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1 悪役令嬢ものとしてはお約束? すみません、年齢上すぎますかね。

悪役令嬢ものが大好きです。

私はどうやら乙女ゲームの悪役令嬢らしい。


気づいたきっかけは、それこそ、テンプレとも言うべき事故からだった。この国の皇太子との乗馬デートの際に落馬し、頭を強く打ったのだ。

乗馬デートは無理くり、設定したものだった。私は皇太子に好かれていない。わかるだけに少しでも距離をつめたくて、殿下が好きな狩りをネタに呼び出したのだ。

なぜ私が陛下に好かれていないか。当然ながらわかっている。

国王たるもの、強大な魔力が必要であるのに、皇位継承権は第一であるのに反し、殿下は魔力が微妙なのだ。

『ない』と言っていいほどに微かであることを自覚していらっしゃる。それだけに財力だけには胸を張れる我がクレデンシャル侯爵家の一人娘である私との婚約を承諾するしかなかった。

 カネで全て解決しようとする我が家のポリシーを殿下は下賎だと蔑んでいらっしゃる。しかし頼る以外に次期国王になる手立てはない。

 いやいや婚約した私に対する陛下の態度はそれこそ塩対応、そのものだった。それに腹を立て、私は何かというと殿下と接触を持とうとし、更に嫌われるという負の連鎖がこの数年積み重なっている。

 しかし。

 こうして『前世の記憶』を取り戻した今となっては、自分の愚かしい振る舞いをこれでもかというほど自覚できた。

 私の前世はアラ還。趣味は乙女ゲーム。定年後は乙女ゲーム三昧の生活を送ろうと目論んでいる大手企業の事務職だった。

 最近発売された『ときめきが世界を救う。私が世界を変えてみせます』という乙女ゲームのフルコンプエンドを目指し、年甲斐もなく徹夜を繰り返していたために、過労死をした。

 ゲームに夢中になっていたのに『過労死』というのは矛盾している。が、勤務先が大手企業だったのでめでたく過労死扱いとなった――ようだ。

 年老いた両親は私の退職金のおかげで死ぬまで安泰だろう。安堵したと同時に私は気づいてしまった。自分がそれこそ死ぬまで夢中になっていた『ときめきが世界を救う』という乙女ゲームの世界に転生したことに。

 てかさー。ヒロインに転生するならともかく、プレイヤーの殆どに忌み嫌われている悪役令嬢に転生するなんて、ついてないにもほどがある。

 しかも来年には魔法学園に入学しなければならないのに加え、同級生にはヒロインがいるのだ。皇太子とヒロインの恋物語が始まることがわかっているというこの状態で、私は一体何をすればいいのだか。

 取り敢えず、これまでの傍若無人な振る舞いを詫びるべきだろうか。親の財力をかさにきて皇太子にはこれでもかというほどマウントをとってきた。

 それか、婚約解消を試みるか。私の希望でかなった婚約だ。私が辞退すれば解消できるに違いない。両親は一人娘の私に甘い。うん、それでいこう、と私は早速、両親に会いに行くことにした。

「お父様、お母様、お願いがあります」

「なんだね、セルフィ。私たちの愛しい娘よ」

 お父様は見たまんま、賤しい拝金主義者だった。

「お前を振り落とした馬はすぐさま処刑するよう命じたわよ」

 お母様も然りだ。顔に卑しさが溢れている。

「馬、気の毒すぎる」

 ちょっと待って。処刑はtoo muchだろう。落馬したのは私が馬の腹を蹴ったためだ。皇太子が自分よりも乗馬が巧みなことが許せなかったのだ。

「え?」

「お母様、処刑はやめて。私、あの馬が気に入っているの。ペガサスって名前が特に」

「お前がそう言うのなら、処刑はやめにしますよ」

 やっぱりねー。両親、私に甘すぎる。そりゃそうだよね。年とってからできた念願の子供だもの。だからといって、皇太子の婚約者に据えるのはどうかと思うけれども。

 というのも、両親の容姿を見るとわかるだろうけど、私の外見は見苦しい。父も母も美しさとはかけはなれているのだから仕方がないことだけれども、『若い』以外に取り柄のない、平凡、いや、平凡以下の顔なのだ。

