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第二話 ~正体~

第二話です。


今回はほのぼのといいますか、説明とかはあまりありません。

つまり、そんなに話が進む訳ではないです。

詳しい話は三話になりますのでお待ちください。


では、どうぞ。

「・・・あつい」


「暑い、そして青いな」


視線を上へ向けると、空は天高く青く澄みわたり、雲も一切ない快晴だった。

太陽は地表をじりじりと照りつけ、気温を上昇させている。

季節はまだ春だというのに、近年はこんな日も珍しくない。これが温暖化というやつか。


「・・・というか、別についてこなくても良かったんだぞ?暑いし」


隣を歩いている少女、真雪をを見ると額どころか、顔中に汗を滴らせている。基本的に、雪女だからといって暑さに弱いということもないのだが、この暑さは流石に堪えるらしい。

なので、親切心からの提案だったのだが。


「仲間はずれは、いや」


という答えが返ってきた。


「別に、仲間外れってこともないと思うぞ。どうせ後で教えるんだし」


「だって、あの女のとこに行くんでしょ?」


「女っていうか、神社な。つーか関係なくないかソレ!?」


「ある」


「・・・な、何がでございましょう?」


妙に自信ありげに言う真雪、そして何故か変な丁寧語の俺。

確かに俺は、とある女性に会いに神社に行くのだが、それが真雪のついてくる理由に繋がるとは思えない。それに今回は正当な理由がある。やましいことなど微塵もないというのに。


「分からない?」


真雪が真剣な瞳で覗き込んでくる。一瞬、その瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えながらも、俺は至極真面目に答えた。


「ああ。本気で分からん」


「・・・・・・」


一瞬、居心地の悪い沈黙が流れた。


「はぁ。まあ、いいか。鏡だもんね」


真雪は小さく溜息をつき、少し残念そうな表情を浮かべた。


「何がだ?」


「ううん。なんでもない」


そう言うと真雪は小走りで、俺より先へ進んで行った。


「あ、おい真雪」


「ほら、早く行かないと、お昼になっちゃうよ」


こちらを振り向いた真雪には、もうさっきの残念そうな表情はなかった。白く小さい手を差し出し、早く行こうと俺に促す。

太陽はまだ天頂に達していない。昼にはまだ早いだろうが、目の前に差し出された手を、取らないわけにもいくまい。


「ああ、今行く」


俺は真雪の手を取り、神社へ向かって走り出した。


俺たちが神社に行くことになったのは、今朝の一本の電話が始まりだった。

電話の内容は予想通り、俺の正体について。ただし、ここで伝えられた内容は少し予想外だったといえる。長々と色々言われたが、要訳すると、「電話で伝えてもよく分からないだろうから、そちらの神社で説明を受けてくれ」、ということだった。

今日の午前中の内に神社に行ってほしいとのことで、俺たちはすぐに用意を整えて家を出た。それが、およそ9時頃のこと。家から神社までの距離は約3キロなので、のんびり歩いたとしても2時間かかる。最低でも11時にはつくはずだったのだが。


「はあ、はあ、つ、ついた」


「・・・ついたけど、まだ、あるぞ」


「ふぇ?・・・あー」


俺たちは汗だくだった。真雪は息を切らしており、膝に手をついて呼吸を整えている。俺も少し息が乱れたので、深呼吸をして呼吸を整える。この炎天下の中走るのは、失敗だったと言わざるを得ない。思ったよりも体力を消耗した。

時間的には間に合うはずだったが、真雪が途中、どっちが早く着くか競争だ、などと言った為ここまで走ってきたのだ。真雪曰く、なんとなく、らしい。

まあ、いいんだけどね、別に。

腕にある時計を見ると、丁度10時30分になったところだ。予定よりも、大分早く着いた。

ちなみに言っておくと、俺が勝った。本気を出すのは大人げないと思ったが、本気を出さないと真雪が怒るのだから仕方ない。


「登るの?これ」


「登らなきゃならないだろうな、そりゃ」


俺達の前には、石造りの長い階段があった。それも、気の遠くなるほどに長い。階段の先が見えない。神社は小高い山の上にあるのだから当然ではあるが。

ここには初めて来た訳ではないが、これを登ると思うと気が滅入る。真雪の気持ちも良く分かる。


「行こう、真雪」


いつまでも突っ立っていても仕方ない。さっきとは逆だな、と思いながら真雪へと手を差し出した。


「うん」


真雪は、微笑みながら俺の手を取った。その表情に一瞬ドキッとしたが、それを悟られないように急いで階段を登る。真雪は怪訝そうに俺を見ているが、今の俺の顔を見られる訳にはいかない。きっと、真っ赤に染まっているだろうから。

俺は少しの気恥ずかしさを覚えつつ、神社の境内を目指す。階段を一段登る度に、緊張が高まっていくのが分かる。俺は逸る気持ちを抑えながら階段を登り続けた。


「やっと、着いた」


「今度こそ、な」


階段を登り終えた先にあったのは、大きな赤い鳥居と二体の狛犬、長くのびた参道と大きな本殿だった。

神社というだけあって、そこには荘厳な空気に包まれていた。神秘的といえば、短絡的かもしれないが、それ以外の言葉が見つからない。それに空気も澄んでいて、暑さも然程感じない。不思議とあれだけ高鳴っていた胸の鼓動が、落ち着いていくのを感じた。


