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いとこ

忙しく行き来するひとたち、指示の声と応じる声が飛び交って、緊張感と活気が溢れている。


「ヨツバちゃん、いらっしゃい。騒がしいところだけど、どうぞ」


ビアンカ・ビショップさんは長いウェーブの髪をゆるくまとめて、服装もドレスではなく作業着的なものを着ているわ。


ここは武器の開発や製造をする部署の一室。ビアンカさんは新しい武器の開発を担当するメンバーのひとりなの。

頭脳明晰。とてもすごいのよ。


「こんにちは、ビアンカさん。お邪魔します」


今日はこちらの見学に来たの。

ブラッドリー王子の婚約者(仮)として、未来の旦那様のお仕事のことを理解しておくようにと内々にお達しがあってね。


ビアンカさんにその旨お話したら、ちゃんと聞いてますよ、いつでも良いですよ、ってお返事頂いて伺ったの。


場所が場所だけに、リーさんが同行してくれてるわ。

よく分からないけれど、軍事機密的なところだものね。

入り口とかもすごく厳重なのよ。


「ここでは新たな武器の開発や現行のものの改良などの研究をしているのよ。現在、他国との争いはないから、これらは主にビースト向けなんだけれど、万が一にも備えているわ」


ビアンカさんがハキハキと説明してくれる。

話の仕方も理路整然としていて、分かりやすいの。

見習いたいわ。すぐは無理でも、いつかはこんな風に知的な女性になりたい。


企画、立案、検討、実効性、コストパフォーマンス。複数の会議を経て、試作品を作って。

それからさらに検討を重ねてブラッシュアップして、なんども試用テストを繰り返してやっと完成するのですって。


「以前、ナイト少尉から麻酔銃の製作依頼があったわ。ヨツバちゃんも知っているでしょう? あれはここで作ったのよ」


あのときの!

わあ、短期間で対応してもらったのよね。

本当にお世話様でした。対応してもらえたから、ビーストの捕獲が出来たのだもの。


………………?


ビアンカさんのお話を興味深く聞いていたらね。視界の端、ちらりと見えた人影に、思わず振り返ってしまったわ。


あのひとは…!


どきんと心臓が強く打ったわ。

肩にかかるくらいの髪を後ろにまとめた後ろ姿。ブラッドリー王子の警備隊ではなく、国王陛下を筆頭にした護衛軍の制服を着た男性が職員の男性と話している。


あの後ろ姿。もしかして…。


そうして、話しながらその男性が体の向きを変えてね、顔が見えたの。


ーーーー!


驚いたわ。

だって、ブラッドリー王子に面差しが良く似ていたのだもの。


意思の強そうな眉、通った鼻筋、精悍さを印象付ける頬。背格好や体付きまで似ている気がする。

もちろん、瓜二つと言うわけではないの。見分けが付かないほど似ているわけじゃないわ。


でも、似ている。


私の視線を追って、ビアンカさんが微笑んだ。


「良く似てらっしゃるでしょう。ジャン・リード・ロチェスター様。王弟殿下のご長男でいらっしゃる方よ。ブラッドリー殿下のいとこ君に当たられるわ」


いとこ…!


「それぞれのご兄弟よりもよく似てらっしゃる、と言う者も多いのよ」


「確かに」


「ふふ。お小さい頃のお二人は双子みたいで可愛らしかったのよ」


仲もよろしくてね、とビアンカさんが続けたときだったわ。

白昼夢のように、それは見えたの。


閃光。


私たちのすぐそばにある、私にはよく分からない装置が爆発する。


「ビアンカさん、あれは?」


指差した先、あまり大きくはない、プラスチック模型のような何か。その一部が点滅している。


「え? っな!!」


ビアンカさんは一目見て状況を正確に把握したよう。

そして、対応は素早かったわ。


「ヴァイス! 試作機のスイッチが入ってる!!」


「ええっ?! ちょ、ヤバイです、姐さん!」


「ヤバイのは分かっているわ! 保護バリア! 早く!! ジャン・リード様、お下がり下さい!! 全員伏せて!! ヨツバちゃん、逃げ…、ヨツバちゃん?!」


「ヨツバ様っ!」


一瞬先を見ていた私はビアンカさんの言った「保護バリア」がどれだか分かっていたわ。

素材はよく分からないけれど、銀色の大きなお椀型をしたものよ。

幸い持てる重さだったから、私はそれを持って問題の装置に駆け寄った。


よいしょ。

こうして囲えばいいのよね?


「馬鹿! 下がれ!!」


え?


「きゃっ」


首根っこを掴まれた。引っ張られた。え? え? わ。


どん!!!


「ーーーっ!」


閃光ー!

そして爆風!!


