目的
次の日の食事当番はセスさんだった。
セスさんの料理は肉肉しくてボリューミー。
朝から肉の塊が出てくるのよ。塩胡椒のシンプルな味付けで美味しいのだけれど、とにかく量が多い。
文句はないわよ? 共同生活だし、私の作った料理だってみんなちゃんと食べてくれるんだし、お互い様だものね。
でもやっぱり、朝からこの量、キツイわ…。
お皿のお肉を一口サイズに分解していたら、ジェリーさんが遅れてやって来たわ。
あくびを噛み殺していて、眠そうね。
「調べたよー。動物を手懐ける魔法石のこと」
そう言ってコーヒーをすするの。
すごい。昨夜の今朝で、もう分かったの?
どうやって調べたのかしら。
「あったのか?」
ライドさんの言葉にジェリーさんは頷いた。
「あったよ。でも禁忌扱いになってた。正式には“懐柔の魔法石”って言って、レアリティが4種類。大・中・小、そして特大。希少種で数はほとんど出てないね。手懐けるっていうより操れるみたいだったよ。操る動物一頭に対して魔法石ひとつを消費する。そして、効果を発する魔法石の大きさは動物の大きさに比例する」
「禁忌? まさか…」
セスさんの瞳が鋭く光った。
まさか、って?
「そのまさか、だね。人間にも効果がある、可能性があるからってことらしいよ」
人間にも効果が…? 人間を操れるってこと?
それってずいぶんヤバいのでは?
「禁忌扱いというのは?」
尋ねたら、ライドさんが教えてくれたわ。
「魔法石の中には、平和的な活用方法が無いものや悪用されると危険なものがあってね。そういうものは利用を禁止されてるんだ。発見された場合は王宮の保管庫で厳重に管理される」
なるほど?
使われたらヤバい魔法石がイロイロあるってことかしら。どんなものがあるのかしらね。
「厳重に、ということはそこから持ち出された、ということは」
「有り得ない」
およ?
ずいぶんはっきりと、それも間髪入れない感じで否定されたわ。
「だが、状況的にそれが使われたと考えるべきだ」
セスさんがそう言って、ライドさんはうーむと腕を組む。
「状況的に?」
首を傾げる私に、ライドさんが説明してくれたところによるとね。
ロイスの死体の周りの川原はビーストに襲われたにしては綺麗だったというのよ。
普通はもっと爪痕やマーキングの跡が残っているものなんですって。
マイクが現れたとき、ライドさんたちは川原でビーストが残した痕跡がないかを探していたのね。
「今回はそれが見られなかった。ずいぶんと行儀良く襲っているんだ」
行儀良く人を襲うビースト。そんなビーストがいるとは考えられなくて、それよりは魔法石を使われたと考える方が、可能性が高いということね。
「誰かが、非正規に懐柔の魔法石を手に入れたってことですか?」
利用が禁止されていて、正規には手に入らないのだものね? 解体業者を通さずビーストから魔法石を取り出したってことになるわ。
そしてそれが、希少な懐柔の魔法石だった。
「そういうことになるね」
「ビーストや魔法石を密売しようとする輩が、把握されてる以上にいるってことかなー」
「参ったね」
ライドさんは肩をすくめたわ。
でも、そんなに「参った」って感じじゃないのよ。
「ことは深刻だ」
「分かってるよ」
セスさんが釘を刺すように言うけれど、いなすように頷くの。
そうして不敵な笑みを浮かべて言ったのよ。
「大丈夫。俺にはヨツバがいるからな」
どきっとしたわ。
だって、その微笑みがとっても魅力的に見えたのだもの。
ライドさんはもともととても素敵よ。優しくて逞しくて顔立ちも整っていて凛々しくて。
でも、ちょっと年上だし、頼れるお兄さんって感じに思っていたの。
だけど、もしかしたら、私…。
「………まずいわ」
「ヨツバ? 何か言ったか?」
「えっ?! いえいえ? なんでも」
「確かに、ヨツバの占いはよく当たるよね。っていうか、外れたところを見たことがないよ」
ふと見ると、いつの間にかジェリーさんのお皿は空になっていたわ。後から来たのに。
