第二十四話 ~梅雨~
はじめに言っておきます。
今回、パロディといいますか二次創作的な要素が多く含まれています。所謂ネタです。
一応言っておきますが、この物語はフィクションであり、作中の作品も存在しないのでそれをご理解のうえ読んでいただけると助かります。
では、どうぞ。
「憂鬱だな・・・」
思わず、そんな言葉が零れた。
窓の外を見やると、相変わらずの雨模様。一定間隔で流れる雨音は、次第に俺の思考を緩慢にさせる。
梅雨の時期に入り、こんな天気が数日続いている。予報によれば、今日の午後辺りには止むそうだが、とてもそうは思えない。それほど強い雨ではないが、黒く厚い雲は未だ空を覆っている。
別に雨が嫌いというわけではないが、こうまで続くと流石に気が滅入ってくるというものだ。この歳になって外ではしゃぐというのもないだろう。
「さて・・・続き、と」
手早く淹れたコーヒーの入ったカップを手に、ソファに座る。熱いコーヒーを一口含み、カップをテーブルに置き、かわりに伏せてあった文庫本を手に取る。
この文庫本はシリーズもので、以前人間の街に行ったときに立ち読みして気に入って買った本の過去編に当たるものだ。確かあの時は、桜花が人間の街に行ってみたいと言って、初めて連れて行った時のことだっただろうか。始めは良かったのだが、途中洋服店に入り、一緒に来ていた女性陣が自分の買物をし出した時点で暇になったのだ。
あれはどうにかならないのかと思う。感想を求められても、うまい答えなど返せない。せいぜい思ったことを言うだけなのだが、下手なことを言うのもまずい。
ま、まあ、嫌なことばかりではなかった。桜花が着せ替え人形にされている様には同情したが、正直見惚れてしまった。ただ、それを見破られてしまい、気恥しくなって店を飛び出してしまったのだが、仕方ないだろう。あのままでは桜花共々弄り倒されどうなっていたことか。
話が逸れたが、そんなこんなで暇になったときに偶然入った書店で特集が組まれていたコーナーがあり、ぱらぱらと読んでいたら時間を忘れて読み込んでしまい、購入するに至った。
シリーズ物となると、グダグダな展開になるものが多くあるが、これはそうではない。これは過去編だが、なかなかに面白い。あそこに至るのにこんな物語があったのかと思うと、きちんと作りこまれているのがよく分かる。
この本の名前は『Fate/sword Blood』という。
元々は大ヒットしたノベルゲームが原作で、この物語も原作のIFストーリーなのである。
元になったゲームだが原作がヒットしたため、その二年後に時間的な問題などで没になっていたストーリーとルートを加え、さらには全ルートをクリア後に、無限にある可能性の一つであるIFの物語がプレイ可能になるなど夢のような要素を追加し発売され、前作を超える人気を博した。そして本編の後日譚やIFストーリーを描いたファンディスクや格闘ゲームも発売され、漫画化やアニメ化、映画化も果たした。俺も文庫本を読んでから関連ゲームなどを買い揃え、ここ連日パソコンやテレビに向かっている。なので、実は雨続きの日々も退屈ではなかったりする。
ちなみにこの文庫本はそのIFストーリーを元にしたもので、俺が読んでいる過去編は同じ会社が発売した別のゲームともリンクしている。この辺は詳しく説明すると長くなるので割愛させていただく。
「・・・・・・ふう」
本を閉じ、すっかり冷めてしまった残りのコーヒーを流し込む。
これで前編までは読み終わった。ここまでは、物語の舞台と登場人物たちの説明、そして事件の始まりから真相に迫るかというところで終わっている。
うん、実に面白かった。続きが気になる。
「鏡、何読んでたの?」
「ん?桜花か」
部屋に置いてある後編を取りに行こうとしたとき、声を掛けられた。
桜花が俺の肩口から置いてある本を覗き込む。
「あ、それってあの時に買った本?」
「ああ、結構面白いぞ。読んでみるか?」
「うん。お願い」
といったところで果たして桜花が気に入るかは分からない。どうも桜花は恋愛ものを好む傾向にある。ただ昼ドラのような特有のドロドロした展開はお気に召さないらしく、どちらかと言えば少女漫画のような物語が好きらしい。このストーリーもそういった要素がないわけではないが、基本的には主人公の過去なので、さわり程度しかない。
まあ、読んでみないことにはわからないか。面白いかどうかは読み手次第なのだし。
「それより鏡、お昼ご飯は?」
「お?・・・もう、こんな時間か」
時計を見ると正午近く。何時もならもう調理を始めている時間だ。
本を読んでいて気付かなかったらしい。夢中になっていると時間が経過するのが早い。
「ちょっと待っててくれ、すぐ作るから。そういえば、零と哭月はどうした?姿を見かけないが」
まあ、俺が読書に集中していて傍に来ても気づかなかった可能性はある。ただ朝食を食べた後、軽く家事をこなした後に本を読み始めたのだが、その間も見なかったと思う。
