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第二十三話 ~歓迎(後編)~

今回は後編です。


基本的には語らいが中心です。


では、どうぞ。

「・・・どうにか、片付いたか」


時刻は深夜。夜の帳がおり、雲ひとつない夜空に満月がくっきりと輝いている。

先程まで騒がしかったこの家も、今はシンと静まりかえっている。


「御月見かしら、ご主人?」


縁側から呆と月を見上げていたら後ろから声をかけられた。そこには月明かりに照らされた哭月が、微笑みを浮かべながら佇んでいた。


「別に、ただ見ていただけだ。それとも、月見酒とかいうつもりじゃないよな哭月?」


「あら、ダメかしら。月を見ながらの一杯てのもいいかと思ったのだけど」


「・・・まだ飲むつもりか?」


呆れを通り越して感心する。俺と哭月で一升瓶を数本空けたが、その半分以上は哭月が飲んでいた。さらにいうと、それは俺が飲み始めてからの話で、その前から哭月は飲み続けていたのだ。


「じょ、冗談よ」


少し残念そうな表情の哭月。どうやら割と本気だったらしい。

俺が呆れたように見つめていると、哭月は笑顔を引き攣らせながら言った。


「そ、それより、ご主人ご苦労さまだったわね」


不自然に話題を逸らせようとしているのが分かるが、言わないでおくことにした。


「そうでもないだろう。これくらいは普通だ」


本当のところ少し疲れていたのだが、黙っていた。

深夜まで続いた宴会は、俺と哭月を除いて皆泥酔してダウンという形で終わった。その後、哭月と二人で手分けして片づけをして、酔っ払いどもを布団を敷いた部屋に放り込んでおいた。それが終わったのがつい先刻。


「哭月も手伝ってくれただろう?」


「でも、私はほとんど何もしてないわよ。布団を用意したり、片付けも手伝ったけど少しだけだし。けど、ご主人みたいな人は苦労するわね。頼れるみんなのお兄さんってところかしらね。ほんと、ご苦労さま」


「お互い様だろう。俺が兄ならお前は姉じゃないか?」


「・・・それはないでしょ。私はちょっと前までは猫だったのよ」


「それでも、さ。何かと頼りにされてるだろう。俺も、頼りにしているしな」


なんだかんだいって、哭月には色々と世話になっている。意外と家事もできるし、天気なども教えてくれる。下手な天気予報よりもよほど当たるのだ。その他にもさまざまな場面で気を利かしてサポートしてくれる。まあ、一番助かっているのは最近やたらと積極的な零のアタックを阻止してくれることかもしれないが。

ともあれ、俺は哭月にとても感謝している。そんな本音の思いを込めて哭月に笑顔を向けた。


「・・・もう、それ反則よ」


「・・・?」


突然頬を染めて俯く哭月。何か言ったようだが、声が小さくて聞こえなかった。


「むう、じゃ、じゃあ、これから私のことは哭月お姉さんと呼んでいいわよ。あるいは哭姉?」


いや聞かれても困る。あとなんでそうなるのか不明だ。


「呼ばない。そういうなら俺のことは鏡兄さん、または鏡兄と呼んでいいんだぞ?」


「・・・・・・」


そのまま無言で見つめ合い、数秒。どちらからともなく、この空気に耐えかねたかのように苦笑を零した。


「何を話してるんだろうな。俺たち」


「そうね。案外酔いが回っているのかもしれないわね」


かもな、と同意する。こういう場合、酒のせいにできるから便利だ。


「では、ご主人。一杯どうぞ。安物だけどね」


「・・・・・・結局飲むのか」


いつの間にか用意されたグラスを受け取り、酒が注がれる。というか、どこから出した?さっきまだ確かに何も持っていなかったのだが。


「いーじゃない。一杯くらい、ね?」


「・・・そうだな」


そう言って、グラスを傾ける。注がれた以上、飲まないわけにもいかないし、酔わないのならいくら飲んでも同じことだ。


「・・・ここにいたのかキョウ。む、また飲んでいるのか?」


ゆっくりと酒を喉に流し込んでいると、廊下から桜花が歩いてきた。


「ん?・・・そうだ、桜花。今から私のことは哭月お姉さんと呼びなさい」


「む?何故じゃ?」


さっきの話をまだ持ってくるのか、哭月よ。桜花も意味が分からなくて首を傾げている。


「やめい」


「あたっ」


哭月の頭を軽く手刀で小突く。


「桜花が困ってるだろうが。桜花、別に気にしなくていい。ただの戯言だから」


「酷いわよ。ご主人」


哭月から非難の声が上がる。といってもそれほど強くはなく、少し拗ねているようなものだ。

哭月の声を無視して、桜花に話しかける。


「・・・この家に来てからは初めてか?というか寝てたんじゃ。体は大丈夫なのか?」


「ふむ、ふらつくような気はするが問題ない。今の桜花であれば本来は酔わないはずなのじゃが、わざと酔ったようじゃな。今は桜花の意識はぐっすりじゃよ。じゃから、妾が出てきた」


