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9 ヒロインってこんなちゃっかり娘でしたかしら? てか、あとは若いお二人にお任せしたいですわ

 さて入学式も終わり、教室に向かうことになったのだが、なぜか私にはぴたりとヒロイン、ローズがあたかもおつきであるかのごとく背後に貼り付いてきた。

 くっついているのはローズだけではない。

「セルフィ嬢、教室までエスコートさせてもらおう」

 皇太子もまたなぜか私に向かい手を差し伸べてきたのを断ることもできず、三人で向かうことになった。

「…………」

 皇太子はヒロインが気になるのか、ちらちら視線を向けている。紹介の労をとれってことだろう。察したと同時に、私はいいことを思いついてしまった。

 二人を引き合わせたのがわたくし、という事実を作ればよいのではなかろうか。

 そうそう。あとは若い人たちにお任せして、と散々仲を煽る見合い婆になればいいのだ。

 前世で私も見合い婆と数人、遭遇したことがある。私自身は結婚に興味がなかったのだが二十代後半になると母親が焦ってツテをたどり,見合いばばあを見つけてきたのだ。

 見合いばばあというのは別に職業ではない。まあ、職業としてやっている人もいるんだろうが、多くは善意で出会いのきっかけのない男女をくっつけてくれる親切なおばさまたちだ。

 現世では私もまだ『ばばあ』という年齢ではないが、皇太子とヒロインの仲を取り持つことができれば、二人から恩義も得られよう。それなら断罪されることもないはずだ。

「殿下、ご紹介しますわ。こちら、光の魔力を保つ同級生のローズさんです。ローズさん、こちらは皇太子殿下ですわ。お顔はご存じでしょう?」

「なんと、光の属性か」

 皇太子の顔が強張る。わかるわ。コンプレックスね。でも大丈夫だから。彼女を取り込めばもう百人力だ。

「は、はじめまして。わたくし、セルフィ様に本日召し抱えられましたローズです」

「いや、召し抱えてないからね?」

 何度も言ってるでしょうが、と突っ込んだ私にローズが縋るような目を向けてくる。

「召し抱えてくださいよう。寮での扱いを思ったら、絶対学園でも差別されますって。セルフィお嬢様を隠れ蓑にさせてください。お願いします!}

「あのねえ」

 このちゃっかり娘が。てか『隠れ蓑』は意味違うだろう。というツッコミはさておき、ヒロインってこんなキャラだっけ? 寮でよほどの目に遭ったんだろうけど、それにしても彼女を助けるのは私ではないのだ。

 私じゃなくて、と言おうとしたそのとき、閃きが走った。

「殿下、彼女をご学友の一人に加えていただけませんか? 何せ光の魔力です。将来、きっと殿下のお役に立つことでしょう」

 皇太子のご学友ともなれば、よほどのことがない限りイジメとは無縁となろう。あとはもう、若い二人にお任せしますわ、と見合いばばあモードになる。

「ローズさんも殿下のご学友となれば誰も苛める人はいませんわ。というわけで、あとはお二人で……」

 フリータイム突入でお願いします。

 なんだっけ、これ。アラカンには懐かしいフレーズ。

 そうそう、ねるとんだ。紅鯨ってどういう意味だったんだったか。

 金髪碧眼の美男美女どうし、かたや魔力にコンプレックスを持っているハイスペック男子、かたや魔力はあれど『平民』の境遇にくさっているハイスペック女子。

 ハイスペック同士、どうぞ仲良くなさって、とじりじりと後ずさり、さあ、消えますわよとダッシュしようとしたというのに、殿下は私の腕を離してくれなかった。

「要はローズ嬢はセルフィ嬢の友人ということだな。それなら私も彼女の友人となろう。よろしく、ローズ嬢」

「よろしくお願いします! でも私、セルフィ様の使用人なので!」

「だから! 雇ってないから!!」

 なぜにそうも雇われたがるのだ、とつい声を荒立ててしまった私は、返ってきたローズの言葉を聞き納得してしまった。

「セルフィ様の召使いたちが一番待遇がよかったんです。女子寮で」

「……私と同じ扱いをするよう、殿下から学園に頼んでもらえますかね?」

 それならもう、使用人になりたいなどとは言うまい。何が嬉しくてヒロインを雇わねばならんのだ。若い二人には存分に恋を育んでもらえればいいのだ。私は二人の恋とは無縁の学園生活を送らせてもらうことが望みなので。

 私が頼むより、皇太子が命じたほうが話は早い。それで頼んだ私の言葉に、皇太子はにっこり微笑み頷いてくれた。

「すべてあなたの望むとおりにしよう」

「ありがとうございます」

 皇太子に礼を言ったあと、視線をローズに向ける。

「殿下がよきにはからってくださいますよ。それではわたくしはこれで。あとは若い二人で……」

 さて退場。そう思ったというのに今度は感極まった顔となったローズに抱きつかれ、私は退場の機会を逸してしまった。

「なんてお優しい……っ。やっぱり私、この先一生、セルフィ様についていきたいです! そのためにも勉強、頑張ります!」

「いや、だからね……」

 ついてこなくていいんだけど。きっぱり断ろうとした私の言葉に被せ、皇太子の威厳に満ちた声が響く。

「うむ。心して尽くせ。我が婚約者殿に」

「いや、あの……」

 私は見合いばばあだから! 『あとは若いお二人で』と退場するポジションだから!

「お任せくださいませ。皇太子殿下。お嬢様にはムシ一匹、近寄らせることはいたしません!」

 雇ってないのになぜにローズは私の家来然として皇太子相手に胸を張っているのー。

「それでいいのだ」

 皇太子が満足げに頷く。

 いや、全然よくないから! なんか頭痛くなってきた。溜め息を漏らした私に、ローズと皇太子、二人して心配そうに問いかけてくる。

「大丈夫ですか? お嬢様」

「疲れたのなら休むといい。寮まで送ろう」

「……大丈夫だから」

 とりあえず、寮に戻ってからミランと作戦を練ろう。誰が考えてもおかしい展開だ。これ、補正きくんだろうか。

 きかなかったらリセット――はできない。なんといっても私をはじめ、登場人物はこの世界で生きているんだから。

 ああ、癒やしとしてローズのお兄様の笑顔が見たい『もう一度、頑張ればいいさ』のボイスを是非ゲットしたい。

 そんなことを願っていた私を待ち受けていたのは、ゲームとはまったく別世界といっていい展開だった。


 ちょっとだけアレンジしてみたけど、まあ、いつもの引きでごめんあそばせ。

 見合いばばあとの思い出を語っていいということだったら一万文字くらいはいけそうなんですけどね。

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