遠き日の思い出
その日は珍しく家族揃って砂漠まで出かけた。
しかし、帰り道になって、幼いユールルは疲れ果て、その場に座り込んでしまう。
少しずつ日は砂丘に沈む。オレンジ色の暖かい夕日が砂を黄金に染め上げた。
その上を、光の粒たちは舞っていた。
砂漠に咲く植物が飛ばすこの綿毛は、発光しながら風に乗って種子を飛ばす。数年に一度、大量発生するこの綿毛を見に来るのは、砂漠に暮らす民たちにとって、娯楽の一つだった。
砂の上、一面に舞うその光はひどく幻想的であり、部族たちの間では「砂漠の星」と呼ばれ、昔から親しまれてきた。
砂漠に暮らすタタ族のユールルの一家もまた、砂漠の星を見に来ていた。周りにも同じように顔見知りのタタ族が来ていて、親しげに言葉を交わす。他の民族とも今日ばかりは仲良く、この場を楽しんでいた。
砂漠の民の中でも、森に暮らすタタ族が、その緑の木々の見えない場所まで出かけることは滅多に無かった。だから、幼いユールルは外の世界の美しい光景を忘れまいと目に焼き付ける。
「父様、どうして、光が舞っているの? 不思議だね」
今年、四歳になるユールルは、しきりに父親に話しかけ、これ以上は開けないほど目を大きくし、一生懸命その光を瞳に映す。光を目の中に閉じ込めて置こうと必死の様子に父は笑った。
しかし、ユールルは真剣だった。森の中では決して見ることの無い景色だったからだ。
ユールルの兄と姉もまた、嬉しそうにその光を追いかける。
「お前たち」
父は、子供たちを呼び寄せると言った。
「この光のように、いつまでも輝く人でありなさい」
母は、そんな家族の様子を微笑みながら優しく見守った。
遥か彼方で揺らめく日が、砂丘の陰に落ちようとしていた。
夜がその世界を完全に包み込む前に、父が歩き始める。母も兄と姉もそれに従う。
ユールルはもっとこの光を見ていたいと思った。それでも歩き始めた家族の背が遠ざかるため、慌ててその後を追った。
しかし、はしゃぎ疲れ、また歩き慣れない砂の上であったため、すぐに疲れて座り込む。
「父様。もう、歩けない」
前を行く父に声をかける。
父は振り返るとその厳しい顔に一層皺を寄せて首を横に振った。
「一族の長の娘であるなら、そのくらいで泣き言を言うな。いつも、強くあれ、ユールル」
しかし、それでもユールルは動かない。足が棒のように痛かったし、まだ、父に甘えていたかった。
下を向くユールルの目の前に、父の背中が現れる。結局、父は強情な娘に根負けし、背負うことにしたのだった。
父の大きな背におぶわれ、ユールルはまた、光の粒を見つめる。
隣には、姉と母が手をつないで歩いている。もう少し前には、兄が、まだはしゃぎながら歩いていた。
家族は生活を送る森へとたどり着く。まだ小さく見える光の粒は、夜空と同化していった。
まるで、夜空の星の中に入ったみたいだと、幼いユールルは思った。