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第三話 ~過去~

今回は夜叉についての説明です。

この夜叉についての設定は完全にオリジナルですので、実際の夜叉とは違います。


では、どうぞ。

「さて、一先ず協会からの説明はこんなところですが、何か質問はありますか?」


「・・・えーと」


九凰さんの話によると、夜叉とはとても珍しい、絶滅種危惧種のような存在らしい。

その特性は人間に恐怖心を与えること。というと分かりずらいが、つまりは自分の最も恐れる「何か」の幻を見せる能力だ。

見る相手によって、見える幻は違う。恐怖の対象など人それぞれなのだから当然だ。

夜叉を見た人間は、自分が無意識に最も恐れているモノの幻を夜叉に重ねて見て、逃げ出すというわけだ。この時、人間は夜叉を夜叉と認識出来ずに、恐怖の対象としてのみ認識する。

ただし、この能力、人間にしか作用しないらしい。妖怪や魔術師のような存在には全く影響しない。何というか、それでは意味がない気がするが、そのお陰で真雪や九凰さんに恐れられずに済んでいるのなら、それで良かったとも思う。

他の能力は圧倒的な身体能力と、独自の戦闘技術だ。

一応俺も、人間の首くらい、その気になれば簡単にへし折れる。ちなみに林檎も握りつぶせる。

戦闘技術というのは、夜叉の血に刻まれている夜叉のみが使える戦闘技法だ。

体術、剣術、魔術などを複合したもので、血に刻まれているため夜叉なら誰でも出来るそうだ。このことから夜叉は戦闘種族とも言われている。


「ちなみに、俺以外の夜叉っていうのはどれくらいいるんですか?」


「あなたも含めて確認されているのは、僅かに7人です」


「そ・・・」


「そんなに少ないの?」


真雪が俺の言葉を遮って言った。どうやら本当に驚いているらしく、目を丸くしていた。


「はい。かつての夜叉狩りのこともあるのですが、我々や他の妖の血に溶け込んでしまって、転化することもほとんどありませんから」


夜叉狩りとは、その名の通り夜叉を疎ましく思った人間が、退魔師や妖怪に依頼して夜叉の命を刈り取っていったことだ。

人間にとっては迷惑極まりない存在なのだから、当然の行動ともいえた。といっても、夜叉が人間に危害を加えたわけではない。

人間に近い生活をする夜叉は、人間との接触も少なくはなかった。最初は両者ともなるべく接触をしないよう心がけていたが、それでも僅かながら接触する機会があった。その僅かな接触で、人間は自身の恐怖心を抑えきれなくなったのだ。

当然、夜叉たちも反撃はした。しかし多勢に無勢だった。いくら優れた戦闘能力を持っていようと、圧倒的な数の前に手も足もでなかった。

やがて、夜叉は逃げるようにその姿を消した。

生き残った夜叉は、別に妖怪に匿われたり、夜叉狩りに加わらなかった退魔師の家系と交わることにより、その血は薄められていった。

それが夜叉の個体数が少ない理由だ。


「自分の正体を知った感想はどうですか?」


暫く俺が黙っていると、それ以上質問がないと思ったのか九凰さんが聞いてきた。


「・・・別に、感想とかはないですよ。まあ、不安は解消されましたけど」


「その割には、浮かない顔をしてますね」


「え・・・そう、ですか?」


「・・・うん。大丈夫?」


俺の問いに真雪が答えた。その瞳には心配そうな色が浮かんでいた。


「・・・大した理由じゃ、ないよ。ただ、あの時の両親あいつらや人間たちの態度の理由が分かったってだけで」


あの日、俺が転化したと思われるあの日に、両親は俺を拒絶した。

両親は俺を、まるで仇でも見るかのように睨みつけてきた。そして「来るな、化け物!!」と言って母親には包丁を突き付けられ、父親には「出ていけ、この化け物が!」と言われて家を追い出された。

