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思惑

森林公園。しかも王宮所有。


「灯台下暗し…」


つい思った通りに口にしたら、とても渋い表情(かお)をされたわ。主に、ライドさんとジェリーさんとセスさんに。


失言だったかしら。


くっ、と堪えきれないような笑いを漏らしたのはリアムさんだったわ。

「全くだ。さっそくその森林公園を調べるべきだな」

「ま、まだそこにコロニーがあるって決まったわけじゃ無いし!」


ジェリーさんが上目遣いにリアムさんを見たわ。

そんなジェリーさんに、リアムさんはちょっと肩をすくめて見せると、ライドさんに言ったの。

「調査に必要な人員は手配しよう。入れるようにしてくれ」

「分かった。助かる」


ライドさんの視線を受けてジェリーさんがささっと立ち上がると何処かに行って、すぐに戻って来た。


頷き合うライドさんたちを見つつ、余計な口は挟まないように気をつけたわ。藪蛇になるのは必定だもの。沈黙は金。


「人員の確保と言えば…」

ライドさんが思い出したようにリアムさんに言った。

「なんだ?」

「ビーストの養殖を考えている。それにも協力してもらいたいんだ」

「養殖? ビーストを?」

「ヨツバの発案だよ。上手くいけば、安定と安全を兼ね揃えたビースト及び魔法石の入手が可能になる」

悠々とした笑みを浮かべて、上手くいくことを確信しているかのようなライドさんの口振りに、背中がひやっとしたわ。


…発案? 私の…?

そんなつもりは無かったわよ?

ただ聞いただけだったのに。…え? 私が発案したことになっちゃうの?

って言うか、やるの? ビーストの養殖?


チラリと盗み見るつもりが目が合ってしまった。

そんなに素敵な流し目、寄越さないでください…。


リアムさんは驚いたような、呆れたような、そんな表情(かお)。でもちょっと面白がるように口の端が上がってる。


「そりゃ、上手くいけばそうだろうが…。そもそもまずどうやるんだ。生け捕る気か? 出来ると思うのか?」

強く問う視線を向けられて、咄嗟に、つい反発するように、答えてしまったのよ。

「成獣は難しいと思いますが、幼獣ならどうでしょう?」

「幼獣?」

訝し気に返されて、さらに答えてしまったわ。

ああ。負けず嫌いな自分の性格が恨めしい…。

「はい。コロニーを形成していると繁殖のスピードが早いと聞きました。きっと、コロニーには幼獣がいます」

リアムさんはがしがしと頭を掻きながら、うーんと唸った。

「確かに、成獣よりは捕獲出来る可能性が高いかもしれないが、養殖、つまり飼育して繁殖させるためには傷付けずに捕まえる必要があるだろう? 幼獣とは言ってもビーストだ。犬の子を拾ってくるようにはいかないぞ。あんまり幼いと、母親無しでは育たないだろうしな」


そう言われて、ハタと気づいたの。

リアムさんが難色を示す、その理由よ。


「もしかして、「麻酔銃」って無いですか?」


猛獣を捕まえると言ったら、その方法として一番に思いつくのは麻酔銃で眠らせるというもの。

だけど、もし、麻酔銃そのものが無かったら?

ライドさんたちが普通に銃を使っていたからあるものと思い込んでいたけれど、ここは異世界。

元の世界にあるものが、同じように有るとは限らないんだわ。

麻酔銃が無いのなら、リアムさんの言う通り、幼獣でも捕獲は難しいかもしれないわ。

母親が、守ろうとするだろうし…。


「麻酔銃…」

ライドさんの目は、初めて聞いたと言わんばかりよ。

え…? ちょっと待って?

「麻酔はありますよね?」


思わずすがるように見てしまったわ。

だって、万が一麻酔が無かったら、よ? 大きな怪我をしたらどうするの? 手術が必要な病気をした時は?

麻酔無しで切ったり縫ったりする治療、受けたくないわ。恐ろしいわよっ!



焦る私を見て、ライドさんはくすりと笑った。

私がビビっているの、察してくれたかしら。


「麻酔はある。心配するな。だが、それを銃で打ち込む、と言うのは考えたことはなかったな。具体的にどうするのか分かるか?」


具体的に…?

