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見つけた

「どうしたんだ?!」


焦って立ち上がった私に、タカネさんが怪訝な目を向ける。


「蜂です。大きな巣がある。急いで駆除して欲しいって伝えて下さい!」


「蜂? ミツバチか?」


「えっ?!」


み、みつばち、かなぁ?


「…あまり大きくなくてまるっこいしましまの」


「よし、俺も行く。案内しろ」


タカネさんは厨房のスタッフにタチバナさんに連絡するように声をかけていたわ。

その声を背中に聞いて、待ち切れずに私は走り出した。


必死に走るけど、長いスカートとヒールのある靴のせいで走りにくい。ええい。靴は脱いじゃえ!

この王宮はお掃除が行き届いているから色々きっと大丈夫!


脱いだ靴を手に持って、また走る。

もう少し。

もうちょっと。


見えた!


大きな木の下、見知った後ろ姿が身をかがめ、たおやかな白い手を何かに伸ばしている。


「待って、ティナさん! それに触らないで!!」


「えっ?」


あ。


驚いて振り返ったその手には、落ちていた何かが握られていて。


同時にぷつんと、糸が切れるような音が聞こえた気がした。


直後。


ぶぅん。とゾッとするような羽音が鳴ったの。


「ひ!」


目の前に現れた小さな凶徒にティナさんは大きな瞳をさらに大きく見開いたわ。


「きゃ、むぐっ」


ごめんなさい!

私は、ティナさんの口を手で塞いで溢れそうになった悲鳴を抑え、振り上げられた手を掴んだ。


「落ち着いて、ティナさん。大丈夫だから。大きな声を出さないで。手で振り払ったりしちゃダメ。このままゆっくり下がりましょう。いい?」


恐怖に震える瞳をのぞき込んで小声で伝えると、ティナさんはこくこくと頷いた。

ぶんぶん飛び回る蜂の羽音が耳元で聞こえると本当に怖い。

本当は走って逃げたいわ。だけど蜂は、大きな動作や大きな音に反応する。


私はティナさんの顔から手を離し、その手をしっかり握って、一歩一歩ゆっくり、じりじりとその場から離れた。



「もう大丈夫、かな」


振り返ると、駆け付けてきたタチバナさんとタカネさんが蜂の巣を見上げていた。

ヘナヘナと座り込むティナさんのそばにしゃがみ込む。


「そこでじっとしていろ」


タカネさんの声に頷いて、2人を見守った。

タチバナさんは火炎放射器みたいなものを持っていたわ。

細いホースの先から火が出るの。

その火で飛び回る蜂を炙っていくのよ。

…刺されてないのかしら、あれ。


タカネさんも、結構たかられているのに気にした様子もなく蜂の巣を取ろうとしているわ。


ときどき顔をしかめて、ちっと舌打ちまでしてる。


刺されているわよね、どう見ても。

そんなに巣が欲しいのかしら。


脚立が用意されて、タカネさんが慎重に登り手を伸ばす。その周りで飛び回る蜂をタチバナさんが燃やしていくの。


そうして、枝についた大きな蜂の巣をタカネさんがゆっくり下ろし、大きな袋で包んだ。


蜂の巣があまりに大きかったから、ティナさんは息を飲んだわ。

でも私は蜂の巣が付いている枝の方が気になった。

その枝、その大きな木の枝ではないわよね?


