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第十七話 ~夢見(後編)~

今回は、後編です。


では、どうぞ。

「・・・はあ、今日は散々だった」


結局、俺が目を覚ましたのは正午過ぎ。思ったより傷は深かったらしい。

ともあれ、その後は気絶させられることもなく比較的平穏無事に一日は過ぎていった。


そして現在の時刻は深夜零時。

空には雲一つなく、燦然と星が輝き、月明かりが俺の部屋を淡く照らしている。

この部屋には俺一人。

哭月は零の部屋で寝ることになった。

というのも、俺が本日二度も気絶する羽目になったのが原因だ。

・・・もっとも、実際に俺を気絶に追い込んだのは零なのだが、まあ気にしないでおこう。

ちなみに、俺はいつももう少し早めに就寝するのだが、零と哭月の口論に巻き込まれてこの時間まで起きていた。議題はもちろん、零が誰の部屋で寝るのか、である。結果は現状を見て分かるとおり、零の勝利で終わった。


「別に俺はいいんだけどなー」


まあ、零が気にするのも分かるのだが、今まで一緒に寝ていたのだし、気にするほどでもないと思う。というより、哭月が魔女だから、人間に変身できるから、という理由で今までと違う扱いにするのが嫌だった。確かに、扱い方を多少かえねばならない部分もあるかもしれないが、このことに関しては、俺はあまり気乗りはしなかった。

正直、若干の寂しさがある。いつも傍にあった温もりがないというのは、いい気分ではない。

ま、そこまで思いつめる内容ではないし、今更何を言っても仕方ない。慣れるまでの辛抱だろう。

そう思考を纏めるのだが、何故かため息が漏れる。

いかんな、本格的に参っているようだ。まさか、哭月がいないだけでこれとは。


「・・・寝るか」


とりあえず、取り留めのない思考は止め、休むことにする。後は明日何とかするしかない。

その思考を最後に、俺の意識は闇の中に溶けていった。






さて、これは一体どういうことなんだろうね?


「・・・・・・はい?」


気付くと、見渡す限り続く広大な草原のど真中にいた。

草木の香りが混じった心地よい風が、頬を撫でる。時刻は夕刻だろうか。空は緋に染まっている。


「・・・なんだ、これ」


まて、俺は確かに布団で寝たはずだよな。そこから起きたという記憶はない。寝ている間に俺をここに運んだなんてことも当然ありえない。

とすると・・・・・・・・・ああ、なんだ。これは夢か。


「しっかし、いやに現実味のある夢だな」


本当に風を感じるし、俺が俺であると自覚している。まあ、これは夢であると気付いていた、という経験は以前にもあるが、こうまではっきりと自分の意識があるのは初めてだった。それに、日の光も空気の感触も現実そのもの。ついでにいえば、この景色に見覚えはない。

本当にこれが夢であるのか疑ってしまうのも無理はないと思う。


「・・・・・・ん?」


しばらく、保と景色を眺めていたのだが、ふと、一つの影が伸びていることに気が付いた。その影の方を見てみると、そこに誰かがいた。


「この夢で初めての俺以外の登場人物、か」


よし、ここからでは良く見えないし、近づいてみることにしよう。

近づいて、俺はまた疑問を浮かべることになる。その人物に心当たりがなかったのだ。

若干ウェーブのかかった長いブロンドの髪。陶磁器のように白い肌。その肌に対して、全身を黒い洋服に身を包んだ女性。はっきりいって美人。それも、街中ですれ違えば、男はもちろん女性であっても振り返るであろう美貌。

俺に、こんな知り合いはいなかったはずだ。いたら覚えていないはずがない。

だが、何故だろうか。見覚えはないのに、俺はその女性のことを知っている気がした。


「さて、話しかけてみるべきか、否か」


問題になるのは、俺自身がこの夢の登場人物であるのか、それとも第三者的な視点でこの夢を眺める傍観者であるのか、ということだ。

どうしようか悩んでいると、後ろから声が聞こえた。


「おねえちゃーん」


振り返ってみると、長いブロンドの髪の15歳前後くらいの少女がいた。良く見ると、あの女性に似た顔立ちをしている。


「・・・うわ」


どうしたものかと眺めていたら、その少女は俺目掛けて走ってきた。少女とは思えない物凄いスピードで。

分けが分からず戸惑っている俺を尻目に、その少女は俺を通過していった。俺の横を通過していったのでなく、俺の身体を通り抜けて行ったのだ。幽霊、あるは立体映像を通り抜けることをイメージすると分かりやすいと思う。

