しい資料などない。
そんなこんなで儀式は失敗し、九尾の狐は力が消耗していたところに無理をしたため転生を余儀なくされ、儀式に使おうとした霊樹も無茶苦茶な術式が暴れまくったために枯れてしまった。
だが老人は諦めていなかった。
それを、退魔協会のトップは利用しようと考えた。
まず、原木の春櫻が生えている里、春園の里の情報を流した。老人はその情報につられ、目覚める前の桜花を春櫻の元に置き、霊樹の力に馴染ませようとした。
そこまでは良かったのだが、ある問題が残っていた。それは、転生した桜花が未成熟で器が小さくて媒介として機能しないことだ。
桜花が成熟するには精神的な成長が不可欠。それを促すために有効なのは、やはり他者との接触。
てことで、その頃丁度良く転化したばかりのこの俺が連れてこられた。つまり、あまり妖怪のことに詳しくない俺なら、普通に桜花と接することが出来るのではないか、という安易な考えだったようだ。ついでにいうと、真雪も同じ理由で連れてこられたらしい。
そして事が起きた場合、彼を捕まえることが出来るほどの実力を備え、且つ相手の立場に囚われない人間を用意する。
それが『凍結の魔女』と名乗る目の前の少女だ。彼女、実は退魔協会最高戦力と謳われる退魔協会直属の『五亡星』というチームの一員だ。彼女曰く、自分に勝てるのはこの世界でただ一人、らしい。
あぁ、喧嘩ふっかけなくて良かった。
そこまでが退魔協会が裏で仕組んだこと。
で、後は老人らがいつ儀式をするか監視し、その現場を押さえることば出来ればどうとでもなる。いくら何でも現場を押さえられ、証拠を突きつけられたら言い逃れは出来ない。
傷口が出来れば、後はその傷口の中を舐るように隅々まで抉ってやればいくらでも膿は出てくる。
というのが一連の騒動の真相だ。
いやはや、どうやら俺はあの老人にも、退魔協会にもいいように利用されていたらしい。まあ、あんまり実害はなかったのだから別にいいのだが。
一応ここまで説明したのでおまけに余計な情報を一つ。
何故、老人が時間をかけ苦労して入手した情報を、退魔協会が割りと簡単に入手できたかということを説明使用と思う。
当然、老人はバレないように退魔協会に対して徹底的な情報統制を行っていた。秘密裏に情報を集めていたため必要な情報を得るのに時間はかかったが、それは退魔協会とてそう変わらない。退魔協会としても老人に悟られないように調べなければならなかったため、条件はほとんど同じだった。
ならば何故簡単に情報を入手できたのか。
それは単に、退魔協会の直属の部下、『五亡星』のメンバーの一人がとても古い血筋の名家の出で駄目元で調べてみたら、少ないながらも老人よりも詳しい資料が残っていた。なんてしょうもない理由だったりする。
ここで追加情報。その資料を提供した『五亡星』の一人こそが、この少女が敵わないというただ一人の存在だという。
まあ、それはさておき。
「けれど、アイツもバカよね。あの里の霊樹じゃ願いは叶えられないっていうのに・・・」
「・・・は?えっと、それってどういう・・・」
アイツというのはあの老人のことだろう。目上の人間をアイツ呼ばわりするのはどうかと思・・・・・・・・やっぱいいか。
それより聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
「ん?・・・・あぁ、ごめんなさい。そういうことじゃないの。霊樹の力は本物よ」
「じゃあ、どういうことなんです?アレの願いが叶わないって」
「んー・・・まあ、そもそもアレの願いが何なのか私も知らないっていうか興味もないけど。そうね・・・」
凍結の魔女は少し考える素振りをした後、どこから取り出したのか、眼鏡をかけ腕組みをしながら言った。
「いい?まず、春、夏、秋、冬の原木にはそれぞれ固有の力があるの。例えば、春櫻には、生命の創造の力がある。試してないから本当かは分からないけど、植物くらいは創れるんじゃないかしら?逆に、誰かを殺して欲しいとかそういうのは出来ない。つまり、叶えられる願いっていうのはその固有の力にあったものでなければならない」
