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ネズミと魔法の一夜  作者: 等々力 白米
5/5

5話

「ねぇ、メンテさんまた会える?」

運転席に乗り直し、もと来た道を帰ろうとするメンテにもじもじしながらりんは尋ねた。

「ああ、君が魔法使いを目指すなら、何処かで会えると思うよ。僕は毎年干支の神様に奉納をする義務がある以外にも小間使いにされてるから、その仕事の関係上、会えるんじゃないかな?同じ愛媛に住んでるしね。」

それを聞いてりんは、メンテの座る運転席までよじ登り、メンテに飛びついた。

「ありがとう。メンテさん!」

りんは頬を赤らめ照れくさそうに微笑むと、そそくさと席から飛び降りた。

「ふふふ、じゃあ、またどっかで会おうね。」

メンテはそう言うと綱を引き、もと来た道を帰っていった。

りんは馬車の姿が見えなくなるまで見送ると、辺りを見回し用心しながら家に帰った。

音が鳴らない様にゆっくり鍵を開ける。

中に入ると、家の中は真っ暗だった。

こっそり両親の部屋をのぞく。

すると何事も無かった様にぐっすり眠っていた。

りんはてっきり、帰らない自分を心配し、両親が捜索願でも出しているところだろうと思ったが、予測は外れた。

同じ様にこっそり兄の部屋ものぞいたが、両親と同じ様にぐっすりと眠っていた。

何時もと変わりない様子の我が家の深夜だった。

考えるのも、疲れ、りんは自分の部屋に入った。

ベットに直行し、そのまま朝までぐっすり寝入ってしまった。


朝、何時もと変わりない土曜日の朝。秋晴れの空が明るく空気を照らしていた。

窓から入る日差しを感じながら、りんは薄ら目覚め始めた。

「台風四国に上陸しないで、海側に帰っていったんだって!」

一階のリビングからりんの兄の嬉しそうな声が聞こえた。

二階のりんの部屋まで声が届くほど、珍しく声を張り上げている。きっとよっぽど嬉しいのだろう。

りんはリビングに自分がいるわけでは無いのに、昨日まで兄につられて落ち込んでいた父が呑気そうに「よかったなぁ」と笑ってる姿がたやすく想像出来た。

りんは布団にくるまったまま、くすくす笑った。

りんはまだぼんやりした頭で布団から出ると、昨夜お風呂に入っていなかったので、シャワーを浴びた。

りんがシャワーから出た頃には、兄は既に部活の練習に向っていた。

「お、朝シャン何て、りんもおませさんになったな。」

人の好さそうな顔をしたりんの父が、シャワーを終え、タオルで頭を拭いているりんの顔を覗き込んだ。

(パパ、おっさん臭い)

そう言いたかったが声が出なかった。

どうやら、魔法を使い終わったことで、魔法の代償の支払いが始まったようだ。

りんが髪を拭きながら声が出ない事をどう説明しようかと考えていたところ、りんの母の不安げな声がした。

「ねぇ、たまの姿が見えないんだけど、知らない?朝ご飯は必ずうちで食べているのに。」

「そう言えば、昨晩もいなかったな。りん、知ってるかい?」

父の問いかけにりんは首を横に振った。りんも嫌な顔をした。

りんと妻の不安げな顔を交互に何度も見やると、父は立ち上がって、玄関に向かった。

「僕、ちょっとその辺探して来るよ。あ、ママご飯ご馳走様。」

父は玄関の靴箱上に何時も置いている小銭入れだけ持って、軽く振り向いて手を振ってから外へ出ていった。

「お母さんも、心配だから、ちょっと出てくるわね。りんは食べたら自分の洗い物だけしといてね。」

母の言葉にりんはうなづいた。

(結構喋らなくても何とかなるな。)

と、心の中で思いながらも、嫌な予感はりんの胸の中で消えなかった。

りんは遅めの朝ご飯をぼんやりした意識の中食べ、自分の部屋に戻った。

すると、自分の机の上に、手紙の封筒が置いてある事に気が付いた。

昨夜の一件で、まだぼんやりした眠気の中にあったりんの思考はぱっちりと見開かれる。

震える手で封筒を手にすると、そこには『たまより』と書いてあった。


「りんへ

このお手紙はりんが汽車に乗ったのを確認してから、私が家で書いたものです。

私は開けたままの窓から家の中へ戻り、ついでに鍵もかけておきました。

私って本当に賢いでしょう?

