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企み

「この男だ」


リストの中のひとりの男性を指差して、伯爵は言ったわ。


それは、ジェリーさんにお願いして用意してもらった、とある職業に就いているひとたちのリスト。

このリストを用意して欲しいとお願いしたとき、ライドさんもジェリーさんもとても複雑な表情(かお)をした。


そして今、それは鎮痛な面持ちへと変わったの。


心中お察し、は正直あんまり出来ないわね。

そのひとが、どういうひとか知らないし。

どんな関係のひとなのか、聞く気にもなれないわ。


だって、2人とも、とってもショックを受けてるっぽいのだもの。

聞けないわよ。

どの道、クーデターは防がなくちゃならないのだし。

そのひとがどんなひとであれ、敵の目的は王宮から政権を奪うことなんだもの。


奪われないように、しないといけないわよね?



本当はね、何が正しいかなんて分からないの。正義なんてとても不確かであやふやなものでしょう?


特に私は、この世界に来たばかりで、王宮のことも、その政治も、国民の不満も、ちゃんと理解しているわけじゃない。

だから、「クーデターを防ぐこと」が本当に正しいことなのか分からないの。


でもね。

この世界に来て、行き倒れていた私を救ってくれたのはライドさんだから。


私は、ライドさんを助けたい。



ライドさんはひとつ小さく息を吐いて言った。

「諦めると思うか?」

「ナイでしょ。ここまで準備するのに、時間も金も相当使ってるはずだし」

「だよな」

ジェリーさんの返答に頷きつつ、ライドさんは私を見たわ。


「ヨツバ。敵は、こちらの動きに気付いても、計画を断念することはないだろう。むしろ、こちらがビーストのコロニーを押さえることを前提に何か仕掛けてくるかもしれない。どう思う?」


う〜ん。どう、と言われても。

今の段階では特に何も視えないのよね。

でも、そうね。

私たちがビーストのコロニーを見つけるだろうことは、敵も予測してるわよね。

私たちが、ビーストのコロニーを見つけたら…、どうなる?


「そのひとの目的は、王宮から政権を奪うこと、ですよね? それって、具体的にどうなったら奪ったことになるんですか?」


「…この国の主権は国王にある。国王が亡くなれば、王位継承権を持つものがその地位につく。つまり、王族を全て亡き者にし、王宮を制圧すれば目的は果たされることになるな」


王族を全て殺し王宮を制圧…。

「それは、100人のハンターさんに出来ることですか?」

「…正面切っては不可能だろう。王宮には警備の武人が多数配置されている。だが、予め内部に入り込んでいる場合は、あるいは」


予め…。そうよね。王宮はハンターさんが反王宮組織を結成しているなんて知らないのだもの。

それとは知られずに、王宮スタッフとして入り込んでいることは考えられるわ。


そのひとたちが一斉に反旗を翻したら?

ぞくっ。

やだやだ。血まみれの王宮が見えた気がしたわ。

だめよ。だめだめ。そんなことにはさせないんだから。


「具体的な計画の内容、聞いてないの?」

ジェリーさんに問われて、フドウさんは首を横に振ったわ。

「ここは、あんたたちに最初に見つかる場所だから。捕らえられた時に何も知らない方が、コトが露見しなくて良いって言ってたよ」

「なるほどね」


聞かされていなくても、反王宮組織にスカウトされたハンターさんたちが敵の主戦力であることは間違いない、わよね?


だったら、やっぱり…。

「反王宮組織のハンターさんたちに、こちら側に寝返ってもらいましょう」


「うん?」

きょとんとしないで、ライドさん。


「もう一度、フドウさんに屋敷を抜け出してもらって、“その(ひと)”に私たちのことを伝えてもらいます。そのときに誰か、口の上手い…、と言うか説得の上手なひとに同行してもらって、反王宮派のひとたちに王宮派になってもらうんです。“その(ひと)”には気づかれないようにね」