銃の仕組みなんて知らないわ。

でも確か、麻酔薬の入ったシリンジを空気銃で撃つんじゃなかったかしら。


とてもざっくりとした説明を、ライドさんたちは真剣に聞いてくれたわ。聞きながら、セスさんが紙に何か書き込んでる。

さらさらと書かれたそれは簡略化した設計図っぽい。

ダネルさんが図を覗き込んで、ここをこうしたら、とかこっちはどう、とかセスさんと話してるの。

少しして、セスさんが「出来そうだ」と言ったわ。


良かった。ほっと胸を撫で下ろしていたら、リアムさんが私を見たの。


「あんた、ひょっとして…」

「はい?」

なんでしょう?

首を傾げると、隣でライドさんが制するように呼びかけたの。

「リアム」

「………………ふむ」


ちょっとの間、2人は目で会話するように見つめ合っていたわ。


…テレパシー?

まさかね。


不意に、リアムさんが私を見てにやりと笑ったわ。

リアムさんは野性味の強い風貌で、ハンサムさんよ。他の人ならいやらしく見えてしまいそうな笑い方も、色気に変えてしまう雰囲気がある。


どきっとしちゃったわ。


「貸しにしとくぜ」

…貸し?

「ああ、借りておく。が、すぐに返すよ。倍にしてね」

「釣りは出さないぜ?」

冗談めかして言うリアムさんにライドさんもちょっとだけ戯けた様子の笑みを見せたわ。

「チップさ。とっておいてくれ」


…なんて言うか。このテーブル、改めてイケメン率が高いわ。特にライドさんとリアムさんは私好みのハンサムさんで、2人のやり取りは目の保養よ。


話している内容は分からないフリをしておこう。

だって、どうやらライドさんに借りを作らせてしまったみたいじゃない?


リアムさん、私がマヨイビトだってことに勘づいたのよね?

なんで分かったのかしら。やっぱり言動が異質なのかしら。

…ジェリーさんの視線が冷ややかで尖ってるのよ…。

刺さるわ。痛いわ。

ごめんなさい。気をつけます。


それにしてもライドさんったら、倍にして返す、だなんて。アテはあるのかしら。

獲らぬたぬきのなんとやら。


うううん。そんなことにならないよう、頑張らなくちゃ。

ライドさんに恥をかかせるわけにはいかないものね。



密かに拳を握って気合を入れる。

よし。

出来るだけ早く、コロニーを見つけるぞ!


地図の上を動いていく光を見つめていたら、セスさんが静かな声で言ったわ。

「ビーストの追跡と並行して森林公園の調査を行うとして、そこにコロニーが無かった場合はどうする?」


森林公園にコロニーが無かったら?

うーん、そうね。

「発信器を付けたビーストが、コロニーに帰るように仕向けたいですね。撃退すれば逃げ帰るかと思ったけど、餌を用意した方が良かったかしら。持って帰りますかね?」


ビーストの習性なんて分からないけれど、一般的に母親は餌を獲って子供の元に運ぶわよね?

群なんだから、母親じゃなくたって群の子のために、成獣が餌を運んだりしないかしら。


「群に属しているならいずれ群に帰るさ。群っていうのはそういうもんだ」

リアムさんがそう言って、心配するなと笑うの。

その横で、ダネルさんが頷きながら言ったわ。

「それにしても、厄介な魔法石があったものですね。懐柔の魔法石だなんて。それを使えば、メーアに行ってひとを襲えとビーストに命令できるのですか?」


誰にともなく問いかけられた言葉にみんなが首を傾げる。

でね。なぜだか分からないけれど、みんな、私を見るのよ。

私より、ジェリーさんじゃない?