「・・・じゃあ、アレはそれを知らずに?」
「恐らくね。どんな願いだったのか知らないから、もしかしたら一致してたかもしれないけど。知らずに儀式をしようとしてたのは間違いないわ。前は夏櫻で儀式を行おうとしたみたいだから」
何だ。それじゃ本末転倒じゃないか。どっちみち、失敗してたかもしれないなんて。
「それより、問題は貴方達なのよね~」
「え?」
凍結の魔女は頬杖をつきながら、私悩んでます、というのを隠さずに表情に出している。眉間に刻んだ皺がそれを主張している。
「いや、貴方達の処分がね。本当ならこっちが利用したんだし全部仕組んでたわけだから、悪いようにはしたくないんだけど・・・」
「あ、あの、それってもしかして・・・」
何となく、その先の言葉が想像できる。元々お咎めなしとは思ってない。
色々、やらかしたからな。
「ええ。貴方達がボコボコにのしてくれた人間って結構な人数になってるのよ。いくらアレが仕出かしたこととはいえ、彼らは命令に従っていただけで罪はない。しかも骨は折れてるは、人によっては全身に裂傷を負っているなんてこともあって重傷者が多数。ちょっと庇いきれないのよね。死者がいないのが唯一の救いかしら」
あぁ、やっぱり。
「貴方達はあの里から強制退去。といっても、退魔協会には貴方達を手放すなんて選択肢はない。何せ人材不足なんだもの。だから処遇に困ってるのよねぇ」
「あ、あの、真雪と零・・・えーと雪女と雷獣の女の子はどうなるんでしょうか?」
「え?・・・その子たちなら問題ないわ。結構派手にやったみたいだけど被害は少ないし、仕事を増やすとかそれくらいのペナルティになると思うわ」
「そう、ですか。よかった」
気になっていた真雪たちに関しては、ほとんど問題ないとわかって一安心。
問題は俺たちか。里を出て行かなければならないというのは悲しいけれど、逆にそれくらいで済むのなら御の字だろうか。
さて、あとは俺たちがどうするかだが・・・・・・・・・あぁ、一つだけ俺にも出来そうというかやってみたかったことがある。漫画や小説なんかではよくある役割なのだが、果てして許可してもらえるか。
つーか、自分の処分を自分で考えるっていうのも間違っている気がするが、駄目もとで聞いてみよう。
「あの、一つ提案があるんですけど・・・」
「おもしろいわね、それ。上に掛け合ってみるわ」
なんと、意外に好感触。言ってみるもんだ。
「まあ、許可が下りたとしても数年は足場作りでしょうけどね。ま、でもこれで貴方達に関してもほとんど決定かな」
「「あ、あの」」
声が重なり、桜花と顔を見合わせる。どうやら、お互い同じ事を考えていたらしい。
さっきの説明を聞いてからずっと考えていた。もしかしたら、可能かもしれない。それが、許されるなら。
「鏡」
「ああ。あの、お願いがあるんですけど・・・」
これで三部に渡る奪還編は終了です。やー、最後説明だけですけどね。しかもこじつけだったり。
ぶっちゃけ、この真相って後付なんですよね。誰がヒロインが決めたの中盤くらいでしたし、その後にラストを考えたんでこんな形になりました。
最初のほう読んでもらえると分かるとおり、当初は真雪をヒロインに据えてました。が、なんとなく話が思い浮かばず、何故かロリへと。で、ロリのままだとあれなんで大きく・・・や、最初から大きくする予定はありましたよ、多分・・・きっと。
って、真雪の場合でもロリには違いないんですけどね。
零だとあまりにアレなんで。まーアリっちゃアリかなとは思いましたけど。
・・・・・・・・・もし、零がヒロインのIFが読みたいなーという方が万が一いらっしゃるのなら、感想のほうによろしくどうぞ。多分変な方向(ラブコメ+バトル風)になると思います。
えー、前回残り三部とか言いましたけど、アレなしで。良く考えたら全部で四十四部になっちゃんですよね。数字的に嫌だったんで一部増やします。中身薄いの一つ。更新スピードはさして変わりません。
というわけで、残り三部です。
では、また次回。