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第三十話 ~奪還(前編)~

物語りも佳境。

今回は前編になります。


では、どうぞ。

「さて、予定通りならそろそろ・・・・・・来た!」


俺は現在、九凰神社から霊樹の森へ続く道の途中にある茂みに隠れている。というのも、ここを桜花を連れた一団が通るという情報を得ていたからだ。情報源は円香。哭月が使い魔を奔らせて協力を要請し、円香が応えてくれた。


奴らは、桜花と霊樹を使って何かの儀式をするつもりらしい。桜花は儀式に必要不可欠なファクターであり、桜花がいなくては儀式は完成しない。

儀式に必要な呪具一式の到着を待ち、今日霊樹の森にて儀式を執り行う。それが、円香から得られた情報の全てだ。

どんな儀式かは知らないが、そんなことに桜花を使わせる訳にはいかない。

円香にもはっきりとは分からないらしいが、儀式が終わっても桜花はそのまま退魔協会に連れて行かれる可能性が高いらしい。他に使い道があるとかそんな話を小耳に挟んだとのこと。


作戦は単純だ。俺が単身桜花を連れた集団に突っ込み、桜花を奪取、すぐさま九凰神社に向かい里の外へ。その後のことは哭月の担当になる。里の外に逃げたら、哭月と合流し転移魔術を使い遠くへと逃げる。外であれば退魔協会に属していない組織も無数に存在する。それらが危険ではないとはいえないが、一時期隠れることは出来るだろう。それが出来なければ、哭月が小さな異界を創りその中に引っ込む。だが、これの作成には時間がかかるため、どの道時間を稼がなければならない。前途多難だ。

行き当たりばったりで作戦とすら呼べないが、今は他に方法はない。連れ去られてからでは遅いのだ。

他に夜中にこっそり忍び込んで掻っ攫うっていう案もあったのだが、流石に警備が厳しいだろうとの事で断念した。それにまだ哭月が有効な転移先を割り出していなかったので出来なかった。


「桜花は・・・いた!」


遠くから歩いてくる十数人程度の黒い集団。魔力を込め視力を強化し、その集団を注意深く見てみると、集団の中心辺りに桜花を確認した。何か手錠のようなものをしている。


「桜花・・・」


今すぐでも飛び出したい。逸る気持ちをどうにか抑え込む。まだ早い。奇襲するなら背後から。


「・・・あいつか」


集団の先頭に、高級そうな背広に肩から外套を羽織り、杖をつく奇妙な老人の姿が見て取れる。あれが、桜花を連れ去り、儀式を行おうとしている張本人らしい。詳細は知らないが、退魔協会の幹部らしい。

希望的観測をするのであれば、彼の老人が独断で行動していて、逃げた後で今回の件の不当性を別の退魔協会のお偉方に話せばどうにかなるかもしれない。

といっても、そうなる可能性はほとんどない。第一、幹部の知り合いなどいない。運よく接触できたとして、こちらの希望通りになるかどうか。うまくいかなければ敵の渦中に飛び込んでいくようなものだ。


「・・・・・・もう少し」


じっと、時を待つ。息を殺し気配を絶ち、襲撃のタイミングを計る。


「・・・・・・今だ」


奴らが通り過ぎ、若干距離が開いた所で一気に飛び出す。茂みに隠れている以上、少なからず音は出る。

気付かれてもいい。一瞬の隙さえ出来れば。後はその隙を使って、大きいのを準備する。

気取られる前に、前方の集団に向かって高く跳躍する。


「ん?」


「どうした?」


「いや、何か音がしたような・・・」


案の定、音に気付いたものがいる。だが、遅い。


凶ツ風・大嵐


「うわっ!?」


「な、何だ!?」


奴らが物音に気付いた直後、空気が爆ぜた。集団の後方に突如として突風が吹き荒れ、数人が吹き飛ばされた。

両腕に凝縮された風を纏い、それを着地と同時に地面の一点に向かって叩き付けることで嵐を作り出す。それが大嵐。

といっても、これは極小版。本来は数十人単位を一気に殲滅する大技だ。大嵐の名の如く、瞬間的に台風以上の風を生み出し、同時に全周囲に向かって無差別に風刃を打ち出す。そんなことをしたら桜花にも被害が出るため今回は極小の簡易版だ。


突然の事態に呆けている連中を尻目に、俺は地を駆ける。

数人が俺の目的に気付いたのか桜花を隠し、二人が走りこんでくる。流石に、阿呆ばかりではないか。


「止まれ!」


「取り押さえろっ!」


俺はさらに加速し、向かってくる二人の間をすり抜ける。二人は驚愕しつつも、己の責務を果たすため追おうとするが、出来なかった。


「っが!?」


「ヅァっ!?」


彼らの背後から複数の衝撃が襲い、各々片方ずつ腕と脚を折った。


凶ツ風・風牙


圧縮された膨大な空気を一点に集中して穿つ大気の拳。こちらも本来の威力なら、一撃で圧殺することすら容易なのだが、殺すと後々面倒なので動けないよう折る程度に留めておく。


