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第二十八話 ~離別~

今回は若干短いです。


では、どうぞ。

「どういうことなんです!?」


俺は、怒気を隠すことなく声を荒げ、手を机に叩きつける。

どうにも、衝動を抑えることが出来ない。


「ですから、何度も申し上げている通り、退魔協会からの正式な指令です。九尾の狐を我々に引き渡していただきたい」


先ほどから、この繰り返しだ。目の前にいる黒服の協会の使者を名乗る男は、その鉄面皮を崩すことなく告げる。


原因は数分前、彼らが九凰さんと共に家を訪れて、桜花を引き渡せと要求してきたのだ。

そんなこと、出来るわけがない。どんな理由があるにせよ、そんなこと!


「だから、何で桜花を貴方がたが連れて行こうとするんです!?理由は!?何で今更!?」


「落ち着いてください。それについては我々も詳しくは知らされていないのです。しかし、協会からの正式な指令である以上、我々にも貴方にも、拒否権はないのです」


「な、何なんですか!それは!?」


巫山戯るな。理由も知らされず、一方的になんて。いくら協会の指令だとしても、許容できる訳が無い。


「お断りします。今すぐにお引取り下さい!!」


部屋中に響く俺の怒声に眉一つ動かさず、黒服の男は冷静な声音で言う。


「そういう訳にはいきません」


黒服の男は溜息を吐き、俺に視線を向け、言い聞かせるように静かに言葉を紡ぐ。


「貴方は少々勘違いをされているようだ」


「勘違い?」


黒服の男は頷き、厳しい視線で告げる。


「これは貴方がたも所属している、退魔協会からの命令なのです。先ほども申し上げた通り、拒否権などない。それとも、退魔協会に牙をむくつもりですか?」


「ぐっ・・・」


返す言葉も無い。確かに、俺と桜花は退魔協会の管理の下この里に住んでいる。保護されているからこそこの待遇であり、命令には絶対遵守が義務付けられている。

それは分かっているつもりだ。だが、それでも!


「鏡・・・」


桜花が俺の袖を握る。その手は小刻みに震えている。瞳は不安で揺れ涙を湛えていた。

歯を食い縛り黙している俺をその冷めた双眸で見据え、黒服の男はゆっくりと立ち上がった。


「・・・これは最後まで言いたくなかったのですが」


「え?」


「・・・我々はこの件に関して、生殺与奪権を与えられています」


「っな!?」


最初は、言葉の意味が分からなかった。だが、暫くしてようやくその意味を理解した。そんな馬鹿な。それほどの大事なのか。嫌な汗が頬を伝う。

袖を握る手の力が強くなった。


「ご安心を。九尾の狐には一切危害は加えません。ですが、邪魔をするなら実力行使させていただきますが・・・よろしいですか?」


よろしい訳ないだろうが。俺だけならまだいい。だが、それが零や哭月となると、話は別だ。


「・・・・・・卑怯な」


今の俺は、苦虫を噛み潰したような表情をしていることだろう。悔しいが、次の言葉が出てこない。


「我々とて、これは本意ではありません。そちらの気持ちも理解できますが、どうかご理解ください」


事務的に発せられる言葉で理解できると言われても、なんとも思わない。それに桜花に危害を加えないというのも信用できない。だけど、零や哭月の命を盾にされたら、俺は・・・・・・どうすればいい。


「・・・・・・」


沈黙を肯定と受け取ったのか、黒服の使者は桜花の手を取り立ち上がらせる。


「では、行きますよ。九尾の狐・・・・・・・・・いえ、桜花さんでしたね。こちらへ」


「あっ」


「待て!!」


「っ駄目!?」


反射的に黒服の男の手を掴もうとしたら、九凰さんに阻まれた。俺を抑える手は動揺を隠し切れずに震えていて、それが少し俺を落ち着かせた。


「・・・駄目。駄目です。退魔協会に逆らったらどうなるか。鏡さんは、退魔協会の本当の力を知らないんです」


九凰さんは、今にも泣きそうな表情で言った。

確かに、俺は退魔協会の本当の力なんて知らない。だが、想像なら出来る。正直俺は、そこそこ強いほうだと自負している。その辺にいる妖怪にも、退魔師にも負けるつもりは無い。だが、組織が相手になると別だ。個対多では圧倒的に不利。それに、俺よりも強い妖怪や退魔師なんかも少なからず存在する。故に、俺が退魔協会に反旗を翻すのは自殺行為に等しい。


俺は全力で、自分を抑え付ける。九凰さんのお陰で少し冷静さを取り戻したからか、どうにか自身を制することが出来た。あのままだったら、男の手を取った後、何をしたか分からない。衝動に駆られて五体をバラバラに引き裂いていたかもしれない。


「・・・懸命なご判断です」


「・・・・・・桜花」


桜花は一度振り返り、不器用な笑顔をつくり、震える声で告げた。


「鏡・・・私は、大丈夫だから。だから・・・行くね」


俺は頷くことも出来ずに、ただ見つめることしか出来なかった。


男と桜花は外で待機していた黒服の男たちと合流した。俺たちも、追って外に行く。


「・・・・・・我々はこの後九凰神社で待機し、明日新たな増援と共に指令を遂行します」


「・・・その指令って何です?桜花は、何を・・・」


俺は、その答えが返ってこないと分かっているが、聞かずにはいられない。少しでも、こうして桜花と一緒にいたかった。


「それは、今夜、あるいは翌朝に合流する増援から伝え聞くことになっています。・・・これ以上は、ご勘弁を。これでも規定違反スレスレなのです」


「・・・そう、ですか」


男が申し訳なさそうに言う。表情に変化は見られないが。

思えば、この男は常に紳士的に、冷静で丁寧な態度で接してくれた。絶対的な命令であれば、もっと強引に連れて行くことも出来たであろうに。それを思うと、少し罪悪感が込み上げる。

それでも、まだ納得は出来ていない。出来るなら、今すぐにでも桜花を奪い返したい。だが・・・


「それでは、これで失礼します」


男たちと桜花、九凰さんが去っていく。


「桜花っ!」


「・・・鏡、大丈夫。またすぐ会えるよ。じゃあ、またね」


桜花はそう言って、俺に背を向けて歩いていった。


「・・・・・・・・・バイバイ、大好きだよ、鏡」


桜花が何かを呟いたような気がしたが、俺には聞こえなかった。


俺はそのまま、桜花たちが見えなくなるまで、呆然とずっと見ていることしか出来なかった。

どうしようもない喪失感が俺を襲う。胸の中の大事な部分がごっそり抜け落ちたような錯覚さえ覚える。

目の前が真っ暗で、何も見えない。まだ太陽は空高くあるはずなのに、俺の周りには闇しかなかった。


俺は、どうすればいい。

はい、というわけでまんま分かりやすい展開で申し訳ありません。や~、まあ、変に凝ると終わらない気がしてシンプルにしてみました。

なんで、書くこととかあんまりないです。

実はこれ書いてる時点で既に次話は書き終えています。つーことで、数日中に投稿しますので、よろしくお願いします。

では、また次回。

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