表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/71

マーキング

ぞわりと肌を舐めるように、不気味な風が抜けていく。

薄暗闇の中、風はどこか生臭い。


空気が張り詰めて、その緊迫感で心臓がちりちりと縮み上がる。

今にも頭からかぶりと喰われてしまいそうな、そんな錯覚に恐怖で足が竦みそう。


腕に爪を立てて、震えそうになる身体を叱咤する。


しっかりして、四葉。

大丈夫よ。

ちゃんとあたりを探って。ビーストの動向を読んで。数分先を視て。


ビーストは6頭。

少し離れたところにいる大きなビーストはすぐにここを離れるわ。あれは追えない。


残り5頭。

左にいる1頭が最初に飛び出して来る。続けて真ん中、背後に回り込んでくるのが1頭、右に2頭。


ちらりとライドさんが私を見る。

その視線に応えて頷いた。


「全部で5頭。10秒後、左から来ます。その5秒後に真ん中。30秒後に後ろ。来ます!」


「ぐあぁおお!!」


ひええっ! 近い近い! 怖いっ!!


だだだだだだ、っとライドさんが散弾銃を撃つ。目にも留まらぬ速さで弾(?)を入れ替えると正面から飛びかかって来たビーストも続けて撃っていく。


あ!

「ジェリーさん! 右! 来ます! 今!!」

「ちょ、遅い!」


だって〜!


どぅん!! という重たい音がジェリーさんの手にある手持ちの大砲のような武器から響いた。


うっわ、耳痛っ。


大きな音に負けないように、私は声を張り上げる。

「セスさん後ろ! 7時の方向、上! ライドさん、それまだ生きてる。尻尾が!」


「了解」

「分かった」


セスさんもジェリーさんと同じ武器をビーストに向ける。その武器は、大きな音と衝撃で、ビーストの巨体を弾き飛ばした。


「ぎゃうんっ!」

「ぎゃおぉんっ!」

どおんと地面に落ちたビーストがよろよろと立ち上がってこちらを睨む。


ライドさんが正面から向かって来た2頭目を仕留めたところで、私たちは3頭のビーストに囲まれてしまった。


3頭とも、セスさんとジェリーさんの武器の攻撃を数回受けていて、ダメージは少なくないはずよ。

なのに、赤く血走った目ですっごい睨んでて、あんまり怯んだ様子が無いんですけど?


「ちょっと、コレどうすんの」

「あんまり効かないな、その武器」

「物足りない…」

「まあ、殺傷力無いしね」

「それよりアレは?」

「問題ない」

「こっちもばっちり」


暢気ですね、みなさん?!

ずいぶん悠長にお話されているように聞こえますけど?


こちらの隙を窺うようにビーストたちは尻尾を揺らめかせているわ。3頭の内特に大きな1頭が、猫科の動物がそうするように前足を畳んだ前傾姿勢になった。


やばくない?

予知能力なんか無くたって、あれは誰の目にも飛びかかって来るのが分かるわ。

セスさんが武器を構える。


私はライドさんの背後に隠れるようにしていたのだけれど、そのとき、目の前の光景とは別の映像が見えたの。

うん?

「…ライドさん、来ました。たぶん」

「やっとか」


小さくため息をついて、ライドさんが私を見たわ。

もう大丈夫だよって、安心させてくれるような優しい目で。


獲物に飛びかかる姿勢のビーストが、後ろ足に力を込めたその瞬間。

ぴかッと強烈な光があたりを照らし、同時に微弱な電流に触れたときのような、びしっと全身を打つ痛みを感じた。


「ーっ!」


痛いっ。

なにこれ、ちょ、痛っ!

びしっ、びしって、3秒おき位になんか痛い!

しかもどんどん強くなってない?

あうっ!


ひーっ。痛いよー!


「ヨツバ!」

思わず膝をつきそうになったの。でも、ライドさんが支えてくれたわ。その腕に遠慮なくもたれかかって、一定の間隔で襲って来る痛みに震えていたら、その痛みはビーストたちも感じていたらしく、ビーストたちはだんだんと強くなるその痛みを嫌ってか、逃げ出そうとしている。


なんなんだろう。本当に電流みたい。低周波マッサージ機を間違って最大出力にしちゃった時の衝撃に似てる。


「っぐうるるる…。きゃうんきゃうんっ」


怯えたように身をすくめ、ビーストは後退りはじめているわ。


ガタゴト、ぶるるる、と大きな音を立てて何かが近づいて来る。


ガタゴトいってるのは馬車よね?

一緒に聞こえる、自動車のエンジンみたいな音は何かしら?


その、得体の知れない何かから逃げるように、ビーストたちは徐々に距離を取り、やがて走り去って行ったわ。


ほっ、と息をついたのも束の間。


びしっ! 


「痛っ!」

「っつ!」

風が鞭打つような、一際強い痛みににぎゅっとしがみついたら、ライドさんは強く抱きしめてくれた。

よしよしと、頭や背中を宥めるように撫でてくれる。

その手はとても気持ちいいけれど、隙間を縫うようにして襲って来る痛みが、痛っ、痛いっ、痛いってばぁ!


