アンデッドは餌を貪る
「ガッボリボリ・・・ムシャムシャ?」
『バンッ!』
腐肉の塊と化した、マグヌスは周囲の魔物に襲いかかる。
食欲を満たすために、彼は敵を次々と掴みとると、口に含んで噛み砕いていく。
小さな海老や海草を食べる、マグヌス。
彼は、アンデッド化してからは痛みを感じない。
ゆえに、甲殻類の殻ごと口内が傷付くことも気にせず、喉奥に放り込む。
『ゴクン・・・』
『バンッ!』
海老を丸呑みした、マグヌス。
しかし、突然背後から彼の背中にキャノリーハーミットクラブが放水してきた。
その放水により、マグヌスに向けて放たれた一撃は左肩を撃ち抜く。
今当てられた攻撃で、背後からの奇襲に振り向いた彼は左肩をさする。
「?」
肩を撃ち抜かれた、マグヌス。
彼は、勿論痛みを感じない。
なので、直ぐに傷口よりも、キャノリーハーミットクラブの方に目を向ける。
「があっ! あぎっ!」
キャノリーハーミットクラブを蹴り飛ばし、体勢を立て直す前に捕まえた、マグヌス。
彼は、奴を頭からバリバリと噛み砕いて食べてしまう。
すると、彼の体に異変が起こった。
彼は紅い玉に包まれる。
それが割れると、中からオオヤマネコの毛皮に包まれた、マグヌスが現れた。
頭からは、オオヤマネコの帽子を被るが。
耳先から黒い毛が伸びた、シトロン・グレイ色と黒い斑点模様の体色だ。
背中にも、同様に毛皮マントで覆い、ベスト型で毛皮の袖無し服を着た、マグヌス。
足には、元々黒いズボンと黒い靴を履いていたが、レギンスだけは毛皮の物に変化していた。
「ここは? オラフィアは・・・」
辺りを見回し、オラフィアの姿を探すマグヌスだったが。
そんな彼の瞳は、パウダーブルー色に光り、顔体中に切り傷の跡が付いていた。
その姿はわ北欧神話に登場する狂戦士ベルセルクを思わせる。
通り人が見たら、確実に彼を怪物だと恐れるだろう。
事実、彼はワーウルフ同様に獣人型アンデッド、ベルセルクと化したのだから。
「オラフィアッ!!」
その事実を知らないままに、海辺にある岩場に伏せる、オラフィアに駆け寄る、マグヌス。
直ぐに彼女の体を抱き上げ、目を覚ませと。
マグヌスは、頬を撫でたり、叩いたり、人工呼吸をするのだが。
「オラフィア、オラフィア! 頼む、確りしてくれっ!」
既に、オラフィアは死んでいるのに、それを認めたくはない、マグヌスはずっと彼女を起こそうとする。
そんな彼の元に、草原から声が掛けられた。
「どうしたんだっ!」
「何があったんだ?」
振り向いた、マグヌスの前に遅くまで、漁に出ていたのであろう。
通りがかりのカート馬車に乗った、漁師たち二人が声をかけてきたのだ。
「頼むっ! 彼女が目を覚まさないんだっ!!」
「うわっ! でっ出たあーーーー!」
「ひぃぃ~~! お助けっ!!!!」
狂戦士と化した、マグヌスのおぞましい姿。
当然、そんな彼の容姿には漁師たちも恐怖した。
もちろん彼等は、カート馬車を走らせ、草原の奥へと逃亡して消えて行った。
「まっ待ってくれぇーー! 彼女を助けてくれぇーーーー!!!!」
せっかく、現れた助けが逃げて行った事で、マグヌスは絶望の淵に立たされてしまった。