「ああ、二人なら何故か鏡の部屋で寝てるよ」
「何故に?」
「さあ?」
哭月は分かる。いつも俺の部屋で寝ているし、一応猫なのだし。しかし零がわからない。俺の部屋で寝てどうするのだろうか。駄目だ。考えても分からない。
「まあ、いいや。二人を起こしてきてくれないか?寝起きだとあんまりお腹に入らないだろうし、間食が多くなってもアレだからな」
「うん、分かった」
零などは少し太っただけでもダイエットと騒ぎ出すからな。正直、体重が増えたからといって、見た目の違いなどは俺には全く分からなかった。乙女心はよく分からない。
「さて、どうするかな」
俺は、昼ごはんの献立を考えながら台所に向かった。
「ふう、これでよしっと」
洗った皿を元の棚に戻し、テーブルの上を吹いて片付けは終了だ。
結局、昼は簡単にナポリタンを作った。俺の部屋で寝ていたという二人組も、ぺろりと平らげ、家事の手伝いをしてくれていた。
この家は住人が一気に増えて家事が大変になったと思うかもしれないが、それは食事の面に関してだけで、他の家事に至ってはむしろ楽になった。というのも、みんな意外とスペックが高く、家事を何でもこなす。特に零は俺から仕事を取り上げる始末。人間だったころもその傾向があったが、今はあの時以上だ。なので、働き手が多いこの家では、食事時を過ぎれば俺の仕事はほとんどない。流石に自分の部屋は自分で掃除するが、逆にそれくらいしかさせてもらえなくなってしまった。
というわけで、いつもこの時間は手が空くのだ。
「さて、どうしたものか・・・」
本の続きの後編でも読むかな。などと思っていると、先程と同じように後ろから声がかけられた。
「鏡、暇ならお散歩しない?」
「・・・はい?今何と?」
「だから、お散歩」
「雨なのに?」
「雨なのに」
頑なに譲らない桜花。何故雨の日に散歩を、と思うが暇ではある。
「・・・まあ、いいけど」
「本当?じゃあ、準備するからちょっと待ってて」
「ああ」
ということで、桜花と散歩に行くことになったのだが、いったいこれはどういうことだろう。
外は少し肌寒いので上着を来て外に出た。そして俺は傘を差したのだが、桜花はどういうわけか傘を持っていなかった。
「桜花、傘はどうした?」
「いらないよ」
「え?」
いらない、とはどういうことか。まさか、雨に濡れていくわけもあるまいし。
「いーれて」
と言いながら桜花は俺の腕に抱きついてきた。
「な、桜花!?」
「えへへ」
桜花は頬を赤らめながら見上げてくる。
「・・・何故に」
これは、あれか。俗に言う相合傘という奴か。
「こうした方が温かいよ・・・駄目?」
「いや、駄目というか・・・」
「・・・嫌?」
「・・・・・・」
まったく、これは卑怯だ。そんなことを言われて、首を横に振れる奴がいたら見てみたいものだ。
「・・・行くか」
「うん!」
俺たちは、肩を寄せ合いながら一本の傘を差して歩き出した。
「あ、紫陽花」
「へー、こんな所に咲いてたんだな」
しばらく他愛無い会話をしながら歩いていたら、道沿いに紫陽花が咲いている場所があった。青、紫、白といった花が道を彩っていた。
「凄いね。こんな雨の中なのに、こんなに綺麗に咲いて」
「そうだな」
それ以降、会話が途切れた。
密着した状態で、無言の時がしばらく続く。
紫陽花の咲いている地点を過ぎたころ、口を開いた。
「・・・なあ、桜花。どうして散歩なんてしようと思ったんだ?」
「・・・んー、私って転生前には色んな事を経験して色んな事を知っているんだけど、それは私じゃないの。私自身が経験したことじゃない。いってみれば、記録、なのかな。だから、私自身の記憶が、思い出が欲しい。雨の日に外を出歩くって私は初めてだから。どうせだったら、鏡と一緒の思い出が欲しかったしね」
桜花は言葉の最後の辺りでウインクして見せた。そんなことを言われたら、まともに桜花の顔が見れないじゃないか。
「それに・・・」
「ん?」
桜花は再び口を閉じ、話そうかどうか決めかねているようだった。
俺は、ただ次の桜花の言葉を待った。
「私はさ、怖いんだ。私は転生したけど、その理由が思い出せない。転生しなければならなかった経緯がまるで分からないの。他のことは全て私は分かるんだけど、それだけが分からない。もう一人の私に聞いてみても、知らないみたい。忘れているんじゃないの。分からないの。そこの記録だけが、私ももう一人の私も見れない。私は、どうしてここにいるのかが分からない。それが、たまらなく怖い」
「・・・桜花」
「私は、何でここにいるのかな。何で、私なのかな。私が、ここにいる意味ってなんなのかな。私は、ここにいていいのかな。私で・・・良かったのかな。私は、分からない。・・・一人で家の中にいると、どうしてもそんなことばっかり考えて」
桜花は儚げな笑みを浮かべた。無理をして笑っているのはバレバレだった。