 これじゃ、皇太子も婚約を嫌がるはずだ。子供は見てくれに弱いからな。

 それが理解できているので私は婚約破棄を決めたのだ。

「お父様、お母様、私、考えたんです。皇太子の婚約者となれば、将来の王妃ですよね。そんなの、私には荷が勝ちすぎている。だからもう、婚約を辞めたいの」

「えっ」

「何を言うの? セルフィ」

 戸惑うばかりの両親を説得せねば、と口を開こうとしたそのとき、凛とした声が室内に響き渡った。

「おそれながら! お嬢様は未だ、錯乱していらっしゃるようです!」

「おお、ミラン。そうなのか?」

 お父様が信頼しきった視線を向けている相手を私も見やる。執事のミランだ。最近、代替わりしたばかりの新参者のはずなのに、不思議と私の両親の覚えはめでたいという。

 なんだって彼が意義を申し立ててきたのか、まったく理解できずにいた私の前で、ミランはとうとうと喋り始めた。

「お嬢様は落馬により頭を打たれたショックから未だ立ち直れていらっしゃらないようです。ここはわたくしめにお任せ頂けませんでしょうか。なに、二、三日もあればお嬢様をもとどおりにしてみせます」

「うむ。頼んだぞ」

「お前に任せれば安心です」

 両親、いきなり同意したけど、いや、ミランという彼、めっちゃ胡散臭くない?

「それではお嬢様、お部屋に戻りましょう」

 にっこり。その笑みすら胡散臭い。ミランの見てくれは、世の女性すべてを魅了するに違いないイケメンではあるにせよ。

「戻りたくないわ」

 何か嫌な予感がする。それで拒絶したというのに、両親は実の娘よりもミランの意見を尊重した。

「いいから、戻って休みなさい」

「明日また、話を聞きますからね」

 ゆっくりするといい、と両親に送り出されては聞き入れないわけにはいかず、私はミランと共に自室へと戻ることを余技なくされたのだった。

「お嬢様、困りますね。婚約を破棄されたいなどと」

 部屋の戻ると同時にミランは私を諭そうとし始めた。

「だって皇太子は私を好きではないでしょう。どちらかというと嫌っているはずです。それなのに婚約者であり続けるだなんて、私のプライドが許しませんの」

 ミランの説得の仕方はわからない。というか、ミランなんて存在、私の知っているゲームにはなかった。悪役令嬢セルフィの親だって不確かだ。要はヒロインの恋愛の邪魔をする噛ませ犬的存在だった。

 来年、魔法学園に入学したら嫌でもヒロインと顔を合わせる。噛ませ犬など御免被る。それゆえの婚約解消だというのに、彼は何を邪魔しようというのだろう。

「それじゃつまらない。皇太子にはセルフィ様のトリコになっていただきます」

「はあ?」

 何を言いだしたのだか。呆れるばかりの私に向かって、ミランは思いもかけない言葉を口にする。

「個人的にヒロインは好きじゃないんですよ。セルフィ様推しの僕としては何がなんでも、皇太子にはセルフィ様を選んでいただきます」

「……ちょっと待って。なにその……」

『ヒロイン』という言葉は。そんな言葉、知っているなんてまるで私と同じ――。

「そう。私も転生者です。あなた様に逆ハーレムを築くことが私の望み。攻略対象、隠しキャラ含めてすべて、あなたに夢中になっていただきます」

「はああああ???」

 もう『はああああ??』しか出てこない。呆れるばかりの私にミランはにっこり笑ったかと思うと、

「まずは皇太子殿下攻略ですね」

 とそれは『策士』としか表現し得ない笑みを浮かべ、私に頷いてみせたのだった。

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