蟻と戦う姉弟と三人のアンデッド達
「くそっ! あっち行けっ!! ブラックアント」
「本当にしつこいわねっ!」
体長役一メートル程の蟻と戦う二人の人間達。
男の子の方は手にスリングショットを持ち、蟻達の眉間に次々と正確に石を打ち込んで行く。
そして、女性の方は、ロングスタッフで蟻達に魔法を使う。
その杖の先からから、鳥やピクシー等の姿をした淡く緑色に光輝く精霊を呼び出し蟻と戦う。
彼女の精霊が蟻に触れた途端、パンッと弾けて、小さな爆弾の様に蟻の体が吹き飛ぶ。
『カンッカンッ』
「倒れろっ!」
「聖なる神の精霊達よっ! 我に力をっ!!」
男の子の方は襲い来る蟻達を逃げながら、時おり振り返ってはスリングショットを射ち応戦する。
女性の方は、男の子と共に後退しつつ、精霊達を操り、蟻達の進軍を送らせる。
蟻達は最初は十八匹ほど居たのだ。
だが、倒される度に地中から新たな蟻が援軍として地表に現れてきた。
執拗に現れる蟻達が、二人を追撃して苦戦させていた。
「援軍だっ! 助太刀させて頂くっ!!」
そこに、突如現れた駱駝に乗った謎の男。
彼は早速一匹の蟻を拳銃で胸を撃ち抜いて殺す。
その次に彼は、駱駝をそのまま走らせ、四匹の蟻達を踏み潰してしまう。
「何処の何方か存じませんが、助かります」
「おじさんっ! 有り難うっ!」
駱駝をUターンさせるファレド。
自分達二人を助けに来てくれた彼に、戦いながら感謝して礼を言う女性と男の子。
そこに、左側の遠方から蟻達の群れに魔法による支援攻撃が次々と飛んでくる。
その魔法攻撃に因って、足が凍結して動けなくなる者。
風の斬撃で体を切り裂かれた者
これ等のブラックアント達は数を半分に減らしていく。
「いったい、誰が僕たちを?」
「貴方の仲間ね?」
「そうだ、今此方に向かって来る」
その光景を見た、男の子と女性は、ファレド以外にも人がいると分かり安心する。
しかし、自分達を助けに来た三人の人間。
それが、実は人の姿をしたアンデッドで有る事を彼等はまだ知らなかった。
「大丈夫ですかっ?」
「こりゃ? ブラックアントの大群じゃな・・・」
魔法を、ブラックアントの群れに放ちながら急いで駆けつけて来たキャロルとリュージン達。
二人を人間と信じ、ちっともアンデッドだと疑わない男の子と女性。
その二人の身を心配して声を掛けるキャロル。
ブラックアントの群れを、面倒くさそうな表情でリュージンは睨む。
『ガバ! ガバッガバガ? バガ!? ガバッ』
その時、大量のブラックアント達が地面の下から五人を囲む軍団の様に現れた。
その黒い蟻達は、顎をガチガチと鳴らして左右から一気に襲い掛かる。
「これは行けないっ!」
「応戦しないとっ!?」
ファレドは腰から短剣の柄の十字の部分を強く握り締め、勢い良く抜き出す。
それと同時に、蟻の頭や脚の間接部を次々と短剣で突き刺して行く。
その彼を、直ちに後ろから氷結魔法をブラックアントの群れに放ち、援護するキャロル。
「ワシも援護をっ!!」
キャロルが氷結魔法でブラックアントの脚を凍らせて、それをファレドが短剣で突き刺して倒して行く。
リュージンも二人に遅れを取るまいと風魔法を連続で放ち、蟻の群れに攻撃を加えていく。
「私達もこの【人達】と一緒にっ!!」
「蟻達を蹴散らしてやるっ!」
女性はロングスタッフから白いレーザーの様な光輝く光線を放つ。
そこから、再び蝶や天使の様な精霊を操って蟻達の体を弾く。
実際には、体が弾けているのでは無い。
光の高熱で、一瞬にして蟻達の体が蒸発しているのである。
男の子も腰の袋から何個もの小さな鉄の玉を取り出す。
そうして、何度もスリングショットを射ち放ち、ブラックアントに散弾を浴びせる。
そうこうしている間に、周囲を取り囲むブラックアントの群れの一点。
そこに、リュージンが風魔法の連続攻撃を繰り返して穴を開ける。
「皆様っ!? 早く此方にっ!!」
リュージンの言葉に男の子と女性は従い、穴から囲いを突破しようと走りだし。
その二人の背後から、駱駝の背に跨がるファレドが左側から迫る蟻達を駱駝の足で踏み潰す。
キャロルは駆け出しながら右手に構えるショートスタッフで攻撃する。
彼女は自動拳銃の様に氷結魔法を連続で放ち、右側の蟻達を蹴散らして行く。
「キャロル、ファレド、潮時ですぞっ!」
「師承、分かったわよっ!」
「今我々も、そちらに行きますっ!」
ブラックアントの囲いを突破するのに成功したリュージンが大声で叫ぶ。
殿を務めていたキャロル、ファレド達も戦いながら、徐々に突破口を通る。
こうして、彼等は安全な仲間達の元へと素早く後退して行く。
多勢に無勢の中、彼等五人は、黒蟻の軍団からの撤退戦を開始した。