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ネズミと魔法の一夜  作者: 等々力 白米
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1話

 放課後突然の雨。りんは急いで家に帰ってから急いでテレビを付けニュースを見た。

「ああ、お兄ちゃん。結局また試合が出来ないのかな?」

 りんの嫌な予感は的中してしまった。

 台風がりんの住んでいる四国愛媛に上陸するのだ。

 それも、兄が他県と合同でやる野球試合の日程にぶち当たる。

 今年は伝染病の影響で甲子園が無かった。なので、公立学校で四国内合同の野球試合が行われる予定がたった。

 しかし、台風が来るとなっては、野球試合は出来ない。

 りんの兄は甲子園に出れない上、高校生活最後の野球試合も出来ないのか。

 りんは人生とは何て理不尽だと感じた。

 どうして、兄の様に真面目でコツコツ努力できる人が、何時も負債を背負うのかと。

「人生って、全然平等じゃないよね!私神様って大嫌い!」

 誰もいないリビングで、りんはテレビに向かって抱きしめていたクッションを投げた。

 ただ一匹。飼い猫のたまがりんのその様子を見て「にゃ~あ、あ~。」と一声鳴いた。

 そして、りんが不貞腐れてる間に、器用に窓の取っ手を猫手で開け、外へ出て行ってしまった。

 突然の外気に、りんが窓の方へ振り返る。

「たま!駄目よ!雨の日に出て行っちゃ!」

 りんが叫んだ時には既に遅かった。

 たまはりんの制止に一瞬降り帰るものの、わざとらしく小首をかしげてから、さっさと何処かへ行ってしまった。

「もうううううう。」

 (どうしてこう、何事も上手く行かないのか?)

 りんは人生12年で、生きる事の難しさを噛みしめていた。

 今日、両親は仕事で遅くなるそうだ。

 兄もまだ帰ってこない。もしかしたら友達と集まって愚痴をこぼし合っているのかもしれない。

 たまは賢い猫なので、きっとそのうち帰ってくるだろう。

 りんは大きくため息をついてから、取り合えず、ランドセルから教科書とノートを出し、宿題をすることにした。




 丁度宿題が終わり、りんが夕飯を食べながら、パソコンで『アニメ・選り抜き!忍魂特集』を見ようとしていた時。

 たまが開けたままにしておいた窓から帰って来た。

 ご飯時に帰ってくるなんて、やっぱりたまは頭がいいらしいとりんは感心する。

「たま、まったく心配したんだからね。」

 雨に濡れたたまを拭こうと、りんはタオルを持って駆け寄った。

「何だ、随分上からな物言いをする子だな。」

「ほら、うちの子ツンデレってやつなんだよ。」

 りんは硬直した。

 たまの背中に見慣れないハムスターが乗っていた。

 しかし、それだけではなく、そのハムスターが人間の言葉を喋ったのだ。

 しかも、たまが普通にこれまた人間の言葉で受け答えした。

「な、何であんたたち喋ってんのよ!」

 りんは驚いた。

「まぁまぁ、人生生きてれば、動物と話す機会だってあるさぁ。そう驚く事じゃないよ。」

 そのふてぶてしい様子に、りんは呆れ、驚くのを忘れ冷静になってしまう。

 ハムスターはそんなりんの腕に平然と登り、肩まで上がり、りんの顔をまじかでじっと見つめて来た。

「ねぇ、ねぇ、この子()()?この子、子の子?」

 りんの左肩に乗ったまま、下で自分を見上げるたまに問いかけた。

「この子は子の子だ!子の子、子の子!今晩の『CHUCHUTRAIN』に乗れるかい?」

「ああ、勿論!」ハムスターは嬉しそうに笑った。

「りんや、こうやって話せるのもきっと今日くらいだ。如何か私に免じてコイツの話を聴いてくれないかい?」

 人語で話したのは今日が初めてなモノの、自分が生まれた時から面倒を見てくれているたまに、丁寧に言われると、りんは逆らえなかった。

 りんは仕方なく、ハムスターとたまが喋っているという現実を受け入れた。

「何の用で来たの?あなたは誰?」

 肩に乗るハムスターを摘まみ上げて訊ねた。

「私は、ハムイ!今年の年神の使者だよ!君の願いを叶える為にわざわざやってきてやったのさ!」

 ハムイは腰に両手を当てて胸を張った。

「今年って、ねずみ年よね?だから私のところに来たの?」

 りんは自分が年女であることを思い出した。

「そうともさ!私と一緒に年神様の処に行こう!君の願いをきっと叶えてくれるよ!ねずみ年だって分かる様に、保険証を持ってね!あと、トレインに乗るから、ICカード乗車券も忘れずに!」