「どけぇえっ!!」


「ぉごは!?」


桜花を隠していた男を蹴倒す。すると、無事な様子の桜花の姿が確認できた。


「・・・鏡」


抱きしめたい衝動に駆られるが、それを抑え込み困惑した表情の桜花を無視して抱きかかえ、そのまま反転。脱兎の如く逃げ出した。

その間、僅か十秒。どこぞの大泥棒もかくやというほどの早業だ。それは言い過ぎか。


「つ、つつつ捕まえろー!媒介をなんとしても取り戻すのだ!他は殺して構わん!!」


遠く後方から老人の声が聞こえる。すぐに追手がやってくるだろう。

俺はさらに速度を上げて、九凰神社に向け全力で疾駆する。


里の外で哭月と合流するまでに、出来るだけ距離を稼がなければ。

本当なら、里の中で転移すればいいのではないか、と思うかもしれないがそれが出来ないのだ。里の中では転移系の術は一切使えず、九凰神社以外には出口はない。一種の檻のようなものだ。まあ、妖怪の保護といっても隔離、管理するためのものだ。それくらいは当然だ。

もしそれ以外の方法で里を出るとしたら、壁を壊すしかない。この閉ざされた狭間の世界の壁を力技でこじ開けるほか、方法はない。闇禍であれば世界そのものすら斬ることが出来るそうなのだが、生憎俺にはまだ出来ない。もう少し時間があれば体得できそうなのだが。


「鏡!」


「ん?どうした桜花?」


暫く走っていると、腕の中の桜花が声をあげた。ちなみに俗に言うお姫様抱っこだ。


「鏡、どうして!?」


何を言うかと思えば、そんなことか。


「どうしてって、お前を助けに来たんだが。このまま里の外に脱出だ」


「でも、それじゃ鏡が!?みんなが!?」


桜花は悲痛な眼差しを向けてくる。言いたいことは、痛いほど分かる。俺も、同じだった。


「大丈夫だ。何とかなる。俺たちを信用しろ」


「っでも!?」


「お前さ、少し勘違いしているぞ」


「え?」


「桜花はさ、自分が犠牲になれば、とか考えているんだろう?それが、そもそもの間違いだ」


「で、でも・・・」


桜花は俯き、その顔を歪ませる。


「俺は、桜花がいないのは嫌だ。みんな、その気持ちは一緒だ。桜花がいなければ意味がない。お前は、家族の一員なんだからな」


「・・・・・・鏡」


「何より、もし桜花が死んじまったって聞いたら、俺は自殺しかねない。大げさだって思うだろ。けど俺は、妖怪になって、なんとなく生きてきて、やっと見つけた生きる理由だ。人間だった頃にも、そんな大層なものはなかったけどな。ともかく、お前は俺にとってそれだけ大切なんだ。あいつ等になんか渡せるか」


少し卑怯な言い回しのような気もする。だが、これは嘘偽りない俺の気持ちだ。


「それとも桜花は・・・俺とずっと離れたままのほうがいいっていうのか?」


「そんなことないっ!私だって、私だって鏡とずっと一緒にいたい!!」


「・・・なら、それでいいじゃないか。我慢する必要なんかない。自分に素直になればいい。後悔しないようにな」


それは、俺にも言えること。多分、あのまま桜花を行かせていたら一生後悔に苦しんだ。さっき言ったとおりに自殺なんて事にもなったかもしれない。

ま、俺自身哭月に焚きつけられた身っていうのは情けないけど。

自分に素直にっていうのは意外に難しいものだ。でもきっと、それが一番大事なんだろう。


「・・・・・・私は、鏡と一緒にいていいの?また、こんなことがあるかもしれないのに?」


「何度だって同じことだ。絶対、桜花を離さない。その結果は絶対変わらない。ずっとな」


「・・・・・・・・・・・・うん」


桜花はその双眸に涙を湛え、やっと笑顔を見せてくれた。たった一日見ていないだけのはずなのに、こんなにも胸を駆け巡る例えようもない想いがある。

やっぱり、俺は桜花がいないと駄目だ。

それから暫く桜花はしがみ付いて泣きじゃくっていた。

というわけで、奪還編。結構あっさりです。っていうか深い真相とかなんもないし凝っても仕方ないのであっさり仕上げてます。無駄に技を多く出します。

本当は闇禍とかも出したかったのですが、そちらの活躍は外伝のほうに。

中編も書きあがっているので、そちらは二、三日中にはあげます。

では、また次回。

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