第二十七話 ~異変~
前回から数ヶ月経過しています。
今回からクライマックスに突入です。
では、どうぞ。
「ねえ、鏡。こんな感じでいいかな?」
「ああ、そうだな・・・もうちょっと塩味がきいててもいいかな」
「わかった」
桜花が真剣な表情で鍋に向かい、塩を少々つまみ入れ、味を確かめる。それを何度か繰り返し、今度は自信ありげな表情で小皿を俺に渡す。
「今度はどうかな?」
「どれどれ」
ん、丁度いい。
「うまい。いいんじゃないか?」
小皿を桜花に返すと、桜花は満面の笑みを浮かべた。
「やった。ありがとう、鏡」
本当に上手くなったものだ。最初の頃は、これは食べ物なのかどうかすら怪しい物体しか出来なかったのに。
俺と桜花がこうして料理の特訓をするようになった理由は、実のところ良く覚えていない。多分、些細なこと。零か真雪と口論の末、とかそんな感じだったような気がする。
俺としては、桜花とこうして台所に立っていると若夫婦の共同作業みたいな感じで楽しかったから、理由とかはどうでも良かった。まあ、俺に美味しい料理を作りたいからとかだったら嬉しいのだが。
そういえば、最初の頃は味見の時も、「間接キス」だとか一々赤面していたな。今では慣れたもので恥ずかしがることも無い。残念なような、良かったような。
「鏡、お皿取って」
「あ、ああ」
「もう、どうしたの鏡。ボーっとして」
「いや、何でもないよ」
ほんの少し、昔のことを思い出していただけ。あと、台所姿が板についてきた桜花が、若奥様みたいで可愛いなと見惚れていたのだが、そんなこと正直に言える訳がない。
「美味しかったわ。本当にアレを桜花が作ったとは思えないくらいにね」
「それは褒めてるの?貶してるの?」
「褒めてるのよ」
哭月は桜花の料理を食べてそう評価した。初期の桜花の料理を知っている人間としては、当然の反応かもしれない。
今食卓にいるのは、俺と桜花、哭月だけだ。真雪と零は用事があって出かけている。
「まあ、いいけど。少しくらい上達しないと、先生に申し訳ないじゃない」
「だそうですけど、先生の評価は?」
「んー・・・星三つ」
「本当!」
「甘やかさないでよご主人」
「いやいや、本当にうまくなったよ。ま、星三つは言い過ぎかもしれんがな」
「本心は?」
「桜花が作ったものなら何でも美味しい」
「も、もうっ、鏡。そんなこと・・・」
「はいはい。ご馳走様」
哭月は半目で俺たちを睨みながら溜息を吐き、食器を流しへ持っていった。
これが、今の俺たちの日常。
あの夏祭りの告白から早数ヶ月が経つ。季節は春。俺がこの里に来てから約一年。
まあ、色々なことがあったものだ。最初はどうなることかと思っていたが、それなりに楽しかった。
今は桜花という大切な人が出来た。家族と思える仲間たちもいる。何故だろう、こんなにも幸せだと、逆に不安になるのは。
俺がそんなことを思った、丁度、その時だった。
「ごめんください」
「鏡、誰か来たみたい」
「ん、俺が出るよ」
短く呼び鈴が鳴り、俺は玄関へと向かう。
「はい、どちら様ですか?」
玄関を開けると、九凰さんと怪しげな数人の黒服の男たちがいた。
訝しげに俺が見ていると、九凰さんが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「あの、鏡さん。実は大事なお話があって・・・」
「大事な話?」
俺が聞き返すと、九凰さんは気まずそうに口を閉ざしてしまい、代わりに一番前にいた黒服の男が言った。
「この家に九尾の狐がいますね?」
「え・・・ええ。桜花は確かにいますけど・・・」
知らず、鼓動が加速するのを感じた。嫌な予感が、嫌な想像が頭をよぎる。
「単刀直入に言います。九尾の狐をこちらに引き渡していただきたい」
「・・・・・・・・・な、んだって?」
はい、すみません。
いきなりの急展開。いきなりのクライマックス突入です。これもすべて見切り発車したツケですね。まあ、練習のつもりで始めた作品ではあるのですが。
とまあ、そんな訳で最終章ということになりました。といっても、実は数日の出来事なんですけどね。
空白の期間は外伝のほうで少しやると思うので、そちらをご覧下さい。外伝では、戦闘や各キャラを掘り下げていこうかと思っています。
さて、それではあと数話ほどですが、最後までつきあってくださると幸いです。
では、また次回。