山と森の中で蠢く影…………
山の麓に広がる草原を囲むように、森林地帯が広がるが、そこに紛れながら敵は、近づいてくる。
それは、人海戦術やゲリラ戦を仕掛ける、ムジャヒディンとベトコンを思わせた。
「敵は、植物か? トリフィドだったら喰われちまうぜっ!」
「いや、ゴジラに登場するビオランテかも知れないわよっ!」
「リーダー、ミリカさまっ! ご指示をっ!」
「我々は、防衛戦を展開しましょうか?」
ジョージが映画に登場する怪物の名前を口にすると、ミリカも同じような事を言ってしまう。
だが、二人は冗談を言いながらも、気を抜いているワケではなく、敵を探している。
そんな中、車列の方から、アレリオが走ってくると、彼も長剣モンタンテを両手で構えた。
メイスを右手に、左手からは雷撃魔法を放とうとする、シャリルは周辺を睨みつける。
「ああっ! そうだっ! ここは、ビエンディフーだっ! 奴らは人海戦術で、突撃してくるぞっ!」
「ふざけてないで、きちんと戦いなさいっ! って、きゃああーー!」
『シュルシュル』
絡み草が、自らに巻き付かないように、ジョージは辺りの草を、とにかく切りまくる。
ミリカも、火炎魔法を放とうかと考えていたが、いきなり足下から草葉が絡みついてきた。
「絡み草だっ! ミリカさま、今お助けしますっ!」
「お姉さまっ! まだまだ、隠れているようね? 雷撃魔法を喰らいなさいっ!」
ミリカの足に絡みつく敵を、アレリオは両手で無理やり引きちぎる。
その間、迫る植物型モンスター達に、シャリルは雷撃魔法を放つ。
こちらは、火炎魔法に比べて、そこまで火力が強くないため、燃え広がる心配はない。
それ故、よっぽど、強力な放ちかたをしない限り、火災を気にせず乱発できる。
「ふぅ? 助かったわ…………」
何とか助かったあと、ミリカは絡み草が近づかぬように、レイピアで周辺の草刈りを行う。
「ダークボール、ダークボールッ! は…………下から攻めて来たのかっ! 全員、白兵戦に備えろっ!」
「リーダー、来ますよっ! この距離では、魔法を当てられっ!!」
『ガサガサ、カサッ! カサッ!』
『カサカサ、ガサッ! カサカサ』
『ドサドサドサ』
草むらの細長い葉が揺れ動き、中で何かが這い周りながら、こちらに向かってくる。
ジグザグに交差しながら迫る敵を見て、ジョージは暗黒魔法を射つのを辞めて、腰から剣を抜いた。
接近してくる敵を前に、シャリルは雷撃魔法を放つ暇なく、メイスを構える他ない。
その間にも、絡み草たちに混じって、多脚をタコ見たいに動かしながら、太木が突撃してくる。
「うわっ? 足を捕まれたっ! このっ! あっ! こんな距離まで…………」
『ブチィッ!!』
『ドサドサドサドサ』
絡み草から、右足を無理やり引っこ抜いて、ジョージは奴を切り裂いた。
しかし、その体制を崩した隙を狙って、太木が勢いよく向かってきた。
「危ないっ! リーダー、サンダーショットッ!! 狼たちよっ! 行けっ! 敵を倒すんだっ!」
『ドッサ…………』
『ガウッ!!』
『ガウ、ガウ、ガウ』
「私の砲撃を舐めるんじゃないよっ!」
マルセルの雷撃魔法を喰らい、動いていた木は、力なく倒れてしまった。
そして、彼は狼の幻影を作り出し、草むらを掻き分けながら、絡み草を追いかけさせる。
車上から、ファビアンは旋回式ファルコネット砲を左側の草原に撃ち込む。
そうして、走る木や絡み草たちを吹き飛ばし、次いで、ミュケレットロック式銃で敵を狙撃する。
「お前らっ! 援護、助かったぞっ! うわっ! 今度は、クワガタのような奴が現れたっ! この野郎っ! うわ…………固すぎて、刃が止まってしまうっ!」
ジョージは、ショートソードを振るい、二俣に別れている枝を切り落とそうとした。
しかし、固い樹皮と幹に、刃が阻まれた上、抜くのに時間がかかってしまった。
「このおっ! うわあっ?」
『ガタガタ、バキバキ』
「ハサミ草ですじゃっ! リーダー、ソイツには斬られはしませんが、挟まれたら潰されてしまうんじゃっ!」
「危険だよっ! 私の魔法で、倒してあげるっ! アイスビーム」
ジョージを襲う、ハサミ草の枝を、偃月刀を振るい、リュージンは柄でドン突いた。
キャロルは、奴が怯んだ隙に、氷結魔法で根元を凍らせてしたい、身動きが取れないようにする。
「お前ら、助かったぞっ! こっちは、このまま防御体制を整えるっ! ミリカ、火炎魔法を乱発してくれっ! 殺られるより、マシだからな」
「分かったわ、今射つわねっ!」
ジョージの頼みを聞いて、ミリカは火炎魔法を放ちまくり、周囲に火種を撒いていく。
それにより、少しずつ湿気を含んでいた草木を、炎が燃やし始めた。
「リュージン、炎の勢いを風刃魔法で、上げてくれないか?」
「分かりました、リーダー、それっ!」
次に、ジョージは風の勢いにより、リュージンに頼んで、炎を勢いよく燃やそうとした。
「負けるより、森林火災の方が、マシだっ!」
ジョージは、森が燃え広がり、自分たちも火災に巻き込まれるリスクを覚悟した。
また、人間たちに発見されることも脳裏に過ったが、それでも、これしか手段はないと思った。