そっと窺うと、セスさんやジェリーさんも顔をしかめている。

ガタゴト、ガタゴトと馬が荷車を引く音がすぐ間近で止まって、

「よお、ライド。無事か?」

よく通る、朗々とした声が響いた。


「リアム! もういいからそれを止めろ!」

「はいはい。ぅおーい! もういいぞぉ!」


そのひとが背後に声をかけると、ぶるんぶるん鳴ってたエンジン音のようなものが止まって、電流にあたるような痛みも止まったの。



「大丈夫か、ヨツバ?」

「…はいぃ。今のは一体?」


本当はあんまり大丈夫じゃないわ。最後の方、かなり痛かった。涙がじんわり浮かんじゃったのを誤魔化すの苦労しちゃう。

すんっ。


「久しぶりだな、ライド」

リアム、と呼ばれていたそのひとは大股で近づいて来るとにかっと笑った。


歳はライドさんたちと変わらないくらいかしら。

野性味のある風貌で、そうね、ガテン系っていう感じのイケメンよ。


「ああ。助かったよ」

頷くライドさんは、若干渋い表情で荷車の上のものを見上げた。


「ジェリー、それにセスも、元気だったか?」

「まあね」

「ああ、変わりない」

笑顔の豪快なそのひとに、ジェリーさんとセスさんも近寄って来るわ。

みんな、お知り合いなのね。

それからそのひと、リアムさんは私を見た。

とても興味深そうに。珍しい動物でも見るみたいに。楽しそうにね。




「変わった?!」

驚きの表情で私を振り返ったライドさんに、頷いて答えた。

「はい、そうなんです」

ライドさんたちは顔を見合わせたわ。



それは昨日の夜のこと。

コロニーの手掛かりになりそうなビーストをどうするか、その作戦会議をしていたときのことよ。

ビーストに発信器をつけて追跡したいわけなんだけれど、それをどうやるか、をみんなで考えていたの。

そのときに昼間見た未来が変わっていることに気づいたのよ。


「なに? どういうこと? 占いって結果変わるの?」

ジェリーさんは訝しげよ。

「変わりますよ。そうでなければ、「助ける」なんて出来ないです」

未来は変わる。変えることができる。

だからこそ、ビーストに襲われる未来を持ったひとをビーストに襲われない未来に導くことが出来るのだもの。


マーキング跡のあったあの場所で、私が予想したビーストは2頭。

でも。


「ビースト、もっといますね。5、頭…です」

しかも、私たちの先回りをするように潜んでる。

「5頭?!」

「場所も、もっと手前です」


ライドさんは腕を組んで、ふむ、と少し考えてから言った。

「俺たちの行動を読んでるってことか」

そうね。ビーストを探している私たちがマーキングの跡を見つければ、その場所にまた来ることは予想できると思うわ。


セスさんが頷いた。

「昼間、自警団に同行していたのを知っているんだろう」

「誰が…、っ懐柔の魔法石を持ってるやつ?」

ジェリーさんの言葉にライドさんが頷く。

「おそらくな。ビーストを操って、俺たちを襲わせるつもりなんだろう」


「ライドを狙って、か?」

「敵の狙いはやっぱりライドってこと?」

セスさんとジェリーさんが同時に言って、ライドさんは苦笑いしている。


「………………」


ライドさんが狙われるのは、やっぱり王子様だからかしら。

王子様だと何故狙われるのか、は分からないけれど、以前、恨みを買いやすい職業だとかって言っていたじゃない?

あれはハンターのお仕事ではなく、王子様のお仕事の方だったのかもしれないわ。


「分からないさ。俺を狙うにしてはやり方が回りくどい」


まあ、確かにね…。

ライドさんを狙うためにビーストを準備する、なんて…。ぶっちゃけ、準備の方が大変よね。


「まあ、じゃあ、それは置いておいて。どうする?」

「5頭は、発信器をつけて追い払うにしても多い」

「そうだな。…あいつを呼んでおくか」


あいつ…?


「いいんじゃない。どの道、コロニーを見つけた後は僕たちだけじゃ対応出来ないだろうし」

「間に合うのか? 今、どこにいるんだ?」

「昨日確認したときはポタモス地域にいると言っていた。ギリギリだな」


そう言いながら魔法石を操作して、「あいつ」に連絡を取っている。

スピーカー機能で電話をするように、相手の声も聞こえるようになっていたわ。

呼びかけに応えたそのひとに、ライドさんはざっくりと明日の作戦を説明したの。


「分かった。だが、追跡するのに5頭もいらねぇだろ。その内2頭をウチにくれねぇか?」

一頭は最近結婚したハンターさんへのご祝儀。もう一頭は明日協力してくれるハンターさんたちと分けるんですって。

ライドさんが了承すると、そのひとは必ず駆けつけると約束してくれたわ。

そうして、ビーストを追い払うのを手伝ってくれるって。



そうなの。昨夜ライドさんが「あいつ」と言った、そのひとこそ今目の前にいる、リアム・ペレットさんよ。

ハンター協会の代表なんですって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