「ふむ」

「…ちょっと? 簡単に言ってるけど、それってそんなに簡単じゃないと思うよ」

ジェリーさんに呆れたような顔をされてしまったわ。


たしかに、簡単では無いと思う。

これまで散々、王宮への不信感を煽ってきたのでしょうし、急に正反対のことを訴えても、それこそ信じてはもらえないでしょうね。


だから、口の上手いひとが必要なのよ。

上手に丸め込んでもらわなくちゃいけないのだもの。


なんとなく、つい、ダネルさんを見てしまった。

そうしたら、リアムさんがぷっと吹き出したの。


「そうだな。俺もこいつが適任だと思うぞ」

「それはどういう意味です?」

「有能だってことだよ。任せたぞ」

「…仕方ありませんね」


ダネルさんは不敵にふふんと笑ったの。

うん。ダネルさんなら口八丁手八丁で上手くやってくれるわ、きっと。


「ダネルさんが行ってくれるなら、まあ、なんとかなりそうだね」


ジェリーさんも多分同じこと思ってるわよ。

ライドさんだって、苦笑気味の笑みを浮かべつつも頷いているもの。


「それで、どうする?」

「ビーストのコロニーを討伐するため、という理由で王宮に増援を依頼して下さい」


「それは、警備の者を、という意味か?」

「はい。本当にここまで来る必要はありません。王宮の警備が手薄になった、と思わせることができればいい。敵はその隙を突いてくると思います。おそらく、コルウス森林公園に集められたビーストは、そのための囮です」


「タイミングが重要だな」

「はい。そのときには私たちもこちらを終わらせて、王宮の近くで待機したいです」


「ちょっと待ってよ」

あら。なあに、ジェリーさん?

さくさくと話を進めすぎたかしら。ジェリーさんは、ちょっとびっくりしたように、再び声を上げたのよ。


「もともと、王宮への増援依頼はする予定だったんだよ? でも、今の話だと実際に来てもらうわけにはいかないんだよね? それって、こっちは大丈夫なの? 増援無しでビーストのコロニー、潰せる?」


…無理なの?


ライドさんを見ると、ライドさんはそのまま私の視線をリアムさんにパスした。


リアムさんはまるで頭痛を堪えるように眉間を拳でぐりぐり揉んでいるわ。


「…100頭近くいるって話だよな? しかも、幼獣は捕獲したいんだろ。手配できているのは60人ほどだ。大丈夫、とは言い切れねぇな」


60人か。

でも、100頭をいっぺんに相手にするわけじゃないし、こちらには武器もあるでしょう?

無理、かしら?


「お嬢ちゃん。全員にあんたがついて、攻撃や防御の指示が出せれば良いが、そうはいかないだろう? 60人いると言っても、みんながみんなライドやセスみたいな戦闘巧者じゃないんだぞ?」


…考えを読まれちゃった。

みんながみんなライドさんやセスさんみたいに強くはない、か。

「じゃあ、何とかしてビースト側の戦力を削がないといけないですね」

「…あくまでも現行の手数でコトを進める気か? 強気だな、お嬢ちゃん。だが、無謀な作戦には付き合えねぇぞ」


だって、王宮の防御力が下がるのは絶対にダメなんだもの。

でも。

だからと言って、60人のハンターさんを危険に晒すわけにはいかないわよね。それはごもっともだわ。


ひとつの命も落とすことなく、コロニーを壊滅させなければ。


どうしたら良いかしら。

…そうね。ビーストを弱めることが出来れば良いわよね?


私は伯爵に尋ねた。

「ビーストに、餌を与えていますよね? その餌に薬を混ぜるのはどうでしょう?」

「毒物を混ぜたことはあるが、ビーストは毒物の混入した餌は避けて食べていた。薬の種類にもよるが、まず食べないと考えた方がいいだろう」


うん、そうよね。


「では、お酒はどうでしょう?」

「酒?」

「はい。お酒を飲ませて酔わせるんです。酔っ払えば動きは鈍くなると思います」

寝入ってくれればなお良いわよね。


「それは…、なるほど。今日、餌を与えるときに酒も置いてみよう」


「あとは、マタタビってありますか? 木天寥(もくてんりょう)とも言いますが」

「…うっすら聞いたことがあるよ。薬の名前だよね?」


みんなが首を傾げる中、ジェリーさんがそう言ってくれたの。

良かったわ。そんなものは無いって言われたらどうしようかと思った。


「はい。鎮痛とか強壮とか、そういった効果がありますが、猫科の動物には恍惚感を与えると言われています。要するに、酩酊状態に近い感じになります」


ビーストのライオンの部分は上半身を司ってるようだったわ。だから、ライオンの部分だけでも酩酊させられれば、かなり攻撃力は落ちると思うの。


「酒に酔わせてビーストを倒そう、とは。面白いことを考えたものだな」

ライドさんが感心したように言うのよ。


「そうですか? 私の世界では、古式ゆかしい魔物退治の手法ですけど」

先人の知恵よ。神話の男神が巨大な蛇の魔物をたった一人で倒したときの方法だもの。


「そう、なのか?」

ライドさんは、またちょっとだけきょとんとしたわ。


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