第十二話 ~対面~
今回はほのぼのとしたような、殺伐としたようなそんな話です。
お約束のごとく唐突に終わりますが、気にせず読んでやってください。
では、どうぞ。
あー、胃が痛い。穴が開きそうだ。それも特大のが。
何でそんなことになっているのかというと、目の前の睨み合いが原因なわけで。
「お二人はお兄ちゃんとどういう関係なんですか?」
「別に、ただの仲の良い友人です。一緒にごはんを食べるくらいの」
「キョウは・・・友達」
今の会話を文字に変換すれば、普通の会話になるのだろうが、実際の現場にいるとまるで違う。
零と真雪の視線が真正面からぶつかり合っている。本当に火花でも見えそうだ。その傍で桜花が本気で怯えているようで、縮こまっている。
この睨み合っている二人、出会ったときからこうだった。
まず真雪の「この女誰?」から始まり、零は「はじめまして。お兄ちゃんの妹の、零といいます」と返した。零の返しは一見普通だが、この時、俺と組んでいる腕を引き寄せ俺に密着した。それを見た真雪は絶対零度の視線を俺に向けてきた。
俺にどうしろというんですか。
真雪は俺に視線を向けるのと同時に、無意識なのか周囲の気温を下げはじめた。このままだとこの部屋が冷凍庫になるのも時間の問題かな、とガタガタ震えながら思っていたら、桜花が必死に止めてくれた。思わず抱きしめたくなった。まあ、二人に睨まれそうだったからやめたけど。
とまあ、そんなこんながあって現在に至る。
「というか、いくら兄妹っていってもそんなにくっつくのはどうかと思うのだけど」
「あら、今時これくらいは普通ですよ?」
いや、それはない。そう思ってるのは多分、零だけだ。
「それより、あなたこそいくら仲の良い友人だからって、毎朝毎晩食事を食べに来るのはどうかと思うんですけど?何様ですか?」
「な、何様って。別にいいでしょう。一人より大勢で食べたほうが楽しいんだから」
「そんなこと言って、本当は料理できないだけじゃないんですか?」
そうだね。真雪は料理できないね。でも俺は大勢で食べた方が楽しいというのには賛成なので、毎朝毎晩だろうと構わないんだけど。何も言わない方が得策だろうね、今は。
「そ、それは関係ないでしょう。あなたこそ、料理できるの?」
「出来ますよ。そりゃ、お兄ちゃんよりは上手く出来ないけど、それでもお兄ちゃんと一緒に料理作ってたしその辺の主婦よりも上手く作れる自信があります」
「む・・・本当なの、鏡?」
目が怖いですよ真雪さん。どれくらいかというと、蛇に睨まれた蛙というか、身動きできないくらいに怖い。任務で土蜘蛛と殺り合ったときは全く恐怖を感じなかったのに。
「ハイ、ジジツデス」
思わず片言。なんか最近、片言になること多いな。
「・・・へえ、そうなんだ。でも、料理も鏡と一緒にって、あなたお兄ちゃんと一緒じゃないと何も出来ないの?それともお兄ちゃんに甘えたいの?それって普通じゃないと思うのだけれど?」
「いいじゃないですか、甘えたって。妹である私がお兄ちゃんに甘える権利は十分にあると思いますけど?」
開き直った。甘えられるのはいいのだけれど、正直いき過ぎてるかなとお兄ちゃん思います。
「べったりし過ぎって言ってるの。それとも何?鏡のこと好きなの?」
「大好きですよ。それが何か?」
即答ですか。それって捉え方によってはかなり危険だよね。
「それは兄として?それとも・・・」
「兄として、なにより一人の男性として、零はお兄ちゃんを愛しています」
言っちゃった。言っちゃったよこの人。しかも迷いも躊躇いもなく堂々と宣言しやがった。
「ぶっ!」
これまでずっと、我関せずと一人優雅に茶を啜っていた九凰さんが噴出した。九凰さんも零の想いがそこまでとは思ってなかったらしい。
「・・・・・・」
九凰さんの無言の圧力。や、俺にどうしろと。それに零のこの問題発言は昔からよく言っていたことなので、俺はもう慣れた。
ああ、でも昔と今じゃ少し意味合いが違うのだろうか。
「ちょ、妹がそういうこと言っちゃ駄目でしょう!義妹ならまだしも・・・・・・え、義妹なの?」
「いえ、実妹ですよ。血のつながった」
「なお悪いわ!」
なんか口論が激しくなってきたな。すごく居心地が悪い。って真雪ってこういうキャラだったっけ?
