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第二十六話 ~夏祭(中編)~

今回は中編です。


では、どうぞ。

「ねえ、鏡、次はあっちに行こう」


「ああ、分かったよ」


苦笑を零しながら、桜花の後を追う。

桜花が向かったのは、どうやら綿飴屋のようだ。独特の甘く香ばしい匂いが鼻を擽る。店先には今流行の特撮ヒーローや人気アニメのキャラが描かれたパンパンに膨らんだ袋が飾られていた。

しかし桜花はそんな袋よりも、綿飴機の方に興味があるらしく、熱心に綿飴機を見つめている。

綿飴機には回転する釜があり小さい穴がいくつも空いている。その釜に砂糖、この店ではザラメを入れ、加熱し高速回転させる。このとき発生する遠心力によって、白く細い糸状のようなものが穴から吹き飛ばされてくる。店員はそれを割り箸を使って、器用にクルクルと回すとあっという間に白いふわふわした綿飴が出来上がる。

子供の頃は、これを見て訳も分からずわくわくしていたことを唐突に思い出した。

いつの時代も、子供心は変わらないものなのか、この綿飴屋でも幾人もの子供たちが綿飴を作る様子を見てはしゃいでいた。その輪の中に、桜花が混じっているのが少々アレな感じはしたが。

店員も、子供たちに混じって金髪の可憐な美少女が見ているのに気づき、戸惑っているようだった。というより店員が若い男性であったために緊張していたのかもしれない。出来上がったのはお世辞にも綺麗とは言えないほどに歪んだ綿飴だった。

桜花は、「それを下さい」と言ってお金を払い、嬉しそうに戻ってきた。


「あまーい。鏡も食べる?」


桜花が俺の目の前に綿飴を差し出す。


「じゃ、ちょっとだけ」


迷うことなく綿飴を小さく千切り、口に運ぶ。口に含んだだけで綿飴は溶け、口いっぱいに甘さが広がる。甘いものは嫌いではないが、これだけで十分だ。とても一個は食べる気にはならない。


「・・・甘い、な」


「あはは、鏡には甘すぎた?じゃ、後は全部貰うね」


「ああ、召し上がれ」


俺と桜花は、こうして幾つもの出店を巡っていた。

焼き蕎麦、焼き鳥、たこ焼き、林檎飴、クレープに今の綿飴と、食べ物ばかりなのは気にしてはいけない。俺も桜花に付き合って色々食べていたのだが、そろそろ満腹になりそうだ。


桜花は本当に楽しそうだった。俺にとっては見慣れたよくある祭りであったとしても、桜花にとっては全てが初めてで、何もかもが新鮮に感じるのだろう。たとえ食い気にはしっていようが関係ない。

楽しそうな桜花の笑顔を見ていると、俺も満たされた気分になった。


「あ、次はあれやろう?」


桜花が指差した出店の看板には、金魚すくいと書いてあった。


「金魚すくい、か」


正直、金魚すくいは得意ではない。すぐにポイの紙が破れてしまってうまく掬えないのだ。


「ダメ?」


「いや、やろう」


「うん!」


とことん桜花に付き合うと決めているのだ。得意でないからといってやらない理由にはならない。まあ、格好いい所をを見せたいと思うのは悲しい男の性なのだろうが、桜花の笑顔のためだ。


「あ、破けちゃった」


「残念、お譲ちゃんはそれで終りね」


「む~、鏡頑張って」


ポイと小さな桶を持って、格闘すること十数秒。早々に桜花はポイを破き、無慈悲な声援を俺にくれる。

店主の残念という言葉を聞いて、桜花は少しむくれた。結構悔しいみたいだ。

値段は一回200円とかなり良心的な店なのだが、如何せん金魚が元気すぎる。水槽の中を縦横無尽に泳ぎ回る金魚に疲れは見えず、気を抜くとすぐに紙を破られてしまう。


「むむ・・・・・・・・・・・・よし!」


動きが鈍り出した金魚の一瞬の隙をついてまず一匹掬いあげた。


「さて・・・お次は、と」


このままの勢いでどんどん行こうと調子に乗ったのがいけなかったのか、二匹目を掬いあげると同時に紙が破れた。


「わ~、可愛い」


桜花が袋に入れられている二匹の金魚を見て言う。


「金魚鉢を用意しなきゃな」


「うん。ちゃんと御世話しようね」


「あ~、やっと見つけた!」


桜花と金魚について話していると、我が妹君の声が聞こえた。


「もう!お兄ちゃん。探したんだよ!?二人で先に行っちゃって見失うし。なかなか見つからないし。なのに、何お兄ちゃんは二人で楽しんでるのかな?」


「ごめんごめん。何か埋め合わせはするよ」


「ふん。私は安くないよ?」


それから延々と零の愚痴を聞かされた。

しかし零よ、確かに俺も楽しんでいたが、お前がその手に持っている袋を見る限り、そっちも十分楽しんでたんじゃないかと思うのだが。あえて何も言わないけど。

けど、おかしなものだ。確かに祭り会場は人に溢れているが、それほど広いわけではない。探そうと思えば、すぐには見つからなくとも発見するのにそれほど時間はかからないはずだ。