「ねえ、見て」


「・・・え?」


声が聞こえた方向に振り返ってみると、真雪が里を見下ろしていた。

ここからなら、里のほとんどを一望できる。多分、俺の家も見えるだろう。


「綺麗だな」


「うん・・・」


暫くその光景に目を奪われ、会話もせずにじっと眺めていた。それからどれだけ時間がたったのか、不意に背後から声を掛けられた。


「ここからは、夏に花火も見えるんですよ」


「・・・驚かせないで下さいよ。九凰くおうさん」


「ごめんなさい。でもそれ程驚いているようには見えませんけど」


「これでも驚いてますよ」


そうですか、と微笑む女性は、九凰茜さん。この九凰神社で巫女をやっている。

長い黒髪を後ろで束ね、端正な綺麗な顔立ちで、白と赤の巫女服を着ている。その姿はどこか神々しさを感じさせる。


「真雪さんも、お久しぶりですね」


「ええ、そうね」


優しく話しかける九凰さんに対して、真雪は素気なく返す。この二人、というか真雪は九凰さんと仲良くしようとしない。九凰さんは違うようだが。


「それはないだろ、真雪」


「いいのよ。別に」


これだ。さっきまで機嫌が良かったのに、九凰さんにあった途端にこれである。


「すみません。九凰さん」


「いいんですよ。それよりも立ち話もなんですから、中に入ってください。お話しすることはたくさんありますから」


その言葉に気を引き締める。ついに正体を知ることが出来る。一ヵ月前のあの時、前の俺の家で何が起こったのかも、これでわかるだろうか。


「さあ、こちらです」


九凰さんは敷地の奥へと進んでいく。

その時、静まっていた胸の鼓動が再び強くなった。俺はもう一度気を落ちつけるべく、目を閉じて深く深呼吸をする。何度か深呼吸を繰り返し、目を開けると鼓動は未だに早いものの、どうしようもないほどの緊張と胸の高鳴りはなくなっていた。


「行こう・・・」


「・・・うん」


俺と真雪は九凰さんを追って、ゆっくりと歩を進めた。


「大したものはないのですが」


「いえ、そんなお気遣いなく」


俺たちは、敷地内にある九凰さんの家の居間にいた。俺の隣に真雪、テーブルを挟んで反対側に九凰さん。それぞれの目の前に緑茶とお茶菓子、そしてテーブルの中央に、資料が入っていると思われる封筒。


「さて、お話しすることはたくさんありますが、最初にこれだけは聞いておきます」


「・・・何ですか?」


「後悔は、しませんか。あなたは自分の正体を知れば、もう後戻りは出来ません。自分の正体を知らずとも、妖怪として暮らすことは出来るでしょう」


九凰は俺に言い聞かせるように、よく考えるようにと言った。

九凰さんの気遣いは嬉しいが、それは愚問というものだ。正体を知らずに生きていくなんて、無理に決まっている。今でさえ不安に思う気持ちがあるのに、時がたったらどうなるか分からない。それになんとなくだが、自分の正体を知らないままだと、良くないことが起こる。そんな気がした。


「しません。絶対に」


俺は九凰さんの目を見つめながら視線に意志を込めてはっきりと言い切った。


「・・・分かりました」


暫く見つめあっていたが、九凰さんはゆっくりと頷き、柔らかい優しげな表情で言った。

俺はその表情を見て、一瞬我を忘れた。それほど、魅力的な笑顔だった。真雪がいつも浮かべている笑顔とも違う、もっと別な。

呆と九凰さんの顔に見惚れていたが、隣から強烈な視線さっきを感じて、やっと我に帰った。


「・・・ばか」


「・・・すまん」


真雪の非難の声に、俺は返す言葉がない。

何をやってるんだ、俺は。こんなときだってのに。


そんな俺達のやり取りを見て、九凰さんはくすくすと笑っていた。


む、何かすごく恥ずかしい。穴があったら入って出て来たくないくらいに。


その何ともいえない空気が流れる中、始めに声を発したのは九凰さんだった。


「フフ、もういいかしら」


「あ、はいすいません」


いいのよ、と言いながら九凰さんは真剣な表情で再び俺と視線を合わせた。


「まずは、あなたが何の妖怪なのか、お教えします」


それを聞いた瞬間、思わずゴクリと喉が鳴った。ついに明らかになるのか、俺の正体が。分かるのか、あの時の両親の、人間の反応の訳が。


九凰さんは、ゆっくりと、一つ一つ丁寧にその言葉を口にした。


「あなたは、夜叉やしゃです」

前回のあとがきで事態が進むとか言いましたが、あまり進みませんでした。

すみません。

本当は夜叉の説明も入れるつもりだったのですが、ここで切っておいてもいいかなと、説明長くなるので。


夜叉の説明は次回になります。先に言っておきますが、夜叉の設定はオリジナルですので、本当の夜叉とは別物になります。


ちなみに本文中、九凰茜に、正体を聞きますかと問われますが、アレはギャルゲーなら結構重要な選択肢です。聞かないと、誰かに後ろから刺されたり階段から突き落とされたりとか、はないですが、少なくともBADEND直行です。

まあ、どうでもいい話ですが。


次回は色々とまた説明が多くなります。九凰神社のこととか。用語集もなるべく早く作ろうと思います。


ではまた次回。

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