そんなことを思っていると、心もとなそうにしている桜花と目が合った。
その瞬間、俺たちの思いが一つなのだと悟った。
ここから逃げ出したい。それが出来ないなら、せめて安心できる人の温もりが欲しい。
桜花と俺であれば、たとえくっついていようが真雪からも九凰さんからも咎められたことはない。何よりも安心できる。心地よい安らぎを感じることが出来る。そう、あの花見の時のように。
けれど、俺たちにそれは許されていない。俺は零に腕をがっちりホールドされ、桜花は恐怖で身動き一つとれない。
それでも、俺たちは互いを求める。この場で、唯一の仲間だから。
だから、自然と手がのびた。俺と桜花の手は、互いの存在を求めて虚空を彷徨う。届かないことはわかっている。しかし、そうせずにはいられなかった。俺と桜花の視線が交錯し、俺たちは一つなのだと確信した。
まあ、隣でそんなことをしていて気付かないはずもなく。
「「そこ、何してる!」」
「「ヒイッ!」」
それぞれ声が重なった。何だかんだで息が合っているのだろうか。
「はいはい。話はそこまでにしましょうか」
黙していた九凰さんがそう言い出した。止める気があるなら、もっと早く止めて欲しかった。
「二人とも、その話はゆっくり二人だけでやって下さい。今日は零さんにお話があってここまで来たのですから」
言葉の裏に、「いい加減にしろよ手前ら、死にたいか?」みたいな雰囲気を感じるのは気のせいじゃないだろう。物凄い殺気を感じる。そんなに怒るんだったらもっと早く止めろよ。
「・・・・・・」
流石にそんな怒気を前に、騒げるはずもなく二人は仕方なくといった様子で黙って椅子に座した。
その様子を確かめてから、九凰さんは話し始めた。
「さて、零さん。貴女には知って貰わなければならないことがあります」
「・・・なんですか?」
零は不機嫌な様子を隠すことなく言った。対する九凰さんはそれを気にすることなく、答えた。
「鏡さん。貴女のお兄さんが妖怪であるということを」
「・・・え?」
「ちなみにそこの真雪さんと桜花さんも妖怪ですよ。私は人間ですけど」
「・・・それ、前も言ってましたけど、そんなこと」
「信じられない、ですか?」
普通は、いきなりあなたのお兄さんは妖怪です。なんて言われて信じることのほうが難しいだろう。そもそも一般人には妖怪や魔術師などお話の中の存在でしかない。信じるにはそれなりに相応しい理由が必要になる。
「・・・鏡さん。首飾り、まだ付けてますね」
「・・・わかりました」
九凰さんの言いたいことは分かる。ここではっきりさせようということだ。俺は妖怪であり、零は人間だ。零は、ここにはいてはいけない。たとえ兄妹であろうとも。
首飾りは任務中ずっと身に付けたままで、里に帰ってきてからも外す理由もなかったので付けたままだった。
「お兄ちゃん?」
「・・・零」
かける言葉が見つからない。さようなら、というのも違う気がする。
覚悟を決めなければ。元々、零とは二度と会うつもりはなかった。会えたことは嬉しかったが、それでも俺たちは住む世界が既に異なってしまった。
なに、気負う必要はない。別に元に、本来あるべき形に戻るだけだ。
俺は、ゆっくりと首飾りを外し、テーブルに置いた。
「・・・・・・・・・・・・ん?」
おかしい。何のアクションもない。悲鳴なり、突き飛ばすなり反応があると思ったのだが。それともあまりの恐怖で動けないとかだろうか。
しかし、零は何事もないかのように首を傾げこんなことを言った。
「それが、どうかしたの?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
今回の話は今まで書いた中でも上位に入るくらいの難産でした。ところどころイメージはあったんですけどね。
やー、もう少し零を暴走させたかったんですけどね。というかなんか零が挑発的になってしまいまして。ちょい自主規制を。
ああ、首飾りの話はわかりますよね?分からない方は第八話をご覧下さい。それでも分からない方はいずれ用語集を作るのでそちらで確認を。
それと毎度毎度こんな終わりですみません。次につながる形、ということで。
今後は、多分十五話か十六話くらいでとあるキャラにスポットを当てた話になると思います。どのくらいの長さになるかはまだ分かりません。ヒロインと思われるキャラ三人にそれぞれそのような形の話があるので、そのどれかになります。三人分全員書くかは分かりませんが、全員分書けたらいいなと思います。最終的なヒロインはその中の一人になります。
では、また次回。