マゾヒスティック・パンプキン
ちーちゃんはクラゲで、私はカボチャ。私たちはなかよしで、二人ともアルコールとドラッグをキメてぶっとぶのがすき。ドラッグはいいです。いやなこととか全部、わすれることができるので。
くつ下を電子レンジで温めていたら、電しレンジが私にしゃべりかけてきます。私はおまえが恥ずかしいし、お前は生きている価値がない。今すぐ首をつって死ぬべきだ、って。私はターンテーブルの上でくるくると回るくつしたを見つめながら、だまって聞くことしかできません。ブォーンっていう低い音を立てながら、電子レンジが言葉をつづけます。
「神様のために死になさい」
死ぬ理由がなくてこまってたわたしは、それを聞いてなるほどォって思った。自分のために死ぬのはなんかちがうけど、神様のためになら死んでもいいかなって思えたから。かれしに今から死ぬってLINEして、それからドアノブでヒモでわっかを作って、それで首を吊って死んでみようとした。だけど、指先がぶるぶるふるえて、ぜんぜんヒモが結べなくて、それがなんだかおかしくなってえへへへぇって笑いがとまらなくなっちゃいました。つかれてそのばに座り込んで、じぶんのりょうあしを見る。ふとももにカブトムシがくっついてると思ったけど、それは私のホクロでした。チンって電子レンジが鳴る。ヒモでずっとあそんでたら、ドアが突然ひらいて私は頭をぶつけてしまった。ドアを開けたのは彼氏。おじゃましますもなんも言わずに家にはいってきたかれ氏に私は髪をつかまれて、1Kのせまいろうかでぶん殴られました。
どうせなぐられるなら、できるだけ痛い方がいいです。いたくないって感覚をわすれちゃうくらいに、ボコボコにしてほしいです。
耳のあたりをぐーでなぐられて世界がぐわんぐわんって揺れて、意識がいっしゅんだけなくなっちゃう感覚は、ドラッグをキメてるときとおんなじ感じがします。多分今いる私の世界の方がにせもので、そっちの世界の方が本物なんだとわたしはおもってます。そっちの世界は全てがキラキラーってしてて、目が焼けるくらいにまぶしくて、のどがつぶれちゃうくらいに叫んでもまだまだ足りないくらいに幸せ。かれしは私を人間としてあつかうようなことはしないから好きです。私はカボチャなのに他の人は私を人間だって言いはって、人間らしくしなさいって言ってくる。生まれてきてごめんなさいをフランス語で何ていうか知ってる人がいたら教えてください。エッフェル塔の先っぽで手首を突き刺したらさすがに死ねるでしょうか? かれしに首をしめられてるときに私はそんなことを考えてた。
クラゲのちーちゃんが、精神科の先生の首にかみついて病院おくりにしてやったと言っていた。自分を愛せない人は誰も愛せないし、誰も愛せない人は誰からも愛されない。誰かが言っていたそんな言葉がちーちゃんは大きらいでした。おやとか友達とかかれしの力で自分のことを好きになれた人間がさァ、わかったようなこと言ってんじゃないよォ。ちーちゃんは泣きながら言ってました。だーれも愛してくれないそんな自分をさァ、自分だけで好きになるなんてさァ、どうやっても無理だよォ。ちーちゃんは結局、クスリをキメたまま車で崖につっこんで海に飛び込んで、そのままもどってくることはありませんでした。ちーちゃんはくらげだから海にかえったんだと私は思います。海の中はここよりくらくて冷たいけど、人間はいません。だから、それでよかったんだと電子レンジが言っていました。
部屋がとつ然暗くなって、床がぐにゃぐにゃーって曲がり始めたら、それはあいつがやってくる合図です。あいつは身体がブタさんで、足がムカデみたいにたくさん生えていて、頭がブラウン管テレビです。おっぱいのあたりから大きないちごが何個もぶらさがっていて、そのひとつひとつに私の知った人の顔がうかんでいます。それはちーちゃんだったり、おかーさんだったり、おとーさんだったり、私をいじめてた中学生の子だったりで、その全員が私の方を見て、『翼をください』を歌いだすのです。私はこわくてこわくて、頭をゴミ箱の中に突っ込んで、ただひたすら叫びつづけます。自分の大声がゴミ箱の中でひびいてすごくうるさいけど、それでもさけぶのを止めたらあいつがやってきそうでやめられません。だけどその時、私が頭をつっこんでいたゴミ箱がおたけびをあげて、そのまま私のくびにかみつきました。私は必死にてい抗して、ゴミ箱から頭を外そうとしたけどぜんぜんだめで、私の叫び声とゴミ箱のおたけびでみみと頭の中がぐちゃぐちゃになって、私は首をかきむしってひっ死に抜け出そうとして、ようやくあたまを引っこ抜くことができた。
ハアハアって荒い呼吸をととのえながら、自分の指先をみてみると、首を掻きむしったせいで爪の間が血で真っ赤になっていました。首から鎖骨のあたりまで血がたれて、生温かったです。爪のあいだにつまった血をじーっと見つめた後でなめてみると、それはなぜかいちごの味がしました。それから私はのどに指をつっこんで、むりやり床にゲロを吐いて、ごめんなさいごめんなさいって言いながらさびしくてさびしくて泣き出してしまいました。暗くて狭い部屋の中に一人。キッチンの方からは電子レンジの声がしてきます。
「神様のために死になさい」
そういえば私はカボチャです。時々言っておかないと私は私がなんなのかわからなくなるから、何度も何どもくり返し言っておきます。私はカボチャです。私はカボチャです。少なくとも、人げんではないと思います。彼氏にボコボコにされた次の日に病院に行ったら、顔面がかんぼつ骨折していると言われました。警察にひがい届を出すようにすすめられたけど、私はカボチャなので人間の法律のことはよくわかりません。
死にたい気持ちはあるけど、死ぬ元気はないので、私のかわりに誰か私をころしてください。できればそのとき、できるだけ痛くしてくれたら嬉しいです。しあわせな気持ちのまま死ねるのなら、それはそれで生まれてきた意味があるじゃんって思えるので。痛くされるのが好きなことをマゾと呼ぶらしいので、私はマゾなカボチャということになります。私をころしてもつかまったりはしません。私は人間じゃなくて、かぼちゃなので。
聞こえてますか? 誰でもいいので聞いていてほしいです。電子レンジが私を呼んでるので、いかなくちゃいけません。返じを待ってます。さようなら。どうかお元気で。




