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7 まだ入学式が始まっていないことは内緒ですわ。そして新たな攻略対象登場ですわ。

 さて入学式の日。魔法学園にはその年十三歳になる貴族の子弟が入学する決まりとなっている。魔法の制御を学ぶためだ。

 この国の人間は貴族に限らず、誰でも生活魔法は使える。火をおこしたり水を清めたり、または運んだりする魔法だ。そうでなければ電気もガスも発明されていないため、生活が成り立たないのである。

 しかし『属性』を持つ魔力が使える人間はほぼ、貴族に限られる。属性というのは、光、闇、水、火、土、風を意のままに操るという力で、光と闇の属性の持ち主はごくごく稀、ということだ。

 因みに私は水の属性だが、たいした魔力はない。自分が魔法を使えずとも、魔力の強い人間を雇い、周囲に侍らせれば快適な生活ができる。うちの両親もそれぞれ火と土の属性だが、魔法を使っているところなど見たことがない。

 私の魔力はたいしたことないのだが、中には膨大な魔力を持って生まれてくる子もいる。魔力の暴走破壊を伴うため、きっちり制御を覚えなければならない。

 平民の中にもごく稀に、属性の魔力を持って生まれてくる子供がいる。貴族の落とし胤でなくとも、突然変異で生まれることがあるそうだ。

 ローズがまさに、それにあたる。しかも彼女の属性は光。それで平民にして魔法学園への入学が決まった。光の魔法は強大で、きっちり制御できないと国一つ滅ぼすほどの威力があるためである。

 と、ゲームの説明書のような能書きはさておき、入学式である。家格順に席が決められているため、侯爵家の私には王族に近い席が設けられていた。

 遠目に、皇太子が既に着席しているのが見え、憂鬱になる。

 一年会わないうちに皇太子は少し背が伸びていた。やはりイケメン。天使のようだ。

 一年間、体調不良を理由に会わずにいたが、久々に顔を合わせる私がこんなに顔色よかったり肉付きよかったりしたらさすがに仮病がばれるだろう。

 言い訳するのも面倒くさいな、と思いつつ、式典が始まるギリギリに席につけばいいか、と足を止めたそのとき、

「あのっ」

 いきなり背後から声をかけられ、驚いて振り返る。

「こ、こんにちは」

 声をかけてきたのはヒロイン、ローズだった。そもそも、身分が下の人間から声をかけることは基本、許されていない。しかしそれは貴族間のルール。平民の彼女が知る由もない。

「ごきげんよう」

 周囲がざわついているのは、ローズが平民であることと、光の属性であることを知っているからだろう。ついでに私が侯爵家の令嬢であることも。

 それにしても、突然声をかけてくるとは。あれ? 確かゲームでは入学式でローズが声をかける相手は私じゃなかったはず。座席がわからなくて近くを通りかかった皇太子に聞いてしまうのだ。

 その辺の先生に聞けばいいのに。せめて女子に聞けよ、と思いつつプレイしていたことを思い出す。それでローズは悪役令嬢の私に目をつけられてしまうのだから。

 あれ。既に私、目をつけたことになっているのだろうか。そうならないためにも笑顔で応対しておかないと、断罪のネタにされてしまう。

「昨日は兄に親切にしてくださり、本当にありがとうございました」

「結局は何もできませんでしたわ。お気になさらず」

 笑顔。スマイル。あとは優しい言葉遣い。さすがに私がツリ目の意地悪顔でも、これなら『苛めている』とは思われまい。

「ご丁寧にありがとうございます。それでは」

 にっこり、と『慈愛』をイメージしつつ微笑み、軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとした私に、ローズはとんでもないことを言いだし、周囲の喧噪を誘った。

「あの、兄を召し抱えてくださるとのことでしたが、私もついでに召し抱えていただけませんでしょうかっ」

「……は?」

 どうした、ローズ? いきなり私の家来になると?? なにその展開。あり得ないんですけど。

「お願いします。寮でも私、扱い酷くて。皆さんの召使いにほうがいい部屋を宛がってもらってるんですよ。なので是非、兄と一緒に私も雇っていたけないかと」

「ちょ、ちょっとこちらにいらしてくださる」

 周囲がざわめく中、私は慌ててローズを連れ、入学式が行われる講堂を出た。まだ始まるまで三十分はあるから講堂内にいた人間は十数名だったが、彼らにはしっかり聞かれてしまっている。

 しかしまさか、ヒロイン、ローズがこんなちゃっかり屋だったとは。いや、思い返すに、確かにちゃっかりしたところはあった。生徒会でも先輩に宿題やらせたりしていたような。それにしてもいきなり召し抱えてくれとは、どういう思考回路をしているのだろう。

「お願いします、セルフィ様。私、なんでもしますので」

 うるうると綺麗な青い瞳を潤ませ、ローズが訴えかけてくる。一体どうすればいいのだか。いや、断る以外、選択肢はないのだが、断った場合いらぬ恨みを買うことになるのではなかろうか。

 そもそも、規定外の申し出をしてきたのはローズなのだが、その常識のなさゆえ逆恨みされる危険は大きい。

「と、とにかく、寮生活が快適なものになればよろしいんですのね? それならわたくしから寮監に話を通しますわ」

「ありがとうございます。セルフィ様! 私、一生懸命仕えます!」

「いや、雇ってないから!」

 反射的に言い捨ててしまった私の声を聞き、ローズが「えっ」とショックを受けた顔になる。

「あ、いや、その。その程度のことで召使いになどなる必要はないということですわ。同じ学園でこれから学ぶ生徒同士なのですから」

「すばらしい!」

 と、またも背後で凛とした声が響き渡る。今度は誰よ、と振り返った私の目に飛び込んできたのは、黒髪長髪のキラキラした美男子だった。

「私は生徒会長のアルフレッド。君のような崇高な意識の持ち主を是非、生徒会に迎えたい」

 そうそう。いたわ。攻略対象の先輩にして生徒会長。ローズがちゃっかり宿題をやらせていた通称アルフ。この呼び名が許されるのは好感度を上げてからだけれど。

 そのアルフ様が『君』と手を差し伸べているのはなぜか、ローズではなく私だった。

「……え……?」

 どの辺が崇高だったのだろう。戸惑う私にアルフが、にっこり微笑み、こう告げる。

「私のことはアルフと呼んでくれ。セルフィ嬢」

「……………………」

 どうなってるの。これ。

 入学式を迎えるより前にどうやら私は攻略対象の好感度を爆上げしてしまったようである。ミランがいなくてよかった『溺愛ゲット』と騒ぐだろうから。

 しかしこれもまた『溺愛』ではないと思うんだよな、と心の中で呟きながら私は、ひとまず入学式が終わったら寮監にローズの待遇について、約束どおり話を通さねばなと考えていた。

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