現場検証
綺麗に削られたかき氷に生レモンのシロップとハチミツ。レモンの酸っぱさと蜂蜜の甘さが絶妙にマッチして、暑さに萎れる身体に冷たい氷とともに染み渡っていくの。
「ん〜♡ 冷たくて酸っぱくて甘〜い! それにこのハチミツ! コクのある甘さで、でもしつこくなくて、本当に美味しいですわ!」
ティナさんがうっとりと言うと、あまり表情を変えないタカネさんがほんの少し嬉しそうににやにやするの。
「氷もふわふわです。タチバナさんに頼んだって言っていたかき氷機、出来たんですね?」
「ああ。氷も特注で作ってもらったかき氷用の氷だ」
「へえ。かき氷用の氷なんてあるんだ。知らなかった。このレモンのシロップ、酸っぱさが良いね。甘いやつは苦手なんだけど、これは本当に美味しいや」
ヒレンさんがさくさくと氷とシロップを混ぜながら絶賛する。
その横で、珍しそうに氷をスプーンで掬っているのはブラッドリー王子よ。
いつもの畳のお座敷で、4人でかき氷を頂いているの。
暑い日のかき氷は格別ね!
お座敷に座りきれなかったから、セスさんとジェリーさんはカウンターの席よ。
ティナさんとね、かき氷を食べに行こうって話していたら、みんなも行きたいって言ってね。
今日は大人数でやって来たのよ。
「これは確かに美味しいな。氷を削って味をつけているのか」
感心したように味わうブラッドリー王子に、ティナさんはひんやり風味の視線を送るの。
「本当にいらっしゃるとは思いませんでしたわ。お忙しいのではありませんの、殿下? のんびりなさっていてよろしいのですか、お仕事は?」
ティナさんったら、とげとげね。
ブラッドリー王子は優雅な笑みを浮かべて答えたわ。
「王宮を離れていた間にたまった仕事は片付けたよ。ご心配なく」
「まあ、そうですか。では、殿下は時間にゆとりがあるようだとレイラに伝えておきますわ。決裁をお願いしたい案件がたくさんあるようですから」
「………………」
無言で微笑み合うの、やめてもらえないかしら。怖いわ。
2人のお陰でこの部屋よく冷えてるわよね。
「ところでヨツバちゃん、何か聞きたいことがあるんじゃなかった?」
ヒレンさん!
空気を読まない強い心臓、ありがたいわ!
「そうなんです。ヒレンさんは火の玉の作り方、知ってますか?」
「火の玉? 肝試しでもやるのかい?」
ヒレンさんはなんだか楽しそうに首を傾げたわ。
「やってるひとがいるんですよね。みるみる増えてあっという間に消えたので、どうやってるのか不思議で。ヒレンさん、元の世界で学校の先生だったって言っていたから分かるかな、と思ったんです」
「ヨツバはあれが人工物だと考えているのか?」
微笑みながら睨み合うっていう奇妙なにらめっこは中断したみたい。ブラッドリー王子は食べることを再開しつつ言ったわ。
「自然に点いたものなら、あんな風にさっと消えたりしないと思うんです」
誰かがつけて、そして消したんじゃないかしら。
まあ、幽霊がジェリーさんの悲鳴に驚いて消したって可能性も無きにしもあらず、だけど。
あのとき、ブラッドリー王子と2人で例の場所に行ったとき、ね。
念のためセスさんとジェリーさんがついて来ていたのよ。ブラッドリー王子は王子様だものね。何かあったら困るでしょう?
もちろん、ブラッドリー王子は武闘に優れた王子様よ。ちょっとやそっとのことでは「何か」なんて起こらないわ。
だけど、予想できない「何か」に備えるのか近衛のお役目だとかなんだとか。
そう言って嫌々ついて来たのよ。セスさんは自分一人で大丈夫って言ったんだけど、私っていうお荷物が一緒だし、怪しげな現場だし、おばけに襲われたりしたら腕に覚えがあってもどうなるかわからないでしょう?
私がいれば危機回避は可能だと思うけれど、大丈夫だって強く言うことも気がひけるじゃない?
