入場お断り
街の入り口である、丸太で作られた正門まで歩いて来た、シャリルとリュージン達。
二人は門を叩いて門の中に居るであろう門番に声を掛ける。
「誰かぁーー誰か居りませんかぁーー?」
『ドンドンッ』
シャリルは、非常に大きな声で門番を呼び。
右手の拳を強く握りしめると、力強く正門を叩く。
『ガチッ』
「誰だ? いったい何の用だ?」
「我々は行商人の護衛でして街へ入場させて頂きたいのですが・・・」
正門の横の細長い小窓の板がずれて、ガチッと木の擦れる音を出し。
中から門番が顔を出して誰なんだと二人に質問して来た。
それに、リュージンは行商人の護衛だと嘘を答えた。
「駄目だっ! 夜の出入りは禁止されている・・・」
「そこを何とか成りませんか・・・」
正門の向こう側に居る門番に対し。
どうしても、駄目なのかとシャリルは頼み込んだのだが。
「通行証が有るなら中に入れるが無いなら駄目な物は駄目だ・・・どうしても中に入りたかったら朝まで待つんだな・・・」
「通行証ですか?」
門番は正門を開ける気配は無かったが。
シャリルとリュージン達は通行証の話を聞き。
馬車を手に入れた場所で、倒れていた人間達の死体を探っていればと考え。
そうしたら、通行証も手に入ったのかも知れないと後悔する。
「夜は危険だ、先日も騎兵隊が巷を騒がせているアンデッドに襲われてかなりの痛手を被った・・・だから街の安全の為に通行証が無ければ街には何人たりとも入れない規則が出来たのだ・・・」
「では? 我々も入れないと・・・」
通行証が何故必要なのか、丁寧に説明する門番。
彼に、リュージンは自分達も規則で入れないのかと問い質したが。
「済まないな・・・規則なんだ、俺だって別に、あんたらを入れたく無い訳じゃあ無いが、もし・・・あんたらが噂のアンデッドだったとしたら・・・」
非常に申し訳なさそうな顔で、二人に理由を語る門番。
彼は息を深く吸い込み、一呼吸置いて。
「俺も街中の連中も、餌に成っちゃうからな・・・そんなのは後免だぜ・・・」
門番はそう言うと、小窓の板をずらして閉めた。
彼の役割を考えれば、当然の対応である。
「ならば致し方無い・・・」
「リュージンさん?」
不意に仕方ないと呟いた、リュージンに対し。
シャリルは、一瞬何をするのかと顔を向けるが。
「リーダー殿とミリカ殿の所に戻りましょう」
「そうですね、皆の待つ場所へ戻りましょうか」
リュージンとシャリル達は街へ入るには通行証を提示するか。
朝まで待つしか無いと言う事実を、仲間達へ伝えに戻って行った。
一方、その頃・・・。
残されたジョージとミリカ達は、待ち続ける。
二人が情報を手に入れて、帰って来るのを、ひたすらに。
「ああーー? 港街へ入るとしたら変装しないといけないな・・・」
ジョージは馬車の上で考え込み。
丸太の壁の向こう側に見える、遺跡の上に作られた港街の灯りに視線を向ける。
街の灯りは橙色に輝き、夜空を薄紫色に染めていた。
「私達の変装は包帯を巻いて負傷者の振りをするとして・・・街へ入ったら港に停泊している船に乗船させて貰って大陸まで運んで頂きましょう」
ミリカも馬車の上で座りながら、変装して人間に化けて船に乗船する事を考える。
ジョージと同じ、港街の灯りに視線を向けて顔を斜めに傾けつつ。
つまらなさそうに頬に手を当てて。
シャリルとリュージン達が、いつ帰って来るのかと思いながら待ち続ける。
「大陸に向かうなら僕の故郷のスウェーディン何てどうですか? 気候は少々寒くて、我々アンデッドにとっては活動しやすい土地だと思うんですが・・・」
「スウェーディン? 私の故郷フィランの隣ね? 確かに一番ここから近いし大陸に行くならそこが良いでわね・・・」
チャリオットから降りて、背中を凭れ掛けさせたビョルン。
彼は、ニッケルハルパを持ちながら、そう言うと。
チャリオットの上に立ち。
弓を構えて、周囲の警戒を続けるシニッカも、大陸に上陸するならば。
そこが良いと彼の意見に賛成する。
「二人がそう言うなら、スウェーディンから、フィランに掛けて移動して旅をしようか?」
「ジョージ・・・二人が道案内をしてくれる様だし、それなら何も怖がる必要は無い訳だし」
二人の意見を聞いた、ジョージとミリカ達。
彼等は、旅の行き先をスウェーディンに行く事に決める。
「あん? 帰って来たか・・・」
港町の方を見続けていた、カブラル。
彼は、此方に向かってゆっくりと歩いて来る二人の人影を見つけると。
それを、注意深く凝視して女性僧侶と黒衣の賢者で有ることを確認する。