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第二十六話 ~夏祭(前編)~

三部構成にしました。


今回は前編です。


では、どうぞ。

「・・・さて、思ったより早くついてしまったな」


今居るのは、九凰神社の人間の町側の階段の下。時刻は、陽も傾き夕日が沈み始める頃。涼しげな風が頬を優しく撫でていく。

何故俺がここにいるのかというと、俗に言う待ち合わせというやつだ。

何を隠そう、今日は九凰神社の夏祭り。涼しくなるのを待って、零や桜花たちとここで待ち合わせすることになったいた。

だが、何で同じ家に住んでいて待ち合わせをするのだろう。一緒に行けばいいのではないだろうか。零は、これも一つのイベントだとか、お約束だとか訳の分からないことを言っていた。

まあ、他の皆も零の言葉に頷いていたし、一緒に行かなければならないという理由も無かったので別にいいのだが。


「へえ、結構賑っているんだな」


九凰神社の境内だけでなく、階段下にも出店が軒を連ねていた。既に営業を始まっているようで、威勢のいい声が聞こえてくる。祭り特有の活気とでもいうのだろうか。この声が祭りの雰囲気を作り出す一つの要因でもあるのかもしれない。

人通りはまだ疎らだが、出店で何やら買物をしていく人もいるようだ。


「良かった。割と浴衣着てる男もいるんだな」


暫く人通りを眺めていたのだが、思ったよりも浴衣を着ている男が多かったので安心した。

というのも、俺も桜花たちに合わせて浴衣を着てきたからだ。というより、桜花たちと一緒に浴衣を買わされた為、せっかくだからというのが本当の理由だったりする。

俺の浴衣は特に柄というものはなく、紺一色。袖の辺りに一つ蝶々のワンポイントがあるのみ。辺に目立つ赤色とかよりは、この方が俺は好ましかった。


そんなことを確認しながら暇を潰していると、ようやく待ち人たちが来たらしい。

やたらと目立つ集団がこちらに向かって歩いてくる。ちらほらと増え始めた祭客が、自ら端に避けて彼女たちの行く道を開けていく様子は、さながらモーセの十戒だ。正確には十戒ではなくて、それを授かる途中の出来ごとに海を割るというのがあったのだが、ともかくその眺めは壮観だった。

そんな彼女たちの行く先が俺の前だったりするのだから自然と俺も注目を集めてしまう訳だが、俺にはそれを気にする余裕もなかった。


「・・・鏡、待った?」


「・・・・・・・・・い、いや、今、来たとこだ」


社交辞令とかではなく、本当にすまなそうに言う桜花に、俺はお決まりの台詞を返すので精一杯だった。何故なら・・・


「えと・・・どう、かな?」


「・・・可愛い」


それ以外の言葉を思いつかなかった。

桜花は白地に紫陽花の柄の浴衣を着ている。浴衣を買いに行った際、俺も一緒に選んだのだが、結局どれを買ったのかは知らなかった。

いつもとほんの少し違う服装と言うだけでこうまで印象が変わるものとは思わなかった。いつもは明るく笑顔を振りまいていると印象だが、今はその滑らかな金髪と白い肌、そして浴衣とがうまい具合に調和して、普段とは違う色っぽさと可愛さを演出していた。


「そ、そう?よかった」


そう言う桜花の顔は真っ赤で、恥ずかしそうにはにかむその笑顔に俺は思わず心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。