他の人間たちは、俺を見た途端に金切り声を上げながら逃げていったり、その場に座り込んで動けなくなった人もいた。


「・・・・・・すいません」


「・・・・・・ごめん」


「え、いっ、いや、そんな謝られることじゃないし、顔を上げてくれ二人とも」


俯きながら謝罪の言葉を述べる二人に、俺はどうすればいいのか分からなかった。二人が悪いわけではないし、対処に困る。


「・・・もし、良かったら、詳しい話を聞かせてくれませんか?少しは楽になるかもしれませんから」


「わたしも、聞きたい」


「・・・分かりました」


特に隠すような話でもないし、俺はあの日に起きたことを包み隠さず、全てを二人に話した。


「・・・なるほど、そんなことがあったんですか」


それきり九凰さんは口を閉ざし沈黙している。下手な同乗の言葉を掛けられるよりはずっといい。

実際、話してみて少し気持ちが楽になった気がする。


「・・・・・・」


真雪は何事かを考えていたようだが、意を決したように口を開いた。


「ねえ、鏡の両親と鏡って実の親子なんだよね」


「ああ、そうだけど、それが?」


「え、ううん。別になんでも」


嘘が下手だな、真雪は。そんな申し訳なさそうな、叱られた子犬のような表情をしていれば、誰にだってばれる。


「真雪が言いたいことは分かる。アイツらにも薄いけど夜叉の血が混じってる。つまりアイツらは、俺が俺だと、認識できていたはずだ」


人間が妖怪に転化するのは、簡単なことじゃない。もともとその妖怪の血が混じっていない限り、転化することは、まずないのだ。その方面の異常な才能でもあれば別だが。

妖怪の血が混じっている時点で、それは普通の人間とは異なっている。だが、妖怪の血が薄ければ普通の人間とほとんど変わらない。

つまりアイツらの場合、人間として夜叉の影響は受けるが、妖怪の血がある分、完全に影響を受けることはない。俺を恐怖の対象と重ねつつ、俺だと認識出来ていたのである。

アイツらは俺を俺だと認識した上で、俺を拒絶した。


「あ、う、ごめん」


「だから、謝る必要はないって。俺自身、何とも思ってないし。むしろ・・・」


嘘、ではない。事実俺は、アイツらや人間たちの態度について疑問には思っていたものの、悲しみのような感情は抱いていなかった。それが妖怪に転化したが故のことであったとしたら、むしろその方が悲しいことだと思っていた。


「どうしたの、鏡?」


「いや、何でもない。俺は、真雪のお陰で、もう大丈夫だからな」


「ふぇ、わたしのお陰?」


そんな返事が返ってくるとは思わなかったのか、真雪は首を傾げて、分からないというような顔をしている。


「今朝、真雪言ったろ。俺は俺だって。だから大丈夫だ」


そう言って俺は真雪に微笑みかけた。というか自然に微笑んでいた。


「っ~!!」


「ん、どうした?」


「な、何でもない!」


何でもないわけはないと思う。真雪の顔は、熱でもあるかのように朱色に染まっており、とても大丈夫そうには見えない。

気になるので、真雪の顔を覗き込んでいたのだが、ふと真雪と目が合い見つめあう形となった。


「・・・ッオホン。私の家で二人の空気を作らないでもらえますか」


暫く見つめあっていた俺と真雪だが、九凰さんの咳払いと、どことなく怒気を孕んだ妙なセリフを聞いて、同時に目を逸らした。


「まあ、いいです。ともかく、正体が判明した以上、いずれはあなたにも協会の方から仕事を言い渡されるでしょうから覚悟してくださいね」


「はい、分かってます」


「なら、いいでしょう。今日は、ここまでにしましょうか」


それで、今日の話は終わりになった。






「はあ、なんか疲れたな」


九凰さんは神社の仕事がまだ残っているらしく、玄関の前で別れた。今は真雪と二人で境内を歩いている。

色々と衝撃的な事実が判明したのだが、心はここに来る前よりもすっきりして清々しい。痞えていたものが取れた感じだ。


「真雪は、どうだ?・・・真雪?」


返事がないので真雪を見ると、俯いて力なく歩いていた。いったい、どうしたのだろうか。


「おい、真雪!?」


「・・・おなか、空いた」


「・・・・・・へ?」


俺が間抜けな声を出すと同時に、ぐー、という音が真雪から聞こえた。

どうやら、本当に空腹のようだ。時計を見れば、だいたい2時を回った頃だ。いつもなら、昼食を終えて、家で寛いでいる時間である。


「はあ、早く家に帰って、昼食にするか」


「うん!」


それを聞いた途端に、元気になる真雪。もしかして、食べ盛りなのだろうか。

そういえば、九凰さんも昼食を食べていないはずだが、大丈夫だろうか。などど考えていると、いつの間にか真雪がいなくなっていた。

元気を取り戻した真雪は、そんなに早く帰りたいのか俺を置き去りにして走って行ってしまっていた。


「早く、鏡!」


階段の手前で俺を待っていた真雪が言った。


「ああ、分かってる」


階段まではまだ少し距離があるが仕方ない、お姫様の機嫌を損ねるわけにはいかないし、走るとしよう。


「もー、遅い」


「というか、空腹の奴が走るな」


「じゃ、おぶって」


「何で、そうなる!?」


そんな他愛のない話をしながら、俺たちは来た時よりも軽い足取りで、階段を下りて行った。


前回神社についての説明もするとか言いましたが、無理でした。

多分、そのうちまた神社の話書くと思うのでその時に。


えー、やっと第三話です。

ようやく、主人公の正体と過去が明るみに。まあ、実際はまだ色々あるんですが、それは後ほど。

第四話の方は、ほのぼのした感じでいきたいと思います。


では、また次回。

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