きっと、桜花の気持ちは俺には分からない。想像することは出来ても、俺は桜花じゃない。他人の気持ちを理解するなんて芸当は俺には出来ない。
だから、俺が言えるのは一つだけだ。
「さて、な。桜花が何者で、どんな理由があって転生したのか俺には見当もつかない。というより、俺なんかが考えても分からないだろう。けど、な」
俺はそこで言葉を切って、組んでいた腕を解いて、桜花の肩を抱いた。
桜花は一瞬吃驚したように体を強張らせたが、すぐに緊張を解いて俺に体を預けた。
「桜花が何者で、たとえどんな理由があったとしても、俺は桜花を受け入れる。桜花が何だって構うもんか。俺は今の桜花がいい。・・・それにな、俺は桜花が転生して感謝してるんだ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、桜花は目を丸くしている。
「だって、桜花と会えたからな。転生しなければ絶対に会うことはなかったんだ。それと、あー、つきなみな言葉で悪いんだが、桜花は桜花だ。桜花は何者かなんて気にするな。お前は自分が桜花なんだと自信を持ってればいいんだ。それでも惑うっていうなら俺のところに来い。じっくりしっかり納得いくまで自分が桜花だってことを教えてやる」
「・・・・・・・・・・・・うん」
そう言った桜花は俯き無言のまま頭を俺の肩に乗せた。
そうして、無言の時が過ぎる。
その沈黙の中、俺は今更ながら羞恥で顔を真っ赤にしていた。
あー、なんというか、何で俺は言った後に恥ずかしいことを言ったと気づくのだろうか。いっそのこと気づかないままであれば楽だろうに。
だが、言ったこと自体は、嘘偽りのない俺の本心だ。だから言ったことを後悔などしないが、もう少し言い方があったかなとも思う。
「あ・・・雨、止んだね」
「・・・・・・ほんとだ」
いつ間にか、雨は止んでいた。
傘を閉じ、空を見上げると、雲間から陽の光が差し込み、濡れた地面を照らしていた。
そして、中空には七色の橋が架かり、幻想的な風景を形作っていた。
「綺麗だね・・・」
「ああ」
そんな風景を眺めながら、俺は自然に微笑んでいた。
「・・・鏡、どうしたの?」
「いや、別に・・・何でもないよ」
そう、ただ、やっぱり雨の日も悪くないなと思っただけ。
ただ、桜花とこうして二人で話すことが出来て、良かったと思っただけで。
不思議そうに俺を見つめる桜花と見ながら思う。この空のように、少しでも桜花の心が晴れたらいいと。自惚れでもいい。俺とこうしていることで、桜花の心が軽くなればいいのに、と。
「さて・・・帰るか」
「うん・・・そうだ、いい気分だし、何かお土産でも買っていこうか」
「そうだな・・・・・・七辻家の饅頭でも買っていくか?」
そして俺たちは帰宅の途についた。傘を差している時と、変わらない距離で。
てなわけでやっちゃいましたね。一度やりたかったんですよこういうの。
型月の運命の二次創作ってことで。作者としては本当にそんなのがあったらいいなと思います。無理ですけどね。
ちなみに設定としては追加されたルートはイリヤルート、キャスタールート、何故かライダールート、これまた謎のシンジルート(BLにあらず)です。え?タイガールート?そんなもの初めからありませんよ。リアルのほうでもプロットの段階からなかったみたいなことを何かで読んだ覚えがありますし。
あとIFの世界として、あの人形師の弟子となる物語があります。作中の文庫本はその物語を元にしています。無論、事務所の面々とも知り合いで、一時期宝石翁に連れ去られたりしてたので、結構な性能を持ってます。今回の作中で鏡が読んでいる本のラストでは白レンが士郎の使い魔になります。で、多分その後誰のルートにも入りません。あえて言うなら白レンルートでしょうか。とまあそんな感じです。
えー、作者としては実際にこの二次創作を書こうかなとは思ってます。いずれは。何時になるかは分かりませんが。
あと、本の名前ですが、適当に付けただけですので他に同じ名前の作品がある、というのであれば感想のほうにでもお知らせください。すぐ変えますので。一応軽く調べましたが、完全に同じ名前はなかったとは思いますが、念のためお願いします。
それでは、二次創作の話はここまでとして、とりあえず今回の話はまあ、ほのぼのといいますか、桜花が鏡の家に越してからの日々の一幕という感じでしょうか。なので、前回の話から少し日数がたってます。次回も同じ感じですね。
なので今回、こんな話あったっけ?とか、変なところがあるとは思いますが、その辺は後ほど本編外で補完する予定です。
次回は今回よりもほのぼのとしたゆるーい感じでいこうと思います。
えー、最後に、ネタは二つあります。一応字は変えてあるので分かりずらいかもしれません。どちらかといえば女性の方のほうが分かりやすいでしょうかね。
では、また次回。