だって、あくまで「占い」としか話してないのだもの。
そう言えばあのとき。
最初は「出ない」と思ったのよね。思った、というか「出る」未来が視えなかった、というか。
未来が変わったのは、何故だったのかしら…。
「火の玉、かぁ。いろいろ作り方はあるんじゃないかな。オーソドックスなのは綿の布にライターオイルを染み込ませて火をつけるやつだと思うけど」
ヒレンさんがそう言うと、ティナさんは表情を曇らせたわ。
「火の玉、というのは亡くなった方の御魂でしょう? 恨みを残したままこの世を去った怨念が彷徨う姿だと聞きますわ」
「僕たちの世界でも、亡き人の魂だと言うひとはいましたよ。他にも、土葬された際、人体から発生したリンという物質が発火したものだという説もありますね」
リンが発火、かぁ。墓地で目撃されたりするやつよね。
「それ、触ったら熱いですよね?」
「そりゃあ、火だからね」
そうよね。
でも、あと少しで触れそうだった、あの火は熱さを感じなかったわ。
考え込んでいると、ヒレンさんが言ったの。
「ヨツバちゃん、こちらの世界には魔法石があるじゃない? 火の玉を作る魔法石、とかがあったら簡単にできるかもしれないよ」
そうか。
思わず手を打ってしまったわ。
発火の魔法石と消火の魔法石ならあるじゃない。
…でもそれ、やっぱり熱いわよね??
「熱くないのならアルコールかもね」
ヒレンさんは私の顔色を読んでか補足するようにそう言ったわ。
察しがいい、というか。さすが「先生」って感じね。
「アルコール? アルコールを燃やしたら熱くないんですか?」
「もちろん、燃えている火は熱いよ? でもアルコールの部分は熱くない。炎を口に入れるマジック、テレビとかで見たこと無い?」
「…あります」
「ああいう感じ」
…なるほど? 火を食べるマジック、凄いというより怖かったな。口の中、焼け爛れちゃうんじゃ無いかと思って。
でも、熱くない工夫がされていたのね。…まあ、そりゃあそうよね。
「何者かが、火の玉を工作しているというのですか? なんて罰当たりな」
罰当たり…。
こちらのひとの感覚ではそうなのかしら。
「でも、なぜそんなことをするのでしょう?」
ティナさんはそう言ってきゅ、っと唇を結んだ。
なぜ、そんなことをするのか。
「それはおそらく、あの場所にひとを近づけたく無いから、だと思います」
だから、おばけを演出してひとを遠ざけているのではないかしら。
私が思っているよりも、こちらのひとはおばけを怖がるみたいだし。
私の言葉にブラッドリー王子も頷いた。
「あの場所。円形にスペースの空いた、あの場所だな? あそこに、なにがあるんだ」
私はにっこり微笑んだ。
百聞は一見にしかず、と言いますしね?
「見に行きましょう。今から」
さくさくと「あの場所」に向かって歩く。
結局、ヒレンさんとティナさんも一緒に行くことになって、セスさんとジェリーさんとブラッドリー王子と私の6人で向かったわ。
まだまだ明るい昼間だから、昨夜とはかなり様相が違うわ。
眩しい太陽の光を深い緑色の葉が元気よく跳ね返しているの。
後ろの方でぶつぶつと文句を呟く声が聞こえるけれど、気にしない気にしない。
さあ、着いたわよ。
「まあ。小さなお花がたくさん咲いて、なんだか可愛らしい場所ですわね。少々意外ですわ」
ティナさんがきょろきょろと辺りを見回す。
私はしゃがみ込んで咲いている花をよく見てみたわ。
小さな青い花。
花びらが、羽ばたく蝶のように見えることから、ブルーバタフライと呼ばれる花よ。
「花、か?」
「はい。たぶん」
ブラッドリー王子が同じように花を眺める。
青い花びらが咲き並ぶ中、私の前に花開くのは黄味を帯びた白い花びら。
おそらくこの白い花が理由なのではないかしら。
ブルーバタフライなのに、白い花を咲かせている、この花。
「これも可愛らしいですわね。なんていう植物でしょう?」
ティナさんが触っているのは、パンパスグラスかしら? もこっとした、長毛種の猫の尻尾みたいな植物よ。
よく見るとちらほらとあちらこちらに生えているわ。
風に揺れると本当に動物の尻尾みたい。
「ねえ。つまり、やっぱり、あの火の玉は作り物だったわけ? 誰かがここに近づく人間を追い払うためにやったってこと?」
ジェリーさんが、随分とムッとした様子で言ったわ。
まあね。相当にびびらされていたものね。
「そう、いうことですかね」
ぐぐぐ、と唸ったジェリーさんは、それからきっ、と顔をあげたの。
「ちょっと。次にそいつらはいつ来るの? 理由の如何を問わず、絶対とっちめてやる!」
あらら。
でも、そうね。
火の玉なんかでひとを脅かして追い払うなんて、真っ当なやり方じゃないわよね。
「いい考えがありますよ」
にんまり笑うと、ジェリーさんは実に胡散臭そうに私を見たのよ。
失礼しちゃうわ。
ああ、そうだ。その前に、「見た」と報告した隊員さんの話を聞かないとね。
それから、タチバナさんに小道具を作ってもらわなくっちゃ。




