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8 ようやく入学式ですわ。そして皇太子殿下の名前の初出。なぜにここまでひっぱったのでしょう?

 生徒会長、アルフ様の先導で入学式に向かうことになった私とヒロイン、ローズは、これでもかというほど注目されてしまった。

「それではセルフィ嬢、式典のあとには生徒会室へと来ておくれね」

 席まで案内してくれたアルフにそう言われ、断ることもできずに私は「はあ」と頷いたのだったが、それを着席して聞いていた皇太子が驚きの声を上げる。

「なんだって!? セルフィ嬢が生徒会? アルフ、一体どういうことだ?」

 皇太子とアルフ。年齢はアルフのほうが一つ上だが、身分は当然下。アルフは確か王の妹の息子で二人は従兄弟同士だったはずだ。

「殿下も是非、生徒会室においでください。そろそろ式典が始まります。私も登壇しなければならないので今は失礼させていただきますね」

 アルフがにっこり微笑み、皇太子と私に会釈をしてからその場を立ち去っていく。

「セルフィ嬢、何があったのです?」

「いえ、私もなんのことやらさっぱりで……」

 思いもかけない事態が発生したおかげで、本来であれば気まずいはずの一年ぶりの再会だというのに二人の会話はごくスムーズに運ぶことになった。アルフに感謝、いや、ヒロインに感謝だろうか。

「生徒会ですか。父より統治を学ぶいい経験になるだろうとは言われていましたが、実は少々憂鬱だったのです。しかしあなたと一緒ならよかった」

 皇太子がぽつりと呟くようにしてそう告げ、私へと視線を向ける。

 うわ、眩しい。天使の笑顔だ。しかもちょっと弱々しい。

 皇太子が『憂鬱』に感じたのは、生徒会の役員はおしなべて優秀な生徒が多いからだった。それが選出理由といってもいい。

『優秀』というのは学業は勿論、魔力の大きさという意味もある。皇太子は学業はともかく、魔力のほうはさっぱりで、それがコンプレックスになっているという設定だった。

 そんな彼が光属性の魔力を持つヒロインに惹かれるのはある意味当然のことだろう。最初はヒロインの魔力に惹かれるも、生徒会で交流するうちに彼女のおおらかにして綺麗な心に惹かれ、愛するようになる――というのが皇太子ロレンツォルートだ。

 あらやだ。私っては皇太子の名前を今始めて喋った気がしますわ。『殿下』としか呼びかけないからね。ヒロインも最後の最後、愛を受け入れられるところではじめて『ロレンツォと呼んでくれ』と名を呼ぶことを許されるのだ。

「わたくしも殿下がいらしてくだされば心強いですわ」

 正直、私の魔力もしょぼい。しかも学力についても自信がない。つるかめ算が出てきたらお手上げだ。なので生徒会に入ることになったら、殿下以上に肩身の狭い思いをすることになるのは目に見えている。

 確かゲームでは、悪役令嬢セルフィは生徒会メンバーではなかったように記憶している。自分が入ることを許可されていない生徒会室に押しかけ、殿下を出せと喚くシーンが何度もあった。

 あ、そうだ。ヒロインは結局、生徒会に入るのだろうか。アルフはローズには特に言葉をかけていなかったような気がするんだけど。

 まあ、光属性の魔力の持ち主なら、入るのだろう。ゲームでも属性を理由にメンバーとなったが、それがまた貴族子女の反感を買った、という設定だった。

 身分をわきまえよ、ということだったが、ちょっと待てよ。私は身分は申し分ないとはいえ、実力もないのにメンバーになりやがって、と反感を買ったらどうしようだ。

 ここはやはり、同じく実力のない皇太子を隠れ蓑にするしかない。それで私は愛想よく彼に笑いかけたのだが、私の言葉を聞いて皇太子は感無量、といった表情になってしまった。

「あなたに頼りにされるとは。お任せください。何があっても私があなたをお守りします」

「……あ……りがとうございます」

 なんか変なスイッチ入っちゃったんじゃないかな。杞憂だといいんだけど。と思った私の予感は嫌な方向で当たってしまった。

 入学式がはじまり、学園長の歓迎の挨拶やら、主任教諭の説明やら、そして生徒会長アルフの挨拶などがあったあと、皇太子入学、ということでロレンツォ殿下が壇上に上がった。

 新入生代表として挨拶をするらしい。他にどんな成績優秀者がいようが、皇太子以上に挨拶をするに相応しい人間はいないよな、と思いつつ、彼の挨拶の言葉を聞いていた私は、最後の最後で絶叫しそうになり慌てて口を押さえることとなった。

『私は宣言する。私は婚約者であるセルフィ嬢と共に、未来の我が国のために誠心誠意この学び舎で学ことを』

 おお、と講堂内がざわめいたあと、物凄い拍手が湧き起こる。

「さあ、セルフィ嬢、あなたも壇上へ」

 皇太子に招かれはしたが、いやいや、勘弁してくださいと私は愛想笑いを浮かべ、首を横に振った。が、拍手が鳴り止まないため、仕方なく立ち上がり、周囲に向かい頭を下げる。

「ありがとう。皆、ありがとう」

 皇太子が嬉しげに皆を見渡し、礼を言っている。

 ゲームでは確か、スチルすらなかった入学式でこんなとんでもないことが起ころうことなど、フルコンプをした私にとってもびっくりだ。

 一段と大きな拍手の音が聞こえ、そのほうを見る。と、パンパンと柏手を打つような大きな音を立てているのがヒロイン、ローズであることがわかり、思わず彼女を見てしまった。

「お嬢様! がんばってー!」

 視線があったからだろうか。ローズが高い声を上げ、一段と大きな音で拍手をし始める。

 いや、私、あなたを雇ってないからね? その誤解をまず解かねば、と焦っている私の心中を察することなくローズは、

「セルフィお嬢様ー!」

 と尚も私に声をかけ、周囲の注目を攫っていたのだった。

 これ、ヒロインまで私は攻略しているってことなの? 違いますわよね?

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