 そこまで言うと、ハムイはりんの手の中から降り、玄関に向かった。

「ICカード乗車券って、PASNOの事だよね。」

 りんは、いそいそと携帯ポーチの中身を確認した。

「さぁ、おいで子の子よ!『CHUCHUTRAIN』の停車駅まで連れて行ってしんぜよう!」

 ハムイは軽やかに地面に飛び降りると、夜道の先へ走っていった。

「ああ、待って!」

 りん達も急いで、その後を追った。

 保険証を入れたポーチだけ、短パンのポケットに入れ、急いで長靴を履く。

傘を持ち、ドアを開けた。するとそこは見慣れない草原で、目の前には掘っ立て小屋の様な小さな駅があった。その駅には黒光りする立派な汽車が停車している。

「りん、りん、家の鍵をしめて!」

 たまが一緒に家の外に出て、りんに催促した。

 りんは我に返り、素直にたまの言った様に、家の鍵を閉める。

「ありがとうたま。」

 りんが素直に微笑むと、たまも微笑んだ。

 思えば、たまはりんが生まれた頃から家にいて、りんが慌てている時、一声「にゃあ」と声をかけてくれる。

 駅まで行き、改札を通ると、改札を挟んで、たまがりんに向かって話した。

「ごめんね。私はここまでしか、りんちゃんといられない。」

 たまは、悲しそうに眼を細めた。

 りんは、たまのその表情に、年老いた祖父母を思い起こした。

 思えば、たまは19歳を超えている。猫としては大分お年寄りだ。

「大丈夫よ。たまは安心して待っててね。」

 りんは本当は不安だったが、精一杯笑って見せた。

「この子、子の子?12歳にしては小さいなぁ。」

 真下から、りんを見上げる艶々の毛玉が割と率直な意見をこぼした。

 それは灰色のモフモフしたチンチラだった。駅員の格好をしているが、丸いボディは隠せていない。

「どうも、車掌のリンリラです。」

 リンリラはにっこりと、帽子を上げて挨拶した。

 りんはむっとしながらも、取り合えず自分の保健証をチンチラの車掌さんに見せた。

 自分の灰色の艶々の毛並みを撫でながら、車掌さんは微笑んだ。

「はい、確かに確認しました。」

「子の年、子の月限定列車!『CHUCHUTRAIN』しゅっぱ~つっ!」

「必ず、12時の鐘が鳴り終わる前に、帰りの汽車に乗るんだよ~。」

 たまは走り出した汽車を追いかけ、走りながらそう叫んだ。最終的に追いつけなくなると、手を振りながら、りんを見送った。

「うん、わかったわ!必ず帰ってくるから、心配しないで待っててねぇ!」

 りんは、心配させまいと、普段より元気に振舞っていた。

 たまと同じ様に、両手を上げ振っている。

 気恥ずかしくはあったが、たまの気持ちに答えたかったのだ。




 車両に入ると、見慣れないねずみ達がいた。みんな言葉を喋っている。

 そして、その中に、ちらほら人間の姿も見えた。

「やぁ、今乗って来たってことは、君も愛媛の人だよね?」

 車内をうろうろしてると、出入口付近の席に座っていた青年が声をかけて来た。

「ここに座りなよ。愛媛みかんサイダー飲む?」

 瓶には最近結婚した愛媛の歌手の写真が貼ってある。

 りんはその愛媛みかんサイダーのCMとその歌手が大好きだったので、瓶を手渡された途端目を輝かせた。

「良いの?」

「良いよ。」

 かくして、りんの不思議な旅は始まったのであった。

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