うっひゃあ。体が浮く。飛ぶ。

そうか。視えたアレ、保護バリアを使ってもこれだけ爆発するってことだったのね。

危なかったわ。

あのままそばにいたら大怪我してたかも。


「痛って…」


は! いけない。私ったら誰かを下敷きに…。

って言うか、なんか、抱きしめられているような?


「…っ!」


間近にあったのは、眉を寄せる整った精悍な顔。

ブラッドリー王子と良く似たこのお顔は、ジャン・リード様?!


「ご、ごめんなさいっ!」


庇ってくださったのよね? お怪我はされてないかしら。

私、慌てて立ち上がったわ。


ジャン・リード様は後頭部をさすりながら私を見て、小さくため息をついたわ。


「怪我は無いか?」


「はい。ありがとうございました」


ペコリと頭を下げる。ジャン・リード様は苦笑気味に言ったわ。


「礼を言うのはこちらの方だ。君のおかげで皆回避行動が取れたのだから。だが、無謀な行動は控えた方がいい。仕える者が、気の毒だ」


気の毒。これ、ちょっと堪えたわ。

だって、本当に、リーさんが泣きそうな顔をしていたから。


「ヨツバ様っ! ご無事ですか? お怪我は?」


部屋の中は惨憺たる有様で、机の下や床の上に身を伏せていたひとたちが恐る恐る周りを見回している。

そんな中、リーさんは私を見つけて駆け寄ってきたわ。


そうして私の顔をじっと見て、手足を確認して、ほっと息をつくとへなへなと座り込んでしまったの。


「良かった…」


私は大丈夫。どこもなんとも無いわ。


「リーさん、怪我してる」


額に血が滲んでいるわ…。


「かすり傷です。心配には及びません。ヨツバ様がご無事で本当に良かったです」


ぎゅ、っと私の手を握り、そう言って微笑むリーさんに、本当に申し訳ない気持ちになったわ。


それからは大騒ぎよ。

救急の医療班や救護隊のひとたちやブラッドリー王子の警備隊のひとたちが駆けつけて来たわ。


大きな怪我をしたひとはいなかったけれど、飛んできた物が当たったり、びっくりして転んだり、大きく無い怪我をしたひとはたくさんいた。

爆風に吹き飛ばされたのは私ぐらいだったけど、ジャン・リード様のおかげで無傷だったし、ジャン・リード様も少し打ち身があるくらいで済んだよう。


もちろん、ビアンカさんも無事よ。

壊れた机や塵のようになった書類や粉々になった様々な器具を見て、呆然としてらしたけれどね…。




「そんなに気を落とさないで、ビアンカ。みんな無事でよかったじゃないの」


さらさらのストレートヘアを揺らしてマデリンさんが言う。


「ええ。みんなが無事だったことは良かったのだけれどね…」


はふ、とビアンカさんはため息をつく。


「そうですよ、ビアンカ。事故ですもの。人的被害がほとんど無かったことが1番ですわ。損害については、少々頭が痛いところですけれど」


レイラさんはそう言って、悪戯っぽくウインクしたわ。


「でも、どうしてそんなことになったの? 爆発したのは試作機だと聞いたけれど」


キャロルさんは怖いわ、と首をすくめる。


「それが…。あれはまだ動力源をどうするかを検討中で結論が出てなかったのよ。だからスイッチが入るはずは無かったの。どうしてあんなことになったのか…」


首を振るビアンカさんの肩を慰めるように叩いて、ティナさんが私を見た。


「最初に異変に気付いたのはヨツバちゃんだったんですって? 聞いたわよ? 無茶をしたそうね? だめよ。もっと自分のことを大事にしなくちゃ」


めっ、と可愛く睨まれちゃったわ。


「本当よ! あの瞬間は血の気が引いたわ。ジャン・リード様がいらっしゃらなかったらどうなっていたか」


ビアンカさんも大きな目を潤ませて私を見たの。


「ごめんなさい」


反省してます。本当に。だからそんな目で見ないで下さい。

基本的に、私は大丈夫です。

でも、自分の力を過信し過ぎないようにしなければいけない、とは思ったわ。


だって、本当にジャン・リード様が助けてくれなかったら危なかったもの。


そしてここでジャン・リード様のお名前が出たことは好都合。

私は出来るだけ自然を装って尋ねたわ。

小首を傾げて、可愛く見えるように笑みを浮かべて。


分かってるのよ、かわい子ぶりっこしても似合わないって。

でも、ティナさんをはじめ、ブラッドリー王子の元妃殿下候補である皆さんは、何故だか私に少し甘いところがあるし。


えへっと笑うと、みんなも釣られたように笑みを浮かべる。

さり気なく聞くのよ。ちょっと聞いてみた、って感じでね。

よし。


「その、私を助けて下さったジャン・リード様は、どんな方ですか?」


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