だって、懐柔の魔法石のこと調べたのはジェリーさんなんだもの。


「そんな具体的なことは書かれてなかったよ。使用が禁止されてる魔法石だし、良からぬことを考える輩が出ないように詳しいことは極秘扱いだよ。簡単には閲覧できないんだよ」


なるほど。そうか。使われたくないから教えないってことね。


「ヨツバさんはどう思いますか?」

にこにことダネルさんが私を見るのよ。

キツネを思わせる美形よね、ダネルさんは。


そうね、私は。

「メーアに行ってひとを襲えと指示したとして、ビーストにそれを遂行できるとは思えません」

しん、とほんの一瞬、沈黙が落ちてきた。

「…なぜです?」

にこにこと貼り付けたような笑みを崩さずにダネルさんが言うの。

セスさんと同じように感情の見えにくいひとだけれど、隠し方が対照的。


「懐柔の魔法石を使ったからと言って、動物がひとの言葉を理解するとは思えないからです」

「どういうことだ?」

「懐くと思うんですよ、魔法石の効果として。だけど、ひとと会話は出来ないと思うんです。「メーア」という言葉がなにを意味するのか、「ひと」という言葉がなにを意味するのか、「襲え」という言葉がなにを意味するのか。根気よく教えれば、合図に合わせて動作を覚えると思いますけれど、言葉の意味は分からないでしょうね」

犬が、「お手」の合図でひとの手に手を載せるように、「待て」の合図で待つように、合図と求められる行動を覚えて実行することが、ビーストにもできると思うの。

でも、犬にとって「お手」は記号だわ。「手」が何かを分かっているわけじゃない。


「ひとに懐柔の魔法石を使ったなら、「仲間を5人連れてこい」とか、「指定の場所で待機して通りかかった人間を襲え」とかって指示をちゃんと理解して実行できますけれど、動物には無理だと思うんです」

「だとすると、どうやって?」

「はい。だから今回も、例えば「仲間を連れてこい」と指示はできても数までは指定できないと思うんです。ビーストに、「1頭足らないからもう1頭来て」みたいなやり取り、できると思います?」


くす、っと笑ったのはダネルさんかしら。


「だから、指示はごく単純なものだと思うんです。「仲間を連れてこい」「ついて来い」「この場所で待て」みたいな。もし、「メーアに行ってひとを襲え」と指示したかったとしたら、メーアに続く道まで誘導してから、「この道をまっすぐ進め」と指示出来る程度ではないかしら。ひとを襲えと指示しなくても人間に出会えば襲うでしょうから、その指示はきっと必要ない。ただし、メーアに着く前に気が逸れることがあればメーアには辿りつかない可能性もあると思っています」


「なるほど。厄介ですが、使う側にとってもそれほど便利ではない、ということでしょうかね」

「残念そうに言うなよ」

「気のせいですよ、リアム」

心外ですってダネルさんは言ったけど、私にも残念そうに聞こえたわ…。


「使い方、というか目的次第だろう。正しく使えば有用なものになると思うぞ」

ライドさんの言葉にダネルさんは微かに首を傾げたわ。

「正しい使い方、ですか」


正しい懐柔の仕方…。うん。ちょっと、思い浮かばないわね。

ああ、猛獣ショーとか?


「正しい、と言える目的があったとしても、問題がありますよ」

そう、魔法石には欠点があるわ。

みなさんだって、知っているでしょう?


「問題って?」

ジェリーさんはお代わりした熱々の紅茶を慎重に飲みながら言ったわ。


「魔法石の効果は永続しない、ということです。いずれ効果が切れて、懐いていたビーストも襲いかかってくるようになると思います。もしかすると、コロニーも解散してしまうかもしれません」


コロニーを作った目的ははっきりとはしないけれど、養殖のため幼獣を捕まえたい私たちにとってコロニーの存在は有り難いものでもある。


そんなことになるとは思ってなかったけれど、なぜか、そういうことになっちゃったのだもの。


幼獣を捕まえようとするからには、コロニーがある今はチャンスなのよね。


魔法石の効果がいつまで続くのか分からない。

でも。

敵の仕掛けを逆手にとって、幼獣を捕まえてみせるわ。


「魔法石の効果期間、か。そうだな。さっさとケリをつけよう」

ライドさんはきっぱりと強くそう言った。

みんなが応じるように頷いて、私も気持ちを引き締めた。


うん?

テーブルの下、ぎゅっと握りしめた拳骨が、暖かいものに包まれたの。

顔を上げると、優しい瞳が見つめていた。

大好きな掌の温もりに、私は自然と微笑み返していたわ。


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