それは、さておきこれをりんちゃんがこの手紙を読んでいると言う事は、無事に神隠しから戻れたという事ですね。よかった、よかった。

勿論私がりんがちゃんとこちらの世界に戻れるように、ハムイによぉく、言い聞かせておいたんだけどね。

はてさて、今回の事で知ったと思いますが、魔法には代償がつきものです。

私は、ハムイにりんの道案内と保護をしてもらう代わりに、私自身が猫又として、物の怪の世界に渡る事を約束しました。それが、私の払った代償です。

本当は普通の猫の寿命まで、この家で暮らすことも考えていたんだけど、なんせ私、あっちでも人気者だから、手厚いオファーは断れなかったんだ。

今この手紙を書いているのが11時になりますが、りんはまだ帰って来ていません。

お母さんとお父さんとお兄ちゃんには心配させない様に、私がりんに化けて、ちゃんとお休みの挨拶をしておきました。りんの姿を使ったおかげで、最後に家族みんなと言葉を交わせました。ありがとう。

私は1時になったらこの家を出て、物の怪の世界に渡らないといけません。

やっぱり、まだあなたは帰ってこないけど、でもあなたなら無事に帰ってくると私は信じています。

本当はもっと話したかったけど、それも出来なさそうなので、ここに書きます。

りんは怒りっぽいくてよく、ツンツンしてるけど、それは何時も人の事を気にかけているからこそ何だよね。照れ屋で生意気で、でもとっても優しくて、とびっきり可愛いりんが私は大好きです。

りんが笑うだけで、まわりは飛び切り幸せになります。

りんが楽しそうにお喋りするだけで、まわりは飛び切り楽しくなります。

あなたはあなたが思う以上に、魔法みたいな素敵な力を持っていて、そして周りにも力を与えられる存在です。

どうかその事をよく覚えておいてください。

愛を込めて、たまより。」


りんがその手紙を読み終わる頃には、机の上には、手のひらサイズの水たまりが出来ていた。


(どうしていなくなったのよ。たま。)

りんはベットに飛び込んで泣き続けた。

理由はちゃんとわかっているはずなのに、そう思わずにはいられなかった。

これから自分の身長が伸びない事と、3か月間声が出ない事は代償として仕方なく感じていたが、本当に大きな代償は、たまがいなくなった事だった。

自分でしたくてした事でなく、他者の代償によって自分が助けられていた。

そう思うと、りんはいたたまれなくて、悔しくて、堪らなく心苦しかった。

「言わなかったのは、自分がいなくなる何て言ったら、きっと君が『CHUCHUTRAIN』に乗るどころじゃなくなるからさ。」

ハムイは黒いマントの中から出てきて、ベットの上へ脚から必死に上ると、りんに寄り添い、前足でペチペチとりんの頬を叩いた。

全く痛くなかったのに、更に激しくりんは泣いた。

(私、きっと立派な魔法使いになる。そして何時か、猫又になったたまを迎えに行くの。)

りんは心の中でそう強く思った。

ハムイは泣きじゃくるりんの頭頂に登り、腹ばいになって、りんの頭を全身を駆使し、なでなでした。


翌日、りんの兄の試合の日は無事に晴天になった。

その翌週も、その翌週も。

りんは秋晴れの空を仰いではたまの事を思うのだった。




わたしのヒロインはもれなくみんなちびになる(笑)

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