「そうか。ってかそれ、大丈夫なのか?」


「じゃから、問題ない。体自体は疲れているわけではないからの。桜花の意識は眠っているから負担はかからぬ」


なるほど、話は分かった。桜花自身がそういうのなら問題ないのだろう。


「しかし、すぐに出てくるのかと思ったら、意外と時間がかかったな」


越してきた夜にでも、もう一人の桜花が出てくるかと思っていたのだが、今日まで表に出てくることは一度もなかった。少なくとも、俺の知る限りでは。


「桜花が慣れるまでは控えようかと思っての。今は寝ているからいいが、起きているときは意識を共有している故、少しな」


「そういうことか。だが、力を吸収すると言っていたが、これでいいのか?特に何もしてないんだが」


「うむ。近くにいるだけでも力は吸収できるが、一番いい方法は・・・こうじゃ」


言って、桜花が突然俺の腕に抱きついてきた。


「お、桜花?」


「か、勘違いするでない。こうして接触しているのが、一番力の吸収にはいいのじゃ」


「そ、そうなのか」


何故だろう。すごく恥ずかしい。今までこんなことはたくさんされている筈なのに、どうしてこんなにも頬が熱くなるのか。羞恥で桜花の顔も見れないが、多分、俺と同じく真っ赤になっていると思う。


「な~に、赤くなってるのかしら二人とも」


「な、哭月!?」


やはり、赤くなっているらしい。すごく気まずい。だが、桜花が離れる様子はない。ギュッと俺の腕を抱きしめて離さない。


「そういうのより、もっと直接的な繋がりの方がいいんじゃない?」


「・・・と、いうと?」


「例えば、粘」


「わー、言うでない!?」


「何よー。ならご主人、私と・・・」


「何でそうなるのじゃ!?駄目じゃ!!」


なにやら哭月と睨み合いながら、桜花が喚き散らしている。

どうも、訳が分からないが桜花的によろしくないことのようだ。


「ええい、もう寝るぞ!」


桜花は俺の腕を抱きしめたまま、廊下の奥へと行こうとする。


「ちょ、桜花?」


「・・・キョウ」


上目使いで覗き込んでくる桜花の瞳と行動から、何を言いたいのかはなんとなく分かった。

じっと見つめてくる桜花に俺が敵う筈もなく、無言の主張を受け入れることにした。


「・・・一緒に寝るか」


「!・・・うん」


桜花は頬を真っ赤に染めながら、嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべた。思わず、俺はその笑顔に見惚れてしまった。それほどまでに、その笑顔には俺を惹きつけてやまない何かがあった。


「・・・すっかり忘れられているような気がするわ」


後ろから何やら聞こえたが、聞こえていないことにした。正直俺も今、いっぱいいっぱいなのだ。

俺と桜花はそのまま俺の部屋で一緒に寝ることになった。恐らく、哭月も後からいつもの如く、部屋に入ってくるだろう。


翌朝、一緒の布団で寝ている俺と桜花、哭月を目撃した零により、特大の雷が落ちたのは言うまでもない。

なんとなく、書き足らない気がするのでまた書き足すかもしれません。

ともあれ、後編でした。本当はもっと短くなるかと思っていたのですが、書いてみるとずるずるとだんだん長くなってきました。

まあ、この後編でいうことはあまりないですね。基本宴会の後の夜の一幕ですからね。いつかこういうの書いてみたいと思っていました。

ちなみに、朝、零に発見されたとき、鏡と桜花は抱き合っており、哭月は鏡に人間の姿で寄り添うように眠っていました。零は二日酔いになることもなく、むしろ頭がスッキリしていていい気分だったのも加えて、特大の雷が落ちたらしいです。なんと桜花がその雷から鏡を守ったことで零の機嫌はさらに悪くなり、銀司がとばっちりを喰らいました。なにやらやたらと零と銀司が絡むような気はしますが、二人がくっつくことは決してありません。だとすると、銀司の扱いが悪いような気がするって?気のせいです。

てなわけで、あと二話ほどはほのぼのした話になります。物語が進むことはほとんどありません。次回はパロが入るかも!?

では、また次回。

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