黒蟻の軍団からの撤退戦
左右から挟み撃ちにされ、蟻達の軍団から囲い込まれない内に、早々と逃げ出すキャロルとファレド達。
彼等を、小石と光魔法を飛ばして撤退を援護する男の子と女性。
「蟻が来る前に早く来てよっ!」
「ライトレーザー、ライトレーザーー」
二人の援護射撃の元、蟻の軍団から無事に逃走するのに成功した、キャロルとファレド達。
お陰で、安全な三人の元へと走って来たキャ二人。
だが、二人の直ぐ後ろから、黒蟻の群れにが獲物を逃がすまいと後を追って来ていた。
「しつこい奴等じゃな」
「あっ!? 師承っ前方からもっ!!」
このまま撤退して、逃げ切ろうと考えていた五人の前方の地面から、土がモコモコと盛り上がる。
二メートル程の小山が突如出来たかと思うと小山の頂きに穴が開く。
穴の中から、ワラワラとブラックアントの群れが数え切れない程噴出して来た。
「コイツら、俺達をどうしても逃がさない気か?」
「どうやら?彼等はその様ですよっ」
走らせていた駱駝を止めて、ファレドはそう愚痴る。
女性は、前方の蟻の群れにロングスタッフを構えて、妖精達を召喚する光魔法を放つ。
そして、自らも含めた周りの仲間達に、気力をアップさせる補助魔法を掛ける。
「精霊達よっ! 我に力を、そしてエナジーエ・ソス」
女性の放った光魔法は小山から下りて来た蟻の群れに精霊達を向かわせて行き、黒蟻達を次々と殺傷する。
その場に居た全員に補助魔法エナジーエ・ソスが掛かる。
一人ずつ、黄色い輪が頭上から足下まで降りてきて、五人の気力を底上げして攻撃力をアップさせた。
「これで全員本気の力をだせるわよっ!」
「支援に感謝しますっ!」
女性に補助魔法を掛けて貰ったキャロルは感謝の言葉を述べる。
次に、氷結魔法を乱れ射ちし、前方から来るブラックアントの大群を塞き止めるべく応戦する。
「ああくそっ! 一向に数が減らないな?」
「この地面の下には、コイツ等の巣があるのかも?」
後方から、執拗に追撃して来る黒蟻の群れを駱駝を走らせ自らに惹き付けようと試みるファレド。
彼と共に走りながら小石を拾い、スリングショットの紐を引っ張り射ち続ける男の子。
二人は移動しながら攻撃を繰り返す。
「このままでは埒があかんっ! 全員また撤退じゃあっ!!!! 魔法を一斉に放ちつつ逃げるぞぉーーーー」
大きい声で叫び指示を出すリュージン。
彼の判断は正しく、これ以上この場所で無駄な戦闘を続けても勝つ見込みは無い。
このままでは、何れ魔力と体力が底を尽き、ブラックアント達に囲まれてしまう。
その後、肉と臓物を噛じり取られて殺されるであろう事は、皆分かっていた。
「黒服の人の言う通りだっ! お姉ちゃん、早く逃げようよっ!」
「分かってるから、貴方も走りなさいっ! ヴーク」
ヴークと名を呼ばれた男の子は自らの姉に早く逃げよう、と声を掛ける。
それから彼は、蟻達の居ない方向に走る。
姉である女性も、光魔法の光線を放ちつつ、掛け出して行く。
「逃げろっ!!」
「にっげろぉーーーーーーーー」
駱駝の背中の棒を胡座を組んで絞め、走る速度を上げて逃げるファレド。
その後を、氷結魔法を放ちながら逃げるキャロル、
風魔法を乱発し足止めをしながら逃走するリュージン。
五人はひたすら魔法を放って、応戦して黒蟻の軍団が追って来なく成るまで逃げ続けた。
そして、暫くすると、五人は巨大な角ばった岩だらけの谷間まで来ていた。
「流石に、ここまでは追って来ないだろうな・・・?」
「それは勘弁して欲しいですわよ?」
駱駝の背に跨がり後方の遥か遠くを放り向いて見つめるファレド。
彼の言葉に、勘弁して欲しいと疲れた表情と共に女性は言った。
額から頬に掛けてダラダラと汗を掻き、ゼェゼェと息を切らして彼女は喋る。
「危なかったねぇ~~?」
「本当だよ? 危うく死ぬとこだったぁーー」
体が全く疲れた様子も無く涼しげな顔で言うキャロル。
彼女に対して、ヴークは姉同様に額から、凄く辛そうに汗を流し非常に疲れ切った様子だった。
「三人共、あれだけ走ったのに体が辛く無いのですか?」
「そう・・・そう、僕らは息が切れて苦しいのにさぁ? ゲホッゲホッ・・・」
下を向いて両手を膝に付き苦しそうに息を吐いたり、吸ったりするヴーク。
それと、姉の女性に対して、アンデッドの三人は質問を上手く誤魔化す。
「それはワシ等は冒険家歴が長く、非常に強力な魔物から逃走するのに慣れているからですじゃ・・・」
「それに、私達は体力を普段から鍛えているからよぉ~~?」
リュージンとキャロル達は、疲れた様子が無いと言う質問を、適当にそれらしい事を言って誤魔化した。
「私は見ての通り駱駝に乗っているからですよ」
「そうですよね・・・皆さん強そうですもんね?」
「僕らより経験が上なんだ・・・」
ファレドはそう言って姉弟を見つめた。
その答えに姉弟二人は納得した。
ようやく、蟻の軍団が追って来なく成ったようだ。
ヴークは安堵の息を吐き、姉の女性は余りの疲労に天を仰いだ。