「あら、ご主人。顔、赤いわよ」


俺の顔を見てくすくすと意地の悪い笑みを浮かべながら哭月が言った。


「ゆ、夕陽のせいじゃないか?」


どこかで聞いたことのあるような苦しい言い訳だと自分でも思う。だが、誤魔化そうにも頭が真っ白でこれ以上なにも考えられなかった。


「そういうことにしとこうかしら。で、ご主人、私はどう?」


「・・・綺麗だな。すごく似合ってる」


「ふふ、ありがとうご主人」


哭月は黒地に椿の柄の浴衣を着ていた。可愛いというよりも、綺麗という表現の方がしっくりくる。元、異国の魔女は日本の夏の衣装を完全に着こなしていた。


「ねね、お兄ちゃん。私は?」


「可愛いんじゃないか」


「えへへ・・・」


零は黒地に朝顔の柄の浴衣を着ていた。まだ少しあどけなさの残る美貌と浴衣は凄く合っていて、零の可愛らしさをより一層、ひきたてていた。


「じゃあ、鏡、私は似合ってる?」


「うん、似合ってる」


「・・・なんか、そっけない気がするけど。嫌な気はしないわね」


真雪は白地に杜若の柄の浴衣を着ていた。正直似合っているのだが、普段から着物や浴衣を着ている真雪なので、物珍しさはない。が、自然に着こなしていて、まったく違和感がなかった。素直に似合っているといえるだろう。


「うーん、桜花の時が一番反応が大きかったかしらね」


「さ、さて、こんな所に突っ立っていても仕方ない。円香の神楽もあるし、そろそろ行くとするか」


俺は嫌な汗が流れるのを感じつつ、我先にと石段に足をかけた。


「神楽まではまだまだあるわよ、ご主人」


ぐ、普段から主人と読んでいるのだから、ここは黙って行かせてほしい。というか、余計なことを言うな。


「まあ、どちらにせよ揃ったんだから早く行くとしよう。せっかくの祭りなんだからな」


「・・・もう少し遊べるかしらね」


俺の言葉に頷いて皆で石段を登り始めたのだが、その中で小声で哭月が呟いているのを耳にとらえた。

って、やっぱり確信犯かい。


「神楽って、いつぐらいからやるの?」


桜花が俺に隣に並んで来て聞いてきた。


「うーん、確か八時くらいだったかな。花火が始まる前にある筈だから」


神楽というのは、この夏祭りで毎年行われている所謂巫女神楽というものらしい。去年までは九凰さんが踊っていたそうだが、今年からは円香が踊るらしい。

ちなみに花火は九時以降である。


「そっか。楽しみだね」


「そうだな」


九凰さんが特別席を用意すると言っていたが、円香は頑なに拒否していた。まあ、自分に相当自身のある自己主張の強い人物でもなければ、遠慮したいところだろうな。正確に言うと、九凰さんの場合、そうして慌てふためく円香を見るのが好きらしいというのを最近知った。

俺も人のことを言えないが、あの人も相当なシスコンである。


「鏡、行こう!」


そんなことをつらつらと考えながら階段を登っていると、桜花が堪え切れなくなったのか、俺の手を引いて走り始めた。


「ちょ、待てって。分かったから」


少し転びそうになりながらも、桜花に遅れないように急いで階段を登る。後ろから何やら喚く声が聞こえるが今は無視しよう。

握られている手が熱くて仕方ない。変に手に汗が滲んでいるので心配だったのだが、桜花は気にしていないようである。

多分、今俺の頬は赤く染まっていることだろう。心臓の鼓動も五月蠅いくらいに騒いでいる。けれど、心の中は穏やかで、満たされているのを感じていた。そして、同時に昂揚感が沸々と湧き上がってきた。


「到着!」


階段を登り切り、桜花が言った。

俺も同時に境内に入ったので見てみると、随分と盛況なようで、立ち並ぶ出店には既に大勢の客が並んでいた。

家族連れやカップルが多いようだ。


「行こう!」


俺の手を握ったまま、桜花は人ごみの中に入っていく。

本当は零たちを待っているべきなのだろうが、嬉しそうな桜花を止めるのは忍びない。

ならば、このままついていくとしよう。零たちには後で謝ればいい。

今は、桜花と一緒に祭りを満喫するとしよう。


というわけで、三部構成ということにしました。今回は前編なのであまり多くは語りませんが、この二十六話は一つの区切りになります。

多分、何のことかはお気づきかもしれませんが、期待して、いや、やっぱりあまり期待しないで待っててください。うまく書く自身がないので。文才がないことなど百も承知ですが、やはり難しい。

まあ、関係がはっきりするということで。

では、また次回。

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