どういうことだと考えていると、ふと哭月と目があった。その目を見ただけで誰が原因かはっきりと分かった。哭月は意味ありげにニヤリと口端を釣り上げた。多分、真雪もグルなのだろう。真雪も意地の悪そうな笑みを浮かべていた。


「私にも何かお願いするわね、ご主人?」


「私も」


「・・・了解です。ご両人、お手柔らかに」


要らぬ気づかいだったような、そうでもないような。ともかく、桜花と二人で祭りを回れたのは嬉しかったので、何か考えておくことにしよう。


それから五人で祭りを見て回っていたのだが、途中で聞きなれた声が耳に入ってきた。


「へい、いらっしゃい!」


「あ、銀司。何やってるんだこんな所で」


「げ、鏡とその御一行」


「げ、とはなんだ、げ、とは」


とある屋台で銀司が店員をしていた。そういえば、祭りの日には何かやることがあると言っていたような気がしないでもない。どうでもよかったので、つい忘れていた。


「・・・・・・何か今とてつもなく失礼なことを考えてなかったか?まあ、いいや」


いいのか?


「それより、やっていかないか、安くしとくぜ」


「ほう、射的か」


銀司の店は射的なようで、的はより取り見取り。お菓子からぬいぐるみに携帯ゲーム機、さらには絶対に落とせそうにないほど巨大なぬいぐるみ等など、色々と揃っていた。


「ていうか、誰?」


「っておいっ、いい加減覚えてくれませんかねえ!?つーか前にもこんなやり取りした覚えがあるんだが?まさかこれはいじめか、いじめなのか!?」


「あんた誰?鏡知ってる?」


「誰だったかしら、分かる?ご主人」


零の言葉に同調するように言う真雪と哭月。

零は素で分かってないんだろうけど、真雪と桜花は完全に悪ノリしている。顔には出さないようにしているつもりかもしれないが、彼女たちの表情には喜悦の色が見てとれた。


「・・・酷い」


「ま、まあそんなに銀司をいじめてやるなよ。ほら、射的やるから」


「きょ、鏡。やっぱり持つべきものは親友だな。ほい、サービスするから痴呆のはいっているお前の妹たちの分まで楽しんでくれ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほう、了解した」


「あれ?・・・・・・鏡、さん?」


はて、親友?誰が誰の?

さて、楽しんでくれというならとことんやってやろうじゃないか。

俺は無造作に空気銃を手に取り、引き金を引いた。すると、コルクの弾は吸い込まれるようにぬいぐるみに当たり、後ろに落ちた。

それが、地獄の始まりだった。


「や、やめてぇぇぇぇー!!!これ以上はやめてくれぇぇぇ~!?」


「はっはっは、これでラストだ!」


「いやああああああああああああああぁぁぁっっっ!!?」


銀司の断末魔の叫びが響く中、全ての的を落とした俺は、四つのぬいぐるみだけを手に取った。

その瞬間、割れんばかりの拍手が耳に響いた。いつの間にか、人だかりが出来ていたようだ。まあ、結構派手にやったからな。

仕方ない、色々と言いたいことはあるが、これだけ言っておこう。


「こんなにいらんから、これだけ貰ってくな。あと、次ふざけたことぬかしたら・・・分かってるな?」


俺の言葉に、銀司がどんな反応をするか見る間もなく、俺たちはその場を去った。


「さすがお兄ちゃん。射的、昔から得意だったもんね」


「へー、そうなんだ。けど、ご主人。あれって・・・」


哭月の言わんとすることは分かる。あの的の中には、普通に狙っても絶対に落ちないような的もあった。それをどうやって落としたのかというと。


「哭月、インチキはばれなければインチキにはならないんだよ」


哭月にはばれていたみたいだけどな。けど銀司は気づいてないようだったし問題ないだろう。


「そういう問題じゃないと思うけど。まあ、そういうことにしておきましょうか」


哭月は、やれやれといった様子で肩を竦めた。顔には苦笑が浮かんでいる。


「んじゃ、はい。これ皆にな」


俺は射的で落としたぬいぐるみを四人に配った。


「わー、ありがとう鏡」


「ありがたく貰っておくわ。鏡」


「ありがと、お兄ちゃん!」


「ふふ、ありがとう、ご主人」


四人は嬉しそうに微笑み、ぬいぐるみを大切そうに胸にかき抱いた。

そろってそんな仕草をされるとこっちが恥ずかしくなるのだが。俺は赤面しつつ、恥ずかしさを誤魔化すように言った。


「さて、それじゃそろそろ神楽が始まるし、行くか」


「うん、楽しみだね」


そうして、俺たちは神楽の行われる舞台へと向かった。

今回はあとがきは短めに。

本当は神楽まで書きたかったのですが、少し長くなってきたのでここで切りました。その分、後編は長くなるようなそうでもないような。

後編は多分、みなさんのご想像通りの展開になるかと。たぶん。

では、また次回。

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