巣を奪われた蜂の攻撃を躱してタチバナさんが反撃する。しばらくして、飛んでる蜂は見えなくなったわ。


「大丈夫か? そっちのお嬢さんも刺されてねぇか?」


タカネさんが心配そうに声をかけてくれたわ。

でも、密かに嬉しそうよね。蜂の巣が手に入ったからかしら。


「はい。ありがとうございました。お陰様で助かりました。ヨツバちゃんもありがとう。助けてくれて」


立ち上がってティナさんは丁寧に頭を下げて微笑んだわ。

タカネさんはちょっぴり赤くなった。


「ずいぶん大きな蜂の巣だね。こんなになるまで誰も気がつかなかったのかな。はい、ヨツバ。靴、履いて」


「あ、ありがとうございます」


あら。ラウル王子も来ていたのね。

靴、そういえば途中まで持っていたけれど、いつの間にか手放していたわ。

ラウル王子は私の前に靴を揃えて置きながら、タカネさんの持つ透明な袋を見て言ったの。


「どこかに出来ていたのを、枝を切ってこの木の枝に引っ掛けたんだろう」


「誰かが、わざわざ?」


そこに、割って入ってきた声があったの。


「ティナお姉様! 大丈夫ですか?」


栗色の巻き髪。白地にピンクの刺繍が入ったドレス。大きな瞳にさくらんぼ色の唇。


可愛いわ。これは10人のひとが10人全員可愛いと言うわ。


息せき切って、という体で現れたその女性(ひと)は、ティナさんに抱きつくと上目遣いにティナさんを見つめたわ。

お姉様、と言ったわね。ティナさんの妹さんなのかしら。


「まあ、アリシア。私は大丈夫よ。みなさんに助けていただいたもの」


ティナさんはそう言ってそっと彼女を引き剥がし、私たちに注意を向けるように促した。


アリシアさんはハッとしたようにラウル王子に向き直り、丁寧にお辞儀をしたわ。


「ラウル殿下、ごきげんよう。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」


にっこり。

お人形のように可愛らしいわ。


「ごきげんよう、アリシア。君は相変わらずティナにべったりだね」


「ラウル殿下は今日も守護者(セイバー)様とご一緒ですのね。仲がよろしいんですのね」


にこにこにこにこ。

交わされる会話に見えないトゲを感じるわ…。


ティナさんを見ると困ったように頬に手を当てていた。


「妹さんですか?」


「いいえ。両親同士が親しくしている縁で、小さい頃から親交があるんです。私が王宮に上がった2年ほど後、彼女もラウル殿下のお妃候補に選ばれて王宮に上がったんですわ」


ラウル王子のお妃候補!

そうか。そんなひとがいたのね。

考えたことなかったけれど、いても不思議じゃないんだわ。


「初めまして、守護者(セイバー)様。アリシア・アンディクトです。私、守護者(セイバー)様とお近づきになりたかったんですの。どうぞ、仲良くしてくださいませね?」


やだわ。可愛いわ。

だけど、視えてしまったわ。

あなた、嫌がらせの犯人ね?


「初めまして、アリシア様。未だ不慣れで至らないことも多いですが、私の方こそどうぞよろしくお願いします」


姿を現してくれるなんて好都合。

嫌がらせが上手く出来ると思わないでね。

可愛いからって容赦しないんだから!


密かにほくそ笑んじゃうんだから私も性格悪いわ。

あ、そうだ。


「ティナさん。さっき、何を拾っていたんですか?」


「あら、いけない。これ、ヨツバちゃんのじゃない?」


それはレースのハンカチだったわ。青紫のグラデーション糸で全面に模様が入ってる。広げると星空のようでキレイ。


「…はい。ありがとうございます。少し前に失くしたものです。こんなところに落としていたんですね」


私はハンカチを受け取って、お礼を言った。




「まあ、ヨツバ様。その背中、どうなさったんですか?」


夜、お風呂に入るために着ていたワンピースを脱いだらパールさんが頓狂な声を上げたわ。


「ちょっと、虫に刺されちゃって。腫れてる?」


「腫れてます。酷いですよ、痛いでしょう。長湯せずに上がってください。薬を用意しておきます」


言われた通りにささっと入浴を済ませ、背中に薬を塗ってもらった。ひんやりして気持ちいい。


正直、そこそこ痛いわよ。でも、騒ぎ立てるほどじゃないし、痛がっているところを見られるのも嫌だったの。

それに、この痛みは原動力になる。


ソファに寝そべったまま、ティナさんが拾ってくれたハンカチを広げてみる。

すみっこに、細く長い糸が縫い付けられているわ。


「なんですか、そのハンカチ? ヨツバ様のものではありませんよね?」


「ええ。拾ったのよ。持ち主に心当たりがあるから、今度聞いてみようと思っているの」


この青紫はブラッドリー王子のカラーと言われているものよ。この色を使った女性もののハンカチだから、ティナさんは私のものではないかと思って拾おうとしてくれたのね。


でも、この色はブラッドリー王子のカラーだからといって他の人が使えないわけではないわ。

好きに使っていいのよ。

好意の表れとしてその王族のカラーをファッションに取り入れることはよくあるらしいしね。


推しアイドルや推しキャラクターのイメージカラーを身につけるのと似た感じかしら。


だけど、このハンカチが落ちているのを私が見たら、自分のものでないかと考えて手に取る可能性は大いにあるわ。きっと拾って広げてみるわ。

そうすると、縫い付けられていた糸が引っ張られて、蜂の巣を刺激する仕掛けがされていたのでしょうね。


ティナさんが刺されなくて本当に良かったわ。


さて。どうしてあげましょうか。


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