私のお皿にはまだまだお肉があるのに。
「…ハズレることも、ありますよ? 黙ってるだけで」
「ふーん?」
せっせとお肉を口に入れる。
予知の力のことは言いたくないのよ、ジェリーさん。
話を逸らしたいなぁ。
「…目的は、何なのでしょうね?」
「目的?」
「魔法石を使って、ビーストを操る目的です。ロイスってひとを殺すため? でも、ロイスは密売組織のバイヤーだったんですよね? どうして殺されちゃったんでしょう」
セスさんが冷ややかな笑みを見せたわ。
「組織に属する人間が同じ組織の人間から命を狙われる理由は限られている。おおかた、裏切り行為をしたんだろう」
「そんなところだろーね。でも、ロイスを殺すためにビーストを操るかっていうとそれはどうかと思うよね」
そんなことするより簡単な方法がある。
「マイクは銃で殺されているしな」
「そのマイクはライドさんを殺そうとしていました」
「マイクはライドを殺せば自分は殺されないと思っていた。なぜだ?」
「密売組織がライドさんを狙ってるってことですか?」
「前の街でビーストの密輸を阻止したじゃない? あの連中も今回の密売組織の仲間だったのかも」
密輸を阻止したライドさんが邪魔だってこと?
「でも、あのとき、マイクを撃った犯人はマイクじゃなくてライドさんを撃つことも出来たんじゃないでしょうか?」
「…だが、俺ではなくマイクを撃った。俺を殺すよりマイクの口封じを優先した」
「結局、殺したかったのはマイクってことー?」
「それならなぜ、ライドを襲わせた?」
「返り討ちにあえばラッキー、とか?」
「どちらにしても、ひとを殺すためにビーストを使うのは合理的じゃないな」
合理的じゃない。
ライドさんの言葉に納得しちゃうわ。
犯人がそうでもしなくちゃ殺せないほど非力だ、というならともかく、マイクを狙撃できるならロイスだって同じように殺せたはず。
ビーストに殺させる理由…。
「よっぽど憎んでいたか、餌にするため…?」
「君、すごい発想するよね」
ジェリーさんが半目になった。
「だが、あり得る。裏切り者への制裁とビーストへの餌。一石二鳥だ」
セスさんがそう言うとライドさんも頷いた。
「ビーストを操る本来の理由は、他にあるんだろうな…」
んー。ビーストを操って出来ること。何があるかしら。
ビースト、と言えば。
「………………」
「ヨツバ? なにか思いついた顔をしてるな?」
うん?
ライドさんが顔を覗き込むようにして言うの。
やだ。近いわ。
「思いついた、というか。ビーストって、群れを作ることは稀なんですよね?」
「ちょ、っと待って。まさか…!」
目を見開くジェリーさんはなにを言い出すんだと言わんばかりよ。
でもね?
「ビーストを操れたら、意図的にコロニーを作らせることも出来るんじゃないかな、って」
そう、思っちゃったの。
「確かに、出来るかもな」
そう言ったライドさんの表情は厳しいものになっていたわ。
「それこそ、なんのために?」
「増やして密猟するため、でしょうか」
「密猟したところで簡単には捌けないよ? ビーストに関しても魔法石に関しても売買についての取り締まりは厳しいんだから!」
「でも、実際、密売組織っぽいものがありそうですよね?」
「あっても、密売が成功する可能性は低いよ」
「じゃあ、正規ルートのハンターさんがもっと儲けたがってる、というのは?」
ビーストが増えればハンターの仕事も増える。当然、収入も増えるでしょう?
「…そんな。もしそうだとしたら本末転倒だよ」
私の意見にジェリーさんは唖然としていたわ。
「やはり、ヨツバの意見は面白い」
セスさんはそういうけれど、そんなに突飛かしら。
実際のところどうなのかは分からないわ。もっと全然違う目的でビーストを操っているのかもしれないもの。
なんにしても。私の占いから話を逸らすことが出来て、ほっとしたわ。
私は最後のお肉を口に入れて、そっとコーヒーを飲んだ。




