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5 いよいよ入学式。出立の前日、執事見習いに『枯れてる』と怒られましたわ

 月日の流れは早い。

 あっという間に一年が経ち、明日は魔法学園の入学式である。

「すっ飛ばしすぎでしょう」

 ぼそ、と横でミランが呟く。彼は執事見習いなので、魔法学園まではついてこられないと高をくくっていたのだが、お父様とお母様に直訴し、私の召使いの一人としてちゃっかり同行を決められてしまった。

「だってこの一年、特に変わったことなかったし」

「あったでしょう?」

 ミランが心底呆れた顔になりつつ、部屋に置かれた大きな姿見を見やる。その姿見は、妖精王直々に下賜されたものだった。彼と初めて会ったとき、懐かしい漫画やアニメの話に盛り上がったのだが、別れがたく思った王が、妖精の国との入口となる鏡をわざわざ贈ってくれたのだ。

 おかげでこの一年、暇さえあれば互いに行き来をし、楽しい時間を過ごした。ミランとしては、容姿的にイマイチな私が攻略対象全員から溺愛されるようにと、妖精王の持つ『魅惑の粉』を欲していたのだが、妖精王には断られてしまったのだ。

「私と過ごす時間が減るではないか」

 拒絶の理由を聞きミランは「これで溺愛二人目ですね」と喜んでいたが、妖精王の私への思いは『溺愛』でないことだけは確かだ。

 最近二人の間で盛り上がっているのはリレー小説だった。キャラは自分が推してる昔の漫画の主人公をモデルにしているため、めっちゃ盛り上がる。因みに私がモデルにしたのは宗方仁。妖精王のほうは私をぶったプペちゃん、のサンジュスト様(麗)である。

 皇太子の見舞いは一年間、断り続けた。それでマメに連絡を取ってくるだけなのに、ミランは皇太子も私を『溺愛』していると決めつけている。

 この享年二十歳の若者は、『溺愛』の意味がわかっていないんじゃなかろうか、と、アラカンを迎えるまで独身だった私に言われたくはないだろうが。

 彼にも昔なつかし、ときめきの少女漫画を読ませたいものだ。恋とはなんだかわかるだろう。

 お勧めは何がいいか、今度妖精王に相談してみようか。

「お嬢様、ぼんやりしていないで。明日からの学園生活について、心構えはよろしいですね?」

 ミランに声をかけられ、我に返る。

「心構えって?」

「お嬢様には成績優秀者として生徒会に入っていただきます。他の攻略対象は生徒会の役員が多いので」

「ああ、そうだったわね」

 そうそう。皇太子のご学友で固められていた生徒会。脳筋のスポーツマンタイプ、寡黙な文官タイプ、それからピアノが得意な一年先輩の侯爵令息、遊び人、実はピュアピュアな派手な先輩もいたっけ。

「成績に関しては問題ないと思います。この世界の歴史は、ゲームをフルコンプなさっているお嬢様なら設定資料は読み込んでいらっしゃるでしょうし、学問的な知識も日本よりは随分遅れているようです。小学生レベルと思われます。音楽やらダンスやらは、すでに体得していらっしゃいますしね」

「理数系は無理よ。まったく覚えてないし」

 小学校でやった算数とか理科とか、覚えているわけがない。つるかめ算とか出てきたら無理。だいたい大人になるより前に電卓を使うようになったから計算だってそれがなければほぼできない。

 電卓を打つ速さには、ちょっと自信があったけれど、今の時代はRPA。既に電卓すら使わない。

 今更勉強は怠い。ゲームはただ、ボタンを押すだけで一日が過ぎていたが、これから授業を受けるんだよなー。魔法の勉強は面白そうだと思うけれども。

 憂鬱だ、と溜め息をついた私に向かい、ミランは、

「お任せください」

 と微笑み、頷いてみせた。

「そんなときのために私がいます。私がお嬢様を生徒会にいれてみせます」

「……別に入らなくてもいいわよ?」

 生徒会にはヒロインも当然ながら入る。となると、攻略対象の興味は彼女に行くはずだ。それを横で見ているのは楽しかろうが、そもそも、私はヒロインとはかかわりたくないのだ。なぜならヒロイン絡みで破滅する可能性が高いから。

「余生を幸せに過ごしたいし。わざわざ火中の栗を拾う真似はしなくていいというか」

 ヒロインはヒロインで楽しい学生生活を過ごし、攻略対象と楽しい恋愛を繰り広げてもらいたい。なんといっても私の推しはヒロインのお兄様。しかも攻略しないエンドである。

「そんな枯れたこと言わないでください。僕にも夢を見せてくださいよ」

 ミランが悲しげな顔になる。

「ならあなた自身が恋に頑張ればいいでしょう」

 言ってから私は、はっと我に返った。ミランの推しはセルフィお嬢様。つまりは私だ。

 あれ、これって『私を落としてみなさいよ』に聞こえちゃってたりして? いやいや、そんなつもりはないから。自分の息子よりも若い中身だとわかっているし、と慌てて言い添えようとした私の気遣いをミランはこれでもかというほど打ち砕いてくれた。

「ご心配は無用です。僕にも選ぶ権利はありますので」

「ちょっとそこに座りなさい」

 こいつには年長者を敬うという礼儀の基礎を一から叩き込む必要がありそうですわ。と、しまった。この世界では私のほうが年少者であったと唇を噛んだ私に、ミランが期待を込めた眼差しを向けてくる。

「大丈夫です。僕がついています。逆ハーレム、達成してみせますよ!」

「頑張ってね」

 達成できるものなら達成してみやがれ。学園にはヒロインがいるのだから無理に決まっているだろうけれども。

 さて私は妖精王とのリレー小説の続きでも書こうかしら、と気持ちを創作へと向けていたのだが、まさか入学式で驚くべきことが起ころうことなど――っていい加減、ワンパターンな引きとなってしまったけれども、入学式ではびっくりな展開が待っているのでお楽しみになさってくださいませ! 

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