4 妖精王攻略。支え手はそえもの。これがキーワードになりましたわ。
妖精の森。生前プレイしながらも感じていたのだが、この乙女ゲーム、設定がブレブレなのだ。
魔法と妖精の間に関係性がほぼない。
普通は,魔法は妖精の力。妖精に好かれる乙女が主人公、なんて流れじゃないですか。それが、主人公は光の魔法を使える。妖精がかかわってくるのは『妖精王』と主人公が森で出会ったときのみ。
因みに『妖精王』は隠しキャラだ。
今思い出したんだけど、山岸涼子先生に『妖精王』って漫画、なかった? 日出処のーも好きだけど、妖精王も好きだった。あ、アラベスクも好き。一部が特に。ほら、3巻で、ノンナが『ミロノフ先生、助けて』と祈りつつ、添え手なしでリフトするところ、あそこは名場面よね。左手は添えるだけっていうのに通じる、支え手は添え物と思わないと駄目だぞ、みたいな。
あーまた読みたくなった。でもできないのよね。だって転生しちゃってるんだから。
「お嬢様。先程から意味不明なことを呟いていらっしゃるんですけど」
執事、ミランに言われ、私は我に返った。
「妖精王でしょ。隠しキャラは確か、全キャラ攻略してからじゃないとでてこないんじゃないの?」
享年二十歳のこいつに『アラベスク』の話は通じまい。そう思ったので話を振ったのだが、予想外の返しがあった。
「私がキャラクターダンサー? っていうシーン、佐々木倫子先生の漫画でパロになってましたよね」
「なんと! あなた、年誤魔化してた?」
覚えてる。そんな懐かしい話ができるだなんて。思わず身を乗り出した私を絶望の淵に追い落とす言葉をミランは口にする。
「祖母からそんな話を聞いた記憶があって」
「妖精王なんだけどね」
祖母が転生してくれたほうがどれだけ話し相手としてありがたかったか。いや、まだ祖母生きてるかもな。
話を現世に戻し、計画に無理があることを悟らせようと私は気持ちを切り換えた。
「隠しキャラだから、いくら妖精の森に行こうが、会えないんじゃないかしらね。それに妖精の森には辿り着けないんじゃないの?」
「それは大丈夫です。皇太子から指輪を預かっているので」
「いつの間に」
そう。皇太子が国王から譲り受けた指輪。それを聖なる泉にかざすと妖精の森が出現する。
「妖精王を攻略すれば、魅惑の粉がもらえるんじゃないかと思うんですよ。それをお嬢様に振りかければ、攻略対象も一瞬にしてゲットかなと」
ミランは今や策士の顔をしていた。が、ちょっと待て。
「その粉がないと、攻略対象を落とせないとあなたは思ってるってことよね」
「あ、いや」
ミランがはっとした顔になる。
「お嬢様には不要ではあるんですけど、ほら、念には念をと言うか」
「おべんちゃらはいらないわよ。今更」
やはりそのつもりだったか。溜め息をついた私だったが、
「おべんちゃらってなんですか」
と問われるとは思わず、「はい?」と問い返してしまった。
「お世辞って意味よ」
「お世辞をおべんちゃらというんですか。へえ」
覚えておきます、とメモをとるミランにいらっとくる。
「若い人は言わないのかしらね」
「聞いたことないですねえ」
頷いたミランだったが、私がムッとしたのがわかったのか、
「ああ、でも、妖精王は長寿なのできっと話があうんじゃないですかね」
と、神経を逆撫でするようなフォローをして寄越した。
「それは楽しみだわ」
「あ、お嬢様、到着しました。聖なる泉です。馬車を降りましょう」
ミランがわざとらしく微笑み、馬が足を止めるより前に馬車の扉を開く。
「ここに指輪をかざして……」
ミランが指輪をかざすと、泉から水柱が立ち、いよいよ妖精王が出てくるのかとさすがに緊張してきた。
「あ!」
水柱の陰から一人の女神っぽい外見をした美女が姿を現し、ミランに訪ねる。
「お前が落としたのはこの金の斧ですか、銀の斧ですか」
「え? 落としてませんけど」
ミランが戸惑った顔になり、女神を見やる。私は別の意味で戸惑っていた。というのもその女神がどう観ても馴染みがありすぎる容姿をしていたからだ。
「イスカンダルのスターシャ?」
「……っ」
思わず呟いた私を、女神は、『バッ』と音が出るほどの勢いで見やった。
「……地球か……」
スターシャがぽつりと呟く。
「何もかも、みな、懐かしい」
条件反射で呟いた私の目の前でスターシャは歓喜の表情を浮かべたかと思うと、いきなり私に抱きついてきた。
「おお、同士よ!」
「はい??」
何が起こっているのかわからず、その腕から逃れる。と、目の前にいたのはスターシャではなく、黄金色の髪、黄金色の瞳をした見目麗しい青年で、一体誰なのこれは、と私は戸惑い、ミランを見た。
「誰なの、この人?」
「妖精王だ」
答えたのはミランではなく黄金色の髪と目の持ち主だった。
「我が森にようこそ。心ゆくまで語ろうではないか」
そのまま私は彼に抱きかかえられ、湖の奥へと導かれようとしている。
「さらば宇宙戦艦ヤマトについて」
「愛の戦士たち……ですね?」
って妖精王がなぜ、私が子供の頃に流行ったアニメを語ろうとしているのか。
「第一部の裏番組はハイジだった。ハイジも好きだ。クララが立った回は涙なくしては語れない」
「……パトラッシュは?」
「好きだ」
「母を訪ねて……」
「アメディオ!」
どうやら妖精王は昭和アニメオタクらしい。
「あいしているわ……まもる……っ」
「スターシャ!」
私はオタクってほどじゃないけど、話には付き合えるかも。享年二十歳のミランと話すよりはよほど楽だ、と思っていた私に、そのミランが声をかけてくる。
「妖精王、ゲットです」
「いや、チョロすぎでしょ」
これでゲットとは。戸惑う私に妖精王がぼそりと呟く。
「フランス……」
「ばん……ざい!」
これはアニメじゃなくてベルばらね。それなら、と試しに呟いてみる。
「ミロノフ先生……」
「たすけて……っ。 支え手は添え物」
「!!」
マイソウルメイト!!
結局私はそのまま妖精王に導かれ、夜が明けるまで好きな漫画やアニメの話をし倒したのだった。
これは攻略なの? アラカンの女子会としか思えなかったけど、ミランが満足したのならまあいいか。