どうやら、俺は傍観者の立場らしい。


「おね・・・へぶっ!」


俺を通り抜け、女性のもとに走っていった少女が突然、不自然に横に吹き飛んだ。


「あらあら、どうしたのかしら」


酷い。やったのはあんただろうに。初めて聞いた女性の第一声がこれとは。

恐らく、少女が吹き飛んだのは、横から風の魔術を喰らったからだろう。女性から微量だが魔力を感じた。


「ふええ、おねえちゃーん」


涙目になりながら女性を見る少女。女性は、少女に近づき身体を抱き起こした。何故か、恍惚とした表情で。


「大丈夫?痛くない?」


「うん。大丈夫」


いや、つーか攻撃したのあんただろうが。妹であろう人物に魔術喰らわしておいて何を言っているのか。それとそこの妹、いいのかそれで。

・・・多分だが、あの女性からはシスコンの気配がする。俺と同じかあるいはそれ以上の。

少女をいじめて、自分に助けを求める少女を見て恍惚としてる。なんつー歪んだ愛情表現。

ま、普段はこうではないのだと思う。いくらなんでもこれが常日頃行われていれば、絶対にあの少女は姉に懐かないだろうし。今回はたまたま悪戯心が刺激されただろう。そう思いたい。


「・・・む?」


そんな姉妹の抱擁を眺めていたのだが、突如として辺りが暗闇に包まれ、次の瞬間には景色が切り替わっていた。

今度は、どこかの部屋の中のようだ。


さて、ここからこの夢の物語は長くなるので、簡潔に物語を纏めたいと思う。

まず、さっき登場した二人は姉妹であり、二人とも魔術師である。他に家族はなく、二人きりの姉妹だ。そのためか、異常に仲がいい。俺が言えた義理ではないが。

二人は仲睦まじく平和に暮らしていたが、その平穏は脆くも崩れさった。妹が病に倒れたのだ。

彼女が患ったのは不治の病といわれる類のものだ。姉は彼女を救うべく手を尽くすのだが、容態はよくならない。姉の魔術でも、彼女を救うことは出来なかった。

しかし、それで諦める姉ではなかった。妹を救うため、姉は最後の手段を取ることにした。

あらゆる病や傷を癒し、不老不死を与えるという万能の霊薬『エリクサー』を作り出そうとしたのだ。

エリクサーとは、今まで幾人もの魔術師が挑み、ついには完成しなかった奇跡の霊薬。

誰もが不可能という。だが、時間制限がある以上、姉に迷いはなかった。

姉は考えうるあらゆる手段を用い、資料を集め、資材を集め、材料を集めた。そのためだけに、幾つ罪を犯したか分からない。たとえエリクサーが完成しようとも、姉は罰せられることだろう。だが、妹を救うためならば、どんな罰も受ける覚悟だった。

そして、ついに完成は間近、といったところで、姉の研究を横取りしようととある組織が接触してきた。当然、姉は彼らの要求を断り、逃走を図った。組織は姉を追うが、逆に返り討ちにあった。今まで触れていなかったが、姉は魔女の称号を授かるほどの大魔術師だった。多勢に無勢。雑魚がいくら集まったところで真の魔術師には敵わない。

姉は彼らを殲滅し、完成間近の研究資料を持って妹の下に駆け付けた。が、既に手遅れだった。

いや、正確に言えば、死の間際には間に合った。しかし、それでは意味がない。死んでしまっては意味がないのだ。死んだ人間は蘇らない。どんな魔術を使ってもだ。たとえエリクサーであろうと、死んだ人間を生き返られせることは出来ない。生きてさえいれば、エリクサーで治すことも出来たはずだった。

組織の接触がなければ、間に合っていたかもしれなかった。

されど、そんな仮定の話に意味はなく、姉は悲しみに沈み、研究をやめてしまった。

が、エリクサーを作り出すために彼女が犯した罪は決して軽くない。

時に盗みはたらき、時に人を殺し、時に組織を殲滅した。

その後、その時代にその地方を統治していた組織により、姉に罰が下された。

それは動物への転生と封印だった。姉の罪は重いが、その知識、力は失うのは惜しいという理由からの措置。結果的に、彼女の研究が有益なものとして利用されたことも一つの要因だった。

これで、物語は終わり。

その長い物語を見終えた俺は、ゆっくりと意識が浮上していくのを感じていた。




「・・・ん」


目を開けると、そこには見慣れた天井があった。ふむ、今度は現実か。

窓からは日が差し込んでいる。どうやら、朝のようだ。


「おはよう、ご主人」


「・・・哭月」


気が付くと、横に哭月が人間の姿で俺に抱きつくようにして寝ていた。何故か、裸にYシャツ一枚という姿で。


「あれは、お前が見せたのか」


俺の問いに、哭月は無言で肯定した。

だろうとは、夢の途中から思っていた。初めて見た女性を知っていた気がいたのはそのためだったのだ。罰云々といった所で、俺の予想は確信となった。


「軽蔑した?」


「どうして」


哭月は自嘲的な笑みを浮かべて言った。その表情は、あまり好きではない。


「私が大罪の魔女、といわれる理由は分かったでしょ?」


「なら、なんで見せたんだ?」


「・・・隠し事は、したくなかったから」


その答えを聞くと、俺は無言で哭月の頭を撫でた。


「や、ちょっと、なに・・・」


始めは抵抗を見せた哭月だが、すぐに大人しくなった。


「軽蔑なんてしない。過去に哭月が何をしていようが知ったことか。そんなことは関係ない」


哭月はポカンと口を開けたまま俺を見ている。それを見た俺は言葉を続ける。


「それにな、もし俺が同じ立場だったらお前と同じ事をするだろうよ。や、出来ないけどさ技術的に。それでも、もし零が死にそうになってたら、救うために手段は選ばない。どんなことでもやるさ。たとえ人を殺すことになろうとな。言っとくが、これは慰めや同情なんかじゃない。俺の本心だ」


ま、そう言っても嘘くさくは感じるけどな。けれど、これが本心であることは決して偽りではない。そんなもしもの時が訪れたら俺は何でもやるだろう。

そう、アイツの時のようにしないために。


「・・・やっぱり、ご主人を選んでよかった。ありがとう、ご主人」


哭月は、瞳に涙を浮かべ、顔を伏せながら言った。


「だから、礼を言われるようなことは言ってない」


そのまましばらく互いを見詰め合っていたのだが、なんか恥ずかしかったのでなにか話題を振ることにした。


「そういえば、どうしてこの部屋に?零は?というか何故にその格好で?猫の姿でも良かったんじゃ」


俺の質問攻めに、哭月は苦笑しながら答えてくれた。


「零ちゃんは、魔術を使って寝かしつけたわ。最初は猫の姿だったんだけど。気が付いたらこの姿になってたの。自分でも分からないわ」


ああ、なるほど。ってそれ部屋別にした意味ねえ。この家で一番強いのって実は哭月なんじゃないだろうか。


・・・まあ、とにかく言うべきことは言っておかないと。そうしないとこの変な空気は拭えないだろう。やっぱりこういうことは俺から言わないと駄目だろう。


「言い忘れてた。これからもよろしくな哭月。俺たちは家族なんだから」


「ええ。ご主人」


そうしてまた互いを見詰め合う。けど今度は気恥ずかしいところもあるが、視線を外そうとも無理に言葉を交わそうとも思わない。これが自然な形なんだと思える。気負う必要など何もない。家族とはこういう感じなのだろう。まあ、見詰め合ってるのは違うとは思うのだが。


「あ・・・」


「どうしたの、ご主人?」


「いや、既視感が。二人でこんな会話してると・・・」


「お兄ちゃん!哭月がいな・・・・・・い」


「・・・・・・・・・・・・・・・ええ。私もすごい既視感を感じてる」


「・・・・・・二人のバカー!」


妹の雷撃を喰らいながら、こういうオチか、と思う自分がいた。3回目ともなると慣れるのだろうか、などと思いながら、俺の意識は再び落ちた。

今回もなかなかに難産でした。しかも過去の話を書いてる途中パソコンの誤動作で途中まで書いていた一部が消え去るという・・・おかげでそれまで書いていたものと書き直したもので若干内容が異なってしまいました。まあ、出来る限り近づけたのですが、前に書いていた方がよかったなーと思っております。

それはさておき、今回の話ですが、まあ、ありがちな過去ですね。もうちょっと捻っても良かったのですが、余計に変になりそうなのでシンプルな過去にしてみましたが、いかがだったでしょうか?

もしも、この哭月の過去を詳しく知りたい、読みたい、と思う方がいらっしゃったらご一報ください。かなり前向きに検討します。

さて、次回からはまたほのぼのした感じの話が続きます。その後ちょっぴり戦闘が入り、シリアスだったりとまだまだ続きます。

では、また次回。

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