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跋文
増川は何を感じて、見て、触れたのか、彼しか知らないだろう。つまるところ今となってはわからない。そんなことに興味を持つ奴もほとんどいないだろうし。何せ聞いたって理解できないに決まっている。理解しようとすらしていない、と言い表す方が正しいかもしれないな。ほとんどの場合そういう体裁だからね、人間関係とは。
私は増川が飛び込むのを見ていたんだ。近場に住んでいてね。三階に住んでいて川を見下ろせるんだが、古いアパートだから大雨の日なんか本当に大変で大変で。虹?私には見えなかったけれど。勢い良く川に身を投げたようにしか見えなかったよ。
ただこんなことを言うのは憚られるんだが、美しかったんだよ。走ってるあれが増川だとわかった頃にはもう川の上空で手を伸ばしていたから表情なんかはわからなかったけれど、否定的な行動には感じられなくて。特に沈んだ勢いで打ち上がった泡からは、彼の心中の清々しさまでも伝染してくるようだった。こんな言い回しじゃ伝わらないか?そうだな例えるなら――。
増川は、ジントニックの氷みたいだった。