前進、前進、前進、前進
月明かり射す、夜の谷間を進むアンデッドのパーティー。
そんな一行は、谷間西東に存在する山に向かっていた。
その編成は。
先頭に、ミリカとシャリル達の騎乗する、ヴァンパイアホースとゾンビホースを走らせる。
その後を、ジョージが乗る、キャリッジ馬車が、バギーを荷台代わりに引いて走る。
後ろを走る、ワゴン馬車には座席に、リュージンが座り、同じくバギーを荷台代わりに引いて走る。
そして、キャリッジ馬車の横を並走する、二台のチャリオット。
ワゴン馬車の後列を追うように並走する、ドクター馬車とカート馬車。
その二台ある、チャリオットには。
ニウ、ビョルン、カブラル、シニッカ達が側面からの襲撃を警戒していた。
彼等は、敵の出現に何時でも戦える様に備えて乗っているのだ。
一行の最後列には、新しく滷獲した二台の小型馬車と一頭の駱駝が、横並びに並走する。
左側のカート馬車の座席にはアレリオが乗り、一頭のスケルトンホースに引かせる。
真ん中の黒色ドクター馬車は、後ろから幌が被せられた座席に、キャロルが乗る。
彼女は、二頭のゴーストホースに馬車を引かせていた。
二人の乗った馬車の右側を走るのは、ファレドが騎乗している駱駝であった。
「なぁ、何処に向かうんだ?」
「はぁっ!?」
唐突に何処に向かうのかと、ジョージは先頭を走る馬に跨がるミリカに声を掛ける。
「あんた、行き先を決めていたんじゃないの?」
「んなもんは無いよ?」
後ろを振り向いて急に叫んだ、ミリカの声に、ジョージは間抜けな返事を返す。
やはり、この男は行き当たりばったりで、腐った頭の中では何も考えてはいないのであった。
「ちょっ! あんたまた何も考えていなかったのっ?」
「いや、大体は決めてたけど進まなきゃ地形とか分からんだろっ普通?」
またもや、ミリカとジョージは凄まじくどうでもいい、下らない会話を繰り広げ始める。
それは・・・。
ジャングルで、スタッフとタメ口を聞く上に、どうでもよいコメントを言い続ける、金髪チャラ男。
過去、イッテQに登場していた、ヤツの様であった。
「う~~? まぁ仕方無いわね? 行く宛てが無いのは事実だし」
仕方が無いと納得した、ミリカは前を向いて呆れつつ前方に見えてきた曲がり角を目指す。
「お姉さま、いよいよ山に近付いて来ましたね」
「あの山を取り合えずは、目標に定めて行って見ましょう!」
左側に並走していた、シャリルの声に、ミリカは振り向かずに答える。
二人の騎乗する馬は、曲がり角を曲がった。
曲がり角を右に曲がりながら進むと。
やがて、彼等の目には山へと続く、長い稜線の緩やかな坂が、百メートル程先に見えた。
「リーダー殿、彼処を登ったらどうしますか?」
「取り合えず山奥に進むとしよう」
後ろの方から聞こえ来たリュージンの問いに、ジョージは山の中腹を見つめながら答える。
「彼処なら魔物の巣や遺跡が有るだろう」
「そうですな、彼処なら・・・?!」
ジョージと話していた、リュージンは急に風向きが変わり、妙な気配がした気に成った。
その気配を感じた左側の谷間に、咄嗟に鋭い眼差しと険しい顔を向け、彼は敵の攻撃を警戒する。
「何も居ないか」
「どうした?」
敵の潜んでいる気配を、左側の谷間の岩肌に感じた、リュージンであるが。
そこに、視線を向けても何も居らず、気のせいかと彼は思った。
そんな彼の様子を、ジョージは心配して後ろに振り向き、声を掛けたのだった。
「いえ、敵の気配を感じたのですが、やはり何も居りませんでした」
「どうかな?」
前方に向き直り、ジョージに対して自分の勘違いでしたと答える、リュージンであるが。
「良いか、リュージン? 俺達の居た世界じゃな、日本兵、ベトコン、アフガンゲリラは岩肌の陰に、山の中に、森林の中に隠れ潜むのが得意だったんだ」
ジョージは、自分達の世界の遊撃戦を得意とした、歴史上の兵士達を思いだす。
彼等同様の先方を取るので有ろう、魔物達の存在に、リュージンは気がついたのだと告げる。
「だから、お前が感じた不審な気配は実際に・・・」
『ガンッ!!!!』
リュージンに語り掛けるジョージの乗った、キャリッジ馬車側の地面が着弾音を鳴らす。
何かが落下したような衝撃に気がついた彼等に、突如さらなる岩石